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7 アルザス会戦 1


 ヴァレンシュタインとシチリエ、双方の率いる両軍が激突したのは、八月十八日の早朝であった。


 ヴァレンシュタイン軍は変わらずアルザスの北側に陣を構え、五千ずつに分けた兵力を中央、右翼、左翼に配置し横陣を展開している。ヴァレンシュタイン自身は後方で本隊五千の歩兵、砲兵を率い、両側には一千ずつの騎兵を配し、予備兵力としていた。合計で二万二千の兵力、砲数は四十三門である。

 

 ただしヴァレンシュタインは騎兵連隊三千を本隊と切り離して戦場から北東五キロの地点に配置、伏兵としていた。これを合わせれば二万五千の兵力となる。


 一方シチリエ軍は五万の兵力で重厚な横陣を敷き、ヴァレンシュタイン軍を圧殺する構えを見せていた。元より東西の両端には分岐したリモジュ川が流れているから、横陣を大きく展開することが出来ないのだ。

 その意味ではヴァレンシュタイン軍にとっても、包囲される危険性の無い場所であった。


「包囲されるよりは二正面作戦の方が、まだしもマシだとヴァレンシュタインは考えたのであろう」


 少なくともこのようにシチリエ大将は考察し、敵陣よりも北の平原に陣を構えている。敵軍の意図を察した上で、なお自軍の有利は動かないと確信して会戦を挑むつもりなのだ。


 双方が構えた陣営の距離は、一キロに満たず。

 シチリエ大将は夜明けと共に、攻撃を命じるつもりであった。


 ■■■■


「さて、準備は整ったな」


 東の山の稜線に、光の筋が走っている。夜が明けようとしていた。

馬上にあるヴァレンシュタインは落ち着き払い、傍らに控えた十三歳の娘に優し気な視線を送る。娘は山々から飛び立つ鳥達を見つめ、「わぁ」と感嘆の声を上げていた。


 夜の藍色が金色の朝日に空の支配権を譲り始める頃、地上では、この地の支配権をめぐる二つの勢力がそれぞれの動きを見せていた。キーエフ軍とランス軍だ。


 ヴァレンシュタインは娘から視線を切り、前方で黒々と蟠る敵影へと琥珀色の瞳を向けた。どうやら娘も同色の瞳を敵へと向けて、不敵な笑みを浮かべているようだ。


「烹炊の煙がチラホラと上がっていますわね。どうやら敵は、夜明けを待って攻撃を仕掛けてくるようですわ」


 父は不安だった――普段は大言壮語を吐く娘が、肝心要の時に怖気づくのではないのかと。だが、それは杞憂だったらしい。


「うむ。だが私が敵を待ってやる必要など、無いのだろう?」

「当然ですわ。あとは、お父様が兵の動かし方さえ間違えなければ、アルザスともども勝利を手にすることが出来ますのよ。さあ行け、父よ!」


 朱色のツインテールを南風に靡かせ、フンスと小さな胸を張るルイーズ=フォン=ヴァレンシュタイン。

 

「やれやれ。大将に命令を下す伍長など、聞いたことが無いね」


 元気よく言う娘に目を細めて苦笑し、ヴァレンシュタインは全軍に前進を命じた。

 キーエフ軍が前進を開始すると、その動きを察知した敵の陣営も慌ただしく動く。


「反応が遅い……全軍、速歩に切り替えよ」

 

 ヴァレンシュタインの命令に合わせて、歩兵が速度を上げていく。まだ彼我の距離は五百メートル程もあるから、到達する頃には敵の陣形も整っていることだろう。


 それでも十分に、敵の虚を突いたとヴァレンシュタインは満足だった。

 寝起きで朝食の準備をしていた者が、いきなり剣林弾雨の中に突入する覚悟など出来るわけが無い。気合が入らなければ、どうしたって恐怖が先に立つものだ。


 結果としてランス軍はどうにか陣形を整えたものの、全体的にバラつきが見える。総司令官の命令も無く、発砲する部隊まで出る有様であった。


「全軍、止まれッ! 射撃用意ッ!」


 既にランス軍からの散発的な射撃は始まっているが、それでも射程距離まで冷静に距離を詰めたキーエフ軍だ。彼等はヴァレンシュタインの号令に合わせ、一斉に銃を構えた。


「撃てッ!」


 パパパパパパパパパパパァーン!


 最前列に並ぶ五千の兵が、一斉に射撃を開始した。火花が飛び散り銃弾が放たれ、白煙が濛々と立ち込める。それと時を同じくして、味方からの砲撃が始まった。着弾地点となった敵の後方では土砂が巻き上がり、人馬が千切れ乱れ飛んでいる。血と肉片が乱舞して、いよいよ戦場は阿鼻叫喚の地獄へと変わるのだった。

お読み頂きありがとうございます!


思いのほか戦闘が長くなったので二話に分けました。


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