176話 ユーシャとなら
まずい。まずいまずいまずい!
ラーヴァナは魔王四天王の中でも厄介な魔法を使う相手。それでもまさかいきなり私たちを引き離すなんて思ってもいなかった!
「リリー、お城の端から端までどれくらいあるの?」
ユーシャが単純な疑問をぶつけてくる。
「走っても20分はかかるわ」
その回答にユーシャは驚愕した様子。そりゃそうよね。私の家といったらボロアパート。それと真逆と言えるこの広さだもの。ギャップで頭がおかしくなっても不思議ではないわ。
「とにかく急がないと! シルディとヒラとアルチャルが危ない!」
「うん。急ごう! でも……」
そう言ってユーシャは私の手を取ってきた。
「え……? 何?」
「大丈夫だよ、3人ともすっごく強いから。だから落ち着いて」
「ユーシャ……」
ユーシャの手の温もりが、私の手のひらに伝わる。
そうだ……私たちはもう、1年生の夏休み前のランキング戦の時とは違う。
個人でも成長したし、お互いがお互いを支え合えるように魔法を繋げていった。グリフィスさんが言うところの、戦友になれた。
だから過度に心配する必要はない。そうユーシャは言いたかったんだと思う。
「ありがとう。少し気が動転してた」
「うん。強いリリーも好きだけど、弱いリリーも可愛くて好きだよ」
「こ、こんな時にイチャイチャするなんてどうなのよ」
「ふふっ、こんな時だからこそ、背徳的じゃない?」
ユーシャはいたずらっ子のように微笑んだ。
その様はまるで小悪魔。真面目な私を惑わす、可愛い可愛い小悪魔ね。魔族顔負けだわ、まったく。
「イチャイチャは帰ってからね」
「帰ったらむしろリリーの方がすごいもんね。この間だって……」
「あーあー! 忘れて!」
この間……というのは暴走してユーシャに襲いかかってしまったあれのことでしょう。我慢の糸が切れたというか、あの時の私を一言で表すのなら、獣。
「よし、頭はスッキリした? 行こっか」
「えぇ。仲間が待っているものね」
ユーシャと手を繋ぎながら小走りで城の反対側を目指す。こんな面倒なところにワープさせるなんて……本当に狡猾ね、ラーヴァナは!
『ほっほっほっ。逃すと思うてか?』
「ラーヴァナ!?」
間違いなく、響いた声はラーヴァナのものだった。だからといってシルディやヒラ、アルチャルがこんな一瞬でやられたとは考えにくい。となると残った可能性は……
「出てきなさい! どうせ足止め用の分身体でしょう?」
ラーヴァナの珍妙な術の一つである分身。
ラーヴァナはよく分身体に爆弾を引っ付けて敵軍に突っ込ませたりしていた。狡猾なラーヴァナを体現しているような魔法ね。
『よくぞ見抜いた』
そう言って魔王城廊下にラーヴァナが現れた。ユーシャはすかさず剣を抜いて戦う意思を見せる。
「お主らがここを突破するまでにあの3人は生きていられるかのぉ?」
「……2つ。みくびらないで欲しいわね」
「ほう……」
「まず一つ。シルディとヒラ、それからアルチャルはそんなに弱くないわよ」
そう言うとラーヴァナはケラケラと笑ってみせた。今戦っているからこそ、自分が優勢だと思っているのでしょうね。だとしたら少しピンチなのかも……。
「それからもう一つ。ユーシャ」
「うん。『ブレイブスラッシュ』準備完了だよ」
「『コネクト:レインボーフラッシュ』」
ユーシャが虹色の剣を構え、一気に飛翔した。その速度はとても目で追えるものではない。
「なにぃ!?」
「私たちを分身なんかで足止めできると思ったら大間違いよ!」
「『レインボースラッシュ』」
「ぬぅおおおおおおおお!」
虹の斬撃に当たり、ラーヴァナの分身体は砕け散った。
着地したユーシャとハイタッチをし、軽くキスをしてから再び駆け出した。




