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82 ミーネの敵中改革

※軍票=軍用手票。戦争時において占領地もしくは勢力下にて軍隊が現地からの物資調達及びその他の支払いのために発行される擬似紙幣(ウィキより抜粋)


 ボロジノ子爵の居館へ入り大尉待遇で迎えられたミーネは、新たな軍服に袖を通すと、すぐにも仕事に取り掛かった。普段のポンコツ令嬢とは似ても似つかぬ辣腕ぶりを、彼女はここから発揮することとなる。


 まず最初の仕事は、ゼーフェリンク家のチーズを適正価格で買い入れることであった。そこで彼女は不正の横行を知る事となる。


 当初、勝手を知らないミーネは同盟軍の兵站部糧食課へ顔を出し、ロホスへ支払う現金を貰う為に課長と折衝をした。

 不正の横行など思ってもみない赤毛の少女は、事情を話せばすぐにも売買契約が完了するものと思っている。だが実態は違い、課長との交渉は難航した。


「チーズを現金で買う? 馬鹿を言うな。補給物資の現地調達は、全て軍票で行うことになっておる」

「え? それは、おかしいですわね。ザルツァ閣下からのご命令は、現金で支払うようにとのことですわ」

「おいおい、それはエミーリア様がモノを知らんだけのことだろう。とにかく物資は全て、軍票で賄え。それが現地でのルールなのだ」

「いつからですか?」

「……最初からだ」

「そうですか。でしたらわたくし、少々そのルールとやらを、調べさせて頂きますわね」

「……ハッ、勝手にしろ」


 課長の対応を不審に思ったミーネは、さくっと過去二か月分の帳簿を精査した。数学に関して一家言あるミーネのこと、数字の並びを見れば凡そのことは分かる。

 一方で課長は、新参者かつ若輩者のミーネであれば、いくら資料を漁ったところで何も分かりはしないとタカを括っていた。

 結果はミーネの圧勝だ。課長が軍票を無駄に発行して現金を着服している事実を、彼女はあっさりと看破した。


「あら、あら、あら、課長?」

「何だ?」

「糧食の購入は軍票で、と仰っていましたが――こちらの明細では現金が支払われたことになっていますわ。一方でこちらも同じものを同じ数量、同じ日に購入していますが、軍票で買われていますわね」

「それがどうした? そういうことも、あるのだろう」

「おやおやおやぁ? 現金の伝票には商人のサインがありませんが軍票の伝票には、しっかりとサインがありますわ。課長、あなたのサインもです。うーん、これは不思議ですわねぇ?」

「な、何が言いたいのだッ!?」

「いえ、いえ。随分大量に小麦を購入していらっしゃるなぁと。ですが倉庫には、それ程の小麦はありませんでしたわ。となると、考えられることは一つだけ。

 サインの無い支払伝票は、架空――ということになります。

 ならば現金はどこへ行ったのか? それは当然、架空の伝票を発行した課長、あなたの懐と考えるのが、極めて自然ですわね……」

「き、貴様ッ! 小官を侮辱する気かッ!?」


 表情を引き攣らせて立ち上がった課長を、同課の職員が白い目で見つめている。皆、課長の所業を知っていたのだろう。ミーネは課長補佐に命じて課長を逮捕、拘禁した。

 その上で赤毛の少女は課長補佐から現金を貰い、ロホスへの支払いを済ませている。


 その後もミーネは糧食課へ戻り、さらに多くの帳簿を読みまくった。どうせ遠征軍の兵站部だ、資料といっても量は知れている。

 先程は課長の不正を見つける為に帳簿を読んでいたのだが、その他にも違和感があったのだ。いっそ全てに目を通そうと思っていた。


 そうして帳簿や資料を読み込んでみると、軍票にまつわる不正など氷山の一角であることがわかった。闇の根は深く張り巡らされていて、ミーネはついに兵站部そのものが不正の温床であることに気付いたのだ。

 全ての不正にまつわる元凶を辿れば、なんと兵站部長たる某男爵に行きついてしまった。流石にこれは報告をしなければと、ミーネは彼の不正を示す証拠を握り締め、エミーリアの執務室へと急ぐ。


「すると兵站部長が、物資の横流しをしていると言うのか?」

「はい。それどころか地域の物価が高騰しているのも、彼が物資を買い占めているからですわ。その上で彼は足が付かないよう少量ずつ軍の糧食を高値で商人へ流し、利益を出し続けています。

 つまり農民から糧食を安く買い、横流しをして高値で売りつける――……まさに悪逆非道の所業と言えるでしょうね」


 エミーリアの執務室へ戻ったミーネは、兵站部長の不正を示す書類を机の上に並べて見せた。それは彼が行った犯罪の、動かぬ証拠である。


「おのれ、あの男……捨て置かぬぞ……だが……」


 エミーリアの目が、憤怒に燃えた。だが同時に彼女は、自らの不明を恥じている。なぜ、これ程の犯罪に気付かなかったのか。


 だが貴族とは、金銭に細かく無いことが美徳とされていた。だからエミーリアは補給が滞ることさえ無ければ良しとして、全てを兵站部長へ預けていたのだ。

 そこを見事に衝かれた形だから、エミーリアの方こそ、ぐうの音も出なかったのである。気付けば縋るような目を、ミーネへ向けていた。


「……どうすれば良いと思う、ミネルヴァ? 私は貴族として、このような犯罪に対処する術を知らぬのだ」

「何を仰います、エミーリア様。こんなものに、貴族も平民もありませんわ。ここに動かぬ証拠がある以上、兵站部長に言い逃れる術などありません。罪には相応の罰を持って報いねば、軍など腐敗していくばかりでしょう」

「う、む……そうだな。では、ミネルヴァ。貴官に全て任せる……それでいいか?」

「はい、承りますわ」


 ミーネは優雅に一礼すると、エミーリアの執務室を後にした。

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― 新着の感想 ―
普段もこれぐらい仕事ができたら皆苦労しないんだろうな。やはりミーネ様は天才ですね。ただしなんか?制約があるタイプの?
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