怒りっぽい読者さん
シュールなドタバタ
彼女はとても苦しんでいた。
クラスの権力グループに毎日購買にパンを買いに行かされ、しかもお金まで払わされていたのだ。
僕は見て見ぬフリしかできなかった。
どうにかしてあげたいと思いながら、見ているだけのことすらできず、見ないフリをするしかできなかったのだ。
クラス最底辺に位置する男子生徒であるこの僕などに、遠い異世界にも等しい女子同士のいじめ問題なんかについて、何をしてあげられることが出来ただろう。
あぁ……、この僕に何か特別な力があれば。
あんなブスどもにいじめられている彼女を、救ってあげることができるのに。
ある日僕は学校帰りに転んだ。
何もないアスファルトの上で、突然前につんのめり、額を地面で強打した。
神様の姿が見えた。
神様は、言った。
『特別な力が欲しいか』
僕は答えた。
『欲しい!』
『どのような力を望む?』
『権力だ!』
僕は怒りを振り絞って、即答した。
『どんな権力もチンケなものにしてしまうほどの大きな権力が欲しい! それがあれば、彼女をクラスの権力グループのブタ女どものいじめから救い出せるんだ!』
『やろう』
僕の頭の中が切り開かれた。
空からUFOみたいな光が降りてきて、甲虫の腕みたいなのを底面からいっぱい出して、僕の脳を改造し、僕の中に光の玉を埋め込んだ。
こうして僕は超人『ミート・校門』として生まれ変わったのだった。
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ここで読者さんから感想がついた。
【なんだよミート・校門って。ふざけるな】
【もうちょっとましなネーミングセンスないの?】
うーん。これはこれがどういうお話かわかりやすくするための超人名なんだけどな。
でも、それでも確かにもうちょっと読者さんに納得してもらえる名前はありそうだ。
僕はAIを駆使してヒーロー名を改めることにした。
小説投稿サイト『小説家になりお』に僕が投稿を始めてもうすぐ半年になる。
高校生を主人公にしたスッキリするヒーロー小説ばかり書いているうちにファンもついて、ランキングにもぼちぼちと顔を出せるようになった。
元気さが取り柄なので若いと思われているようだが、じつは45歳だ。
さて自己紹介をしているうちにいい名前が見つかった。これなら読者さんも納得してくれるだろう。
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こうして僕は超人『ミート・ザ・アナル』として生まれ変わったのだった。
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即座に読者さんから新たに感想がついた。
【却下】
【コーモンから離れろ】
【それになんかキ○肉マンっぽい】
仕方がない。また探そう。
名前をシンプルに『ミト』にすると、なんとか読者さんは納得してくれた。なんだかアルファロメオに同じ名前のクルマがあって印象がよかったようだ。
僕は続きを書いた。
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こうして僕はスーパーヒーロー『ミト』として生まれ変わったのだった。
見た目は何も変わらない。ただ、胸ポケットにいつも『インロー』という、なんというか黒い石鹸箱みたいなというか、スマホみたいなものが入っていて、それが僕が神から授かった日本最強の武器なのだ。
早速、僕は次の日学校へ行くと、その時を待った。彼女がいじめられるのを──
いじめグループの下っ端の女が彼女に近づき、彼女の名前を呼んだ。
「おい、桃瀬」
彼女『桃瀬多呂湖』さんは、怯えた表情の顔を上げた。
女は、言った。
「今までいじめてごめんな。謝るわー。今日から一緒にお弁当、食べねー?」
桃瀬さんが『一体どういうこと?』みたいに首を傾げると、下っ端の女はフレンドリーな笑顔になり、言う。
「いやー、知らなかったんよ。おまえのお兄さん、アイドルグループ『ラブリー・ゾーン』のマレウスくんの同級生の弟さんの友達のお父さんがやってるカフェの常連なんだって? すげえじゃん! 今度マレウスくんにサインもらって来てって、お兄さんの行きつけのカフェのマスターの息子の友達のお兄さんに頼んでよ」
こうして彼女へのいじめは終わったのだった。
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【終わったのだったじゃねーよ!】
【能力使えよ!】
【お約束の場面を書け!】
読者さんたちからクレームがついたが予想通りだった。
彼らはヒロインが何事もなく幸せになることなど望んでいないのだ。わかっている。
彼らはひとえにドロドロ展開からのスッキリのみを望んでいるのだ。わかっている。
大体、これでいじめがなくなったわけではないのだ。おそらくは標的が桃瀬さんから別の子に移っただけで、誰かへのいじめはまだ続けられていくことだろう。やはり主人公による『インロー』の場面は絶対不可欠なのであろう。
それでも僕が展開をひねりのあるものにしたのはなぜだろう?
