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25 兄弟相克


 国王一家の処刑を強行したことで、ランス革命政府に対する諸外国の圧力は更に増している。

 既に国内深くへ侵攻中のキーエフ帝国はもとより、海峡を挟んで北側にあるウェルズ王国も艦隊を派遣し、西方からはリスガルド王国が二個軍団を進発させていた。


 列強の君主たちにしてみれば、王であることが罪だなどという理屈は断じて認めることが出来ない。よしんば主権が国民に移るのだとしても、ならばと断罪される謂れなど無いからだ。であればキーエフ帝国の呼びかけに応じ、列強各国が対ランス包囲網を敷くのも道理であった。


 対するランス側は国王シャルルを処刑したことで、ヴィルヘルミネとの同盟もご破算だ。であれば彼女の武力を恃む訳にもいかず、これぞ正しく灰色を受け入れないアギュロンの、愚かな清廉潔白さが招いたことだった。


 かかる事態にアギュロンは「国家非常事態宣言」を発し、十六歳以上の健康な男子を全て徴兵することにした。兵器工場では二十四時間休みなく銃、銃弾、大砲が作られて、俄かに経済も回復したようだ。

 各地で起きた反革命の反乱も、国が滅んでは本末転倒と、条件付きながらも政府に恭順の意思を示していた。となればランスの政情は、継ぎ接ぎながらも一先ずの安定をみたことになる。


 しかし問題は、国内を纏めても誰が外敵を打ち破るか――ということ。だから革命政府は今、優秀な将軍を探すことに必死であった。

 とはいえ護国の英雄マコーレ=ド=バルジャンを失い、王国の武を担ったレグザンスカ家を処断した以上、革命政府が頼れる将軍は少ない。だから、その少ない将軍と繋がる人物が国防委員長になるのは、至極当然の人事であった。

 

「だから――オーギュ、やってくれるな」


 国防委員長となったファーブル=ランベールが庁舎に呼んだのは、辞令を発してわざわざ遠方に飛ばした弟だ。

 

「俺はバルジャン派だ。今更アギュロン派に鞍替えする気はない」


 ぶっきら棒な物言いで、執務机を前に座る兄を睨んでいる。オーギュストは不満も露に眉根を寄せて、話は終わりだとばかりにくるりとファーブルへ背中を向けた。


「待て、待ってくれ、オーギュ! お前が引き受けてくれなければ、ランスが滅ぶッ!」

「他にも将軍は、いるだろう。例えばミューラとか……」

「ミューラは北方戦線の指揮を執る。ウェルズに対する備えだ。お前が西方戦線を支えてくれなければ、ミューラは後方を衝かれることになるんだ!」

「ミューラは引き受けたのか?」

「いや、それは、その……まだだが……」

「ふん、だろうな。バルジャン閣下の死の真相を少しでも考えれば、誰もお前達の味方などしない。そもそもヴァレンシュタインの攻勢を防げもしない状態で、なぜ西や北に目を向けられる?」

「ヴァレンシュタインに対しては、各都市の防御指揮官に持久戦を指示してある。お前とミューラがそれぞれ敵を撃滅したあと、兵力を合流させて彼に対するというのが国防委員会の方針だ」

「はは、はははは――……それはそれは、見事な机上の空論だ。軍事を知らない輩が想像をたくましくすれば、こうまで滑稽な作戦が生み出されるのか」


 再び振り返って、オーギュストは口の端を皮肉気に歪めている。


「空論でも、これ以外に手は無いんだ。リスガルド軍二個軍団二万五千――……これを、お前に撃滅して貰うより他には……だから、頼む」


 ファーブルは深々と頭を下げ、震える声で懇願した。


「アデリーを殺せと命じたその口で、今度は俺に敵を撃滅しろと言うのかい、兄さん。泣き落としなんて、通じないよ」

「泣き落とし? 違う。今は国家存亡の時だ。俺は命を張っている。大義の為に生きている。お前も軍人なら、女一人のことで大義を見失うな」

「女一人だと……? アデリーはな、俺の妻になる女性だった! 貴族も平民もなく、彼女は平等を望む人だったんだぞッ! それを革命政府は殺したんだ! この国が、政府が殺したんだッ! 許せるものかよッ!」

「オーギュ。この革命を成し遂げる為に死んだのは、彼女だけではない。だから――……」

「だから、何だ? そんな言葉で正当化しなければ、自分の立場さえ守れないのか? ハッキリ言うぞ、兄さん。革命政府は、王を殺すべきでは無かった。そのせいで、より多くの人が死ぬ。政府は、その責任を取るべきだッ!」

「オーギュストッ! 言って良い事と悪い事があるッ!」

「だったら、俺も反革命罪で断頭台へ送ればいい。なあ、そうしろよ――……やってみろよッ!」

「オーギュ――……頼むから……」

「ふん。やれないんなら、もう用はない――じゃあな、国防委員長殿」


 オーギュストはバンと扉に盛大な音を立てさせ、兄の執務室を退去する。

 どうしたって、革命政府の犬にはなれない。国防委員長に逆らったとなれば、軍籍を剥奪されることになるだろう。


 ――今まで我慢をしてきたが、これ以上は限界だ。ダントリクには悪いが、好きにやらせて貰うとしよう。なぁ、アデリー、それでいいだろう……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 沈む船に残るネズミはいない。 革命政府に己の軍籍等残しておけば、断頭台はまだ名誉ある方であり、革命政府の者達と連座で仲良く銃殺でしょうね。 そうなると解っていて引…
[一言] アギュロン達がやってきたことがどんどん効いてきたって所でしょうか…アデリーを断頭台へ送ったことによりオーギュストが離脱で…でもオーギュストとダンドリクは死んでほしくないなあ。
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