88話 ぷんぷん
私にはある使命が生まれてしまった。そう、拗ねちゃったアスセナの機嫌を直してもらうという使命だ。お散歩を終えて家に帰ってきたけど、アスセナはずっと拗ねたまま。
「ぷんぷん! ぷんぷん!」
別に口に出す必要はないようにも感じるけど、とりあえずぷんぷん言ってる。ぷんぷん言ってるアスセナは可愛さ2割増されてて良いんだけど、拗ねちゃったのはなんとかしなければいけない。
「あ、あのねアスセナ。アルチャルは勝手に様付けしてるだけで、私はやめてって言ってるのよ?」
「でも黙認されてるんですよね。ぷんぷん!」
何この可愛い面倒な生き物。可愛さと面倒さってマッチする時があるのね。
「いや……それは……まぁそうだけど……」
一旦落ち着きましょう。なぜアスセナが拗ねているのか。それはおそらく、自分が外では様付けできないのに新参者のアルチャルに様付けを許してしまっている私に問題があるんだ。いや別に許したつもりはないんだけど。
と、とにかく! 悪いのは私だ。とはいえアスセナに外での様付けを許すわけにはいかない。私たちの関係性を少しでも怪しまれたら困る。ただでさえ勇者学校に通う私とわざわざ田舎から来て同居している友達っていう設定も無理があるのに。これ以上不審な点を増やしたら……考えるだけでも恐ろしい。
「姫様は私よりあんな女の子を優先されるのですね! ぷんぷん!」
「い、いちいちぷんぷん言わないでよ……可愛いけどさ」
それにアルチャルをアスセナより優先しているだとか、贔屓しているだとかそういうことではない。私とアスセナの関係は複雑だから……むしろアスセナの方を特別扱いしているとも言える。
「もういいですよーだ。姫様はあんな金髪の子やユーシャさんのような子が好きなんですねー。面食いさんですねー!」
「ど、どうしてそうなるのよ!?」
そ、そりゃあユーシャのことは好きだけど……今言う? それに面食いって……また古い言葉を使ってきたものね。
「私は……私だって様付けは不服よ。それはアスセナだけの特権だと思っているわ」
あくまで家の中での話だけどね。外で様付けされたらとんでもないわ。まぁそれはアルチャルにも同じことが言える。早急にやめてほしいんだけどね。
「私だけの……特権ですか?」
「えぇ。私の側にずっといてくれる、私の良き理解者でいてくれる。そんなアスセナだけに許された特権……私はそう思っているわよ」
「ひ、姫様ぁ!」
よし。なんだかいけそうな空気になってきた! ここから私のターンよ!
「そう……貴女のことが大事なのよアスセナ。外で様付けしたら面倒なことになるでしょう? 大事なアスセナに厄介ごとが降りかかって欲しくないの。だからアスセナには様付けを禁止しているのよ」
「姫様……姫様ぁ!」
我慢できなくなったのかアスセナが飛びついてきた。
「ちょ、ちょっと!?」
「ごめんなさい姫様、そこまでお考えだったのに私は……勝手に自分のわがままで怒ってしまって」
「いいのよ。謝るのはこちらの方。アスセナにはいつも苦労をかけてばっかりだから」
「そんなことはありません! 姫様にお仕えできることは私の喜びです!」
首をぶんぶん振って否定するアスセナ。その眼は本気だった。
「ふぅ。一件落着ね。もう一度言うけど、アルチャルには私もやめてほしいって思ってるから。特別扱いとかじゃないから安心しなさい」
「は、はい!」
よかった……なんとか話がまとまったわね。それにしてもアルチャルはアルティス学園長になんの用事だったんだろ。ちょっと気になるわ。