なんとなく、読者の期待を裏切ってみたい気分になったのだった。
大体にして怒りっぽい読者さんというものは期待の引き出しが少なすぎる。自分の思った通りの『それ』にならないとすぐに怒りだす。けっして期待の斜め上などをいってはいけないし、期待をスカす展開なんかにしてしまった日には『ふざけんな!』『読んじまったじゃねーか』『時間を返せ!』となるのだ。
そんな読者さんなんかの思い通りになってたまるかという気持ちが、正直あった。
もちろん自分とて、あまりにふざけた展開の小説を読んでしまったらガッカリする。しかし、その読んでしまった小説を、自分の思う通りに書き直させようとは思わない。それはその人の書いたその人の小説であり、その人の世界だからどうすることも出来ないのだ。だから僕はガッカリはするが、怒りはしない。
怒りっぽい読者さんたちはしかし、一旦読みはじめてしまったからには、自分らの思っている『それ』になるまで書き直しをさせる。
僕も彼らに喜ばれたいから、書き直しをする。
僕は二人の仲直りをなかったことにし、再び桃瀬さんへのいじめを開始させた。
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いじめグループの下っ端の女が彼女に近づき、彼女の名前を呼んだ。
「おい、桃瀬」
彼女『桃瀬多呂湖』さんは、怯えた表情の顔を上げた。
女は、言った。
「お昼だからパン買ってこい。金は立て替えとけな」
そう言いながら、どうせ払うつもりなどないのが見え見えだ。
僕は胸ポケットの中の『インロー』に向かい、小声で言った。
「スケさん、べーさん、やっておしまいなさい」
げっへっへといやらしい笑いを発しながら、セクハラおじさんが二人、現れた。
二人は手をワキワキとさせながら女に近づくと、ボディータッチ系のセクハラ行為を開始した。
……あれ。絶対に読者さんからお怒りの感想が来ると思ったのに、静かだ。もしかしてこういうのはお好き? よし、続けよう。
「ひああああっ……!?」
ボディータッチされた女が悲鳴をあげた。
桃瀬さんは何が起こったのかわからないような顔で固まっている。
それを聞きつけて、いじめグループのリーダー格の蝶野雨量子が立ち上がった。
「ちょっと! 何事?」
雨量子はそう言うと、名前の通りの超能力を使った。
「キモいオッサン二人をデリート」
雨量子がそう言っただけで、僕が召喚したスケさんとべーさんはたちまち消え去った。消える間際に見えた表情はJKのボディーにタッチしまくれて産まれてきてよかったというような笑いを浮かべていた。
仕方ない。下僕二人がやられたからには僕の出番だ。
僕は音を立てて立ち上がると、胸ポケットから『インロー』を取り出し、前に掲げた。
二人がいなくなったので仕方なく自分で言った。
「控えろクズども。この『インロー』を見やがれ。この俺を誰だと思ってやがる!」
蝶野雨量子が言った。
「誰だよ」
僕はクラスの中で一番級に影が薄いので名前も覚えられていなかったようだ。
しかし少し前の僕ならここで恐縮して何も言えなくなってしまうところだが今は違う。
僕はクラス最高の権力を使えるヒーロー『ミト・ザ・コーモン』なのだ。
読者さんから何かツッコミが入るかと思って緊張したが、何も言われなかったので、堂々と名乗ってやった。
「俺はミト・ザ・コーモン! このクラスのショーグンだ!」
「しょ……、ショーグン?! なんだそれは。コイツ頭がおかしいのか?!」
「この『インロー』が目に入らんのかーッ!!」
僕は自分のスマホを勢いよく前に掲げ、改造された脳からドピュドピュ送られる麻薬物質に身を任せ、一喝した。
蝶野雨量子はじめとする権力グループ女子たちは僕の勢いに気圧されたのか、息を荒くして後込みすると、揃って土下座した。
「へへーっ! なんだか知らないけど、へへーっ!」
僕は上から見下ろしながら言ってやった。
「おまえらの悪事、ずっと見て見ぬフリしておったが、もう黙ってはおれん! 僕のかわいい桃瀬多呂湖さんをよくもいじめたな? おまえらなんか、こうしてやる!」
スーパーヒーロー『ミト・ザ・コーモン』は自らの手は汚さない。
教室の後ろの扉をガラッと開いて風車を口に咥えたオッサンが入ってきた。
蝶野たちに近寄ると、オッサンは言った。
「おまえら停学処分な」
指導教諭の矢七田先生だった。
すべてを丸く収めて一件落着させると、僕は桃瀬多呂湖さんに優しい言葉をかけてあげた。
「辛い思いをしたね。でももう大丈夫だ。これからはのびのびと学園生活を謳歌しなさい」
潤んだ目で桃瀬さんが僕を見る。
恋の証のハートマークが瞳に浮かんでいる。
「ありがとう、三戸くん」
そう。僕の名前は『三戸浩潜』なのだった。
「お礼にこれから毎日お弁当作ってきてあげるね」
かくして桃瀬さんへのいじめはなくなり、そもそもクラスからいじめは消え、僕と彼女は付き合うことになったのだった。
(完)
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完結した。
小説が完結すると『小説家になりお』トップページに完結済み小説として長い時間表示され、いわゆる完結ブーストが起きるはずだ。
僕はドキドキしながら感想がつくのを待った。
読者さんたちの期待には応えられたはずだ。
彼らの望むものを書き切った手応えはあった。
ハッピーエンドだ。
勧善懲悪だ。
『ざまぁ』だ。
感想がついた。
それを開き、僕は愕然とした。
【コーモンなのになぜ入浴シーンがないんだ!】
しまった! それを忘れていた!




