182話 伝説の勇者
私たちは再び魔王室へとやってきた。引き連れた人数はさっきより4人増えている。
「……次はないと言ったはずだが?」
魔王は私たちに背を向けたまま小さく呟いた。その言葉には確かなる怒気が感じられる。
初めて魔王を見るセレナやビエント、メランはその圧に押されているみたい。
「みんな覚悟の上で来たのよ。ここで逃げたら……何も変わらないから!」
「ふん」
魔王はゆっくりと立ち上がった。彼の体内に巡る魔力がどんどん大きくなっていくのを感じる。
「ならば、ここで死すがよい」
魔王の左手に紫色の雷のようなものがまとわりついた。『紫電』だわ……。
パンパン!
……空気の読めないアルティス学園長の手拍子に、ここにいる全員がこけそうになる。
「何やら最終決戦にもつれ込みそうですが、一度手を止めていただいてもよろしいでしょうか?」
「……何だ貴様は」
アルティス学園長の特異性を見抜けない魔王ではないはず。その得体の知れない雰囲気に最大限警戒しているようだった。
「ほら、来てくださいラファエル」
「また真名を……もういい、諦めた」
「え、えぇ!?」
アルティス学園長の中から……黄色いアルティス学園長が現れた!? 双子のアルチャルとは色も同じだから似ているというか、ツインテールを解いたらもはや同一人物になりそう……。
ラファエルと呼ばれた黄色いアルティス学園長は魔王室の空気を触るかのように手を動かした。何かを探しているように見える。
「あーっと、あったあった。んじゃ同化するわね」
「はい。よろしくお願いします」
「『聖:天魂融合』」
黄色いアルティス学園長が魔法を呟いた瞬間、辺りが一気に輝き始めた。
そして感じる。あの黄色いアルティス学園長がとんでもない魔力を持ち始めたことを。強く、優しく、温かい魔力だ。
光が引き、そこに立っていたのは黄色いアルティス学園長ではなく、白い髪の女性。
「う、うそ……」
隣でユーシャがポツリと声を出した。
「どうしたの?」
「なんで……お母さん!」
「……え?」
「貴様ぁぁぁぁぁあ!!!」
私とユーシャの声をかき消すほどの声で魔王が叫んだ。
そりゃそうよね……だってあの女性がユーシャのお母さんってことはつまり、伝説の勇者ということだから。
「ハロー魔王さん。元気してた?」
「黙れぇ!」
魔王は『ブラック・ウェーブ・シューティング』を最大出力でユーシャのお母さんに向けた。あれを受けたらひとたまりもない。どうするの!?
「『セイクリッド・リフレクト』」
いとも簡単に魔王の技を反射してしまったユーシャのお母さん。
「お、お母さん!」
ここでユーシャが我慢できずに叫ぶ。その声を聞いてユーシャのお母さんはこちらを向いた。
「大きくなったわねユーシャ。それから強くもなったみたい……お母さん嬉しいよ」
「勇者ぁぁ!」
「あー、うるさい。ちょっとBe quiet でお願いします」
そう言ってユーシャのお母さんは魔王を白い箱の中へ閉じ込めてしまった。
「魔王なら5分もすれば出てくるから簡潔にお話ししましょうね。ラファエルの契約者は……あなたね」
「はい。お初にお目にかかります」
何が何だかわからない。
この状況を理解するため、ユーシャのお母さんの言葉を聞き漏らすことのないように努めることにした。




