178話 魔王と対峙
「リリーか」
ぞくっと、お腹がねじれるような思いがした。
これが魔王の言葉が持つ重力であり、圧。
「ここまで来たわよ……」
私は勇気を振り絞って声を出した。魔王は私たちに背を向けている。まだ魔王は私しかいないと思っているはず。
ここで奇襲をかける? いや、できれば平和的に解決したい。こちらから仕掛けて厄介なことになるのは避けたいところだわ。
「卒業おめでとう……と言いたいところだがなぁ、リリー。お前は勇者の卵一人でも潰したか? お前の戦績を述べてみよ」
魔王は振り返ることなく、私に問うてくる。
「勇者の卵となり得るものはいませんでした。それがすべてです」
ユーシャの、シルディの、ヒラの、アルチャルの顔を見る。みんないくらかの恐怖は感じているようだけど、逃げようという者はいない。
「そうか。して、その者たちは何者だ? 人間の匂いがする」
……見ていないのに、わかっているわけね。化け物め……!
「私はユーシャ。あなたが殺した、伝説の勇者の娘!」
ユーシャは高らかに宣言してみせた。
その言葉を聞いた魔王はユーシャと同じく高らかに笑い、振り返る。
鬼。そう形容するのが一番見合う顔に、私たちは怖気付き、一歩後ろに下がった。
「面白いことを言うものだ、勇者の娘を連れてきたとは……リリーよ、どういうことか説明してみよ」
そう言って魔王は立ち上がる。玉座から腰を離した瞬間、留まっていた魔王のオーラとも言うべきものが放出され、私たちの足を絡め取った。
「説明……わ、私たちは、この戦争を終わらせに来た!」
「……ほう?」
「お父さん、この戦いをやめて! もう誰も争いで死ぬことがない世界を作って!」
娘が父にわがままを言う。ただそれだけのことを、私は叫んだ。
「……何を言うとるんだお前は」
「……え?」
魔王は本当に、心底意味がわからないという表情で私を見つめてきた。
「争いは生命の求める本質的欲求。それをやめろというのは理解できぬな」
「た、ただ戦いたいだけなら仮想戦闘空間がある! 誰も現実では傷つかない! それでいいじゃない!」
「ふん、わかっておらぬな」
魔王は静かに笑い、私を見放すような態度を取る。
「さて、我の部屋に人間を連れてきた罰、どうつけるべきか……」
魔王は剣を抜く。魔界に伝わる伝説の魔剣、[ディグラム]を。
「やめてよお父さん……戦いたくなんてない!」
「それは貴様が弱者であるからだ!」
魔王は珍しく声を張り上げた。私たちはその圧に飛ばされそうになるところをグッと堪え、恐ろしいながらも向き合った。
「さぁ構えよ人間ども。貴様らを殺し、リリーにも罰を与える」
剣を構えた魔王にもはや言葉は通じない。
「やるしかないよ、リリー」
「あぁ。こうなりゃ覚悟を決めようぜ」
「立ち向かいましょう。みんなで」
「リリー様が罰せられるところを見てはいられません」
みんな、戦う姿勢を見せてくれる。
もちろん、みんな戦いたくなんてない。その戦いを終わらせにきたのに、戦うなんて矛盾している。
でも、魔王に対してできるのが戦いしかないというのなら……
「これが、この世界最後の命をかけた戦いよ」
決戦の火蓋は落とされた。




