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74 西部国境戦線 5


 雄叫びを上げるロッソウを先頭に、ダランベル軍が誇る重装騎兵が突撃をした。

 ロッソウの率いる兵は三千と少ないが、誰もが一騎当千の精鋭だ。加えてキーエフ帝国軍の本営は燃え広がる火災に対応すべく、散々に乱れている。ましてや遠方から轟音を響かせ大地を穿つダランベル軍の新型大砲に戦々恐々としている今、ロッソウは無人の野を行くが如くに悠々と敵の陣営を突破した。


 ロッソウは余裕綽々、血濡れのハルバードを肩に担いでオイゼビウスの前まで駒を進めると、鬼火のような眼光をちらつかせて問う。


「キーエフ帝国軍の総大将と見受けるが、如何ッ!?」

「いかにも私が帝国軍ダランベル方面軍司令官、オイゼビウスだ――で、貴官は?」


 馬と剣を巧みに操り、幾人かのダランベル騎兵を切り殺した後でオイゼビウスは振り向いた。ロッソウのただならぬ雰囲気に、己が死を嫌でも予感する。


「ワシはダランベル連邦軍第一師団長、ヨアヒム=フォン=ロッソウじゃ。見知りおけ」

「ほぉ……あんたが鬼人ロッソウか。だが、とうに六十は過ぎているだろう? であれば老い先の短い身、生き急ぐことも無かろうに」

「ほざけ、若造が」

「……忠告はしたぞ」


 燃え盛る炎を赤々と反射して、オイゼビウスが軍刀サーベルを横に構えた。

 ロッソウは興味も無さげに「ふん」と鼻を鳴らし、愛馬の足の赴くままにオイゼビウスの横を通り過ぎる。ハルバードを一閃させた。軍刀サーベルとハルバードが交差して火花が散り、戛然たる音が鳴り響く。


 ロッソウの白髪が数本ひらりと宙に舞い、オイゼビウスの首筋に赤い線が走った。


「ワシの攻撃を紙一重で躱したか。ふむ……しかし、その太刀筋……見たことがあるのォ」


 オイゼビウスの剣技は、プロイシェのジークムント王子と同じく回転運動を利用したものであった。ロッソウは目を細め、じっと相手を観察して奥歯をギリと鳴らしている。


「ふ、ふはは……私と同じ太刀筋を? どこでかな?」

「プロイシェのジークムントとかいう小童めが、似たような技を使っておったわ」

「なるほど……次はジークムントというわけか。ふは、ははははッ! そいつは面白い! ははははッ!」

「……何がおかしいのじゃ?」

「さてな――……ともあれ輪廻の神髄は知らぬまでも、初見ではない、ということか」

「そうじゃ! ゆえに二度は後れをとらぬッ!」


 ハルバードを再び構え、ロッソウは馬腹を蹴った。

 オイゼビウスはコキリと肩の骨を鳴らし、半円を描くように軍刀サーベルで下から斬り上げる。

 ロッソウは視線をまっすぐ先へ向けたまま、手綱を引いて馬体を持ち上げた。前足を高々と上げて軍馬を止めると、鋭いハルバードの打ち下ろしを相手に見舞う。


 再び銀光が交差した。刃と刃がぶつかりギィィンと甲高い音が鳴り響く。互角だ。

 五合、十合と刃鳴りの音を周囲にまき散らすも、決着は容易に着きそうもない。

 

 そのとき、爆音と共に濛々と煙る先から禿頭の戦士が現れた。筒状になった右腕から煙を噴き上げ、左手に血濡れの軍刀サーベルを握っている。オルトレップであった。


「輪廻と聞いては、俺も捨て置けん。オイゼビウスとやら、覚悟しろ」

「ぬぅ、オルトレップ!? ワシがせっかく一騎打ちと洒落こんでおるのに邪魔をしおって!」


 オルトレップは義手に仕込んだ大砲でオイゼビウスの馬を撃ち、爆散させている。お陰で投げ出された格好のオイゼビウスがヨロヨロと身を起こし、泥に塗れた顔を左手で拭っていた。


「まったく、腕に大砲を仕込むなど――なんと出鱈目な」


 それでもオイゼビウスはニヤリと唇の端を持ち上げ、笑っている。そして言葉を続けた。


「ともあれ惨敗というのであろうな、これは。しかしまぁ――悪い気分ではない。闇に生きた私が、こうして堂々と戦いの最中に死ねるのならば」

「そうか。ならば遠慮なく、逝けッ!」


 ロッソウがハルバードを閃かせ、オイゼビウスに突きかかる。負けじとオルトレップの軍刀サーベルも弧を描き、オイゼビウスの肩口を切り裂いた。


 ロッソウのハルバードとオルトレップの軍刀サーベルにより、オイゼビウスは致命傷を得た。ジワリと腹部に血が滲み、肩口からは血が噴水のように噴き出している。けれど彼は、なおも笑みを浮かべていた。


「死は、終わりではない。貴様らもいずれ……輪廻の極意を知るだろう、はは、は、は、は」


 オイゼビウスはバタリと地面に倒れ伏し、血だまりの中で動きを止めた。最高指揮官を失った本営の部隊は散り散りに逃げて、もはやキーエフ軍は壊滅の兆しさえ見せている。

 それでも十万を超える大軍は、崩壊に至らない。オイゼビウスの幕僚が指揮権を引き継ぎ、全軍を統率したからであった。

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