174話 飛車角落ち
暗い暗い世界。人間が長く住めば鬱になるのではないかと思うほどに光が乏しい世界。
その中央で悠々と構える魔王城の端にて、1人の老獪と3人の少女が対峙していた。
「おいおい、リリーとユーシャ……どこ行っちまったんだ?」
銀髪の少女は激しく狼狽える。つい先刻までそこにいたはずの黒髪の少女と桃色の少女が一瞬にして消えたのである。
狼狽しているのは銀髪の少女だけではない。
栗色の髪の少女は不安で体が震えるのを必死になって堪えている。
金髪の少女は自らが代理で指揮を取る準備を始めていた。
「2人とも落ち着いて。リリー様とユーシャ様なら大丈夫のはず。今はこのお爺さんを倒すことを先にしましょう」
「そ、そうです! 戦いましょう、私たちで!」
「ただ攻撃できるのは私だけ……少し厳しいか……」
金髪の少女、アルチャルは自らが慕うリリーのように状況を冷静に分析しようと努める。そしてまた彼女のように指揮を取り始める。
「ヒラ、いつも通り衰弱の魔法を」
「は、はい! 『デビリティ』」
ヒラから紫色のオーラが放たれ、ラーヴァナに降りかかる。が、ラーヴァナはそれを鼻で笑ってみせた。
「くっかっかっ! 笑わせるな小娘が。それで呪力魔法のつもりか?」
「そんな……『デビリティ』が効かないなんて……」
「呪力は心の負の力に応じて強くなる。貴様のような優しい小娘には向いておらぬものよ」
「黙って聞いてりゃうるせぇぜ! 『シールドプレス』」
シルディは我慢ならないとばかりに上から盾を落とした。重い盾は鉄骨のような威力を内包している。直撃すれば骨まで打撃が届くであろう。
「むん!」
ラーヴァナはその叫びだけで降りかかる盾を止めてしまった。まるでその盾の時間だけが止まったかのように。
「な、なんだよそれ……」
アルチャルはこの間にも分析を進めていた。常にパーティの後ろから見守り、分析し、リリーの指示にアクセントを加えていた彼女だからこそ、答えを出せた。
「……無理。勝てない」
「は、はぁ!?」
「…………」
シルディは驚き、ヒラは悲しそうに目を瞑った。
「この人? は魔法の名前を呼ばずに魔法を発動している。そんなの聞いたことがない。たぶん、魔法を使わせたら世界一だと思う。そんな相手に飛車角落ちした私たちでは到底敵わない。これが私の結論」
「くっくっくっ……なかなか冷静な小娘ではないか。ではどうする? 諦めて帰るか?」
「そんなわけないでしょう」
ラーヴァナの言葉に被せるように、アルチャルは否定の言葉を述べた。それにラーヴァナは少しばかり驚く。
「私たちはリリー様とユーシャ様が来るまで待つ。時間稼ぎをする。2人とも、得意でしょう?」
アルチャルがシルディとヒラに問う。2人はニヤッと笑って肯定した。
そう、何度もランキング戦でこうしたケースはあった。ユーシャとリリーはパーティの核となっていたのは誰から見ても明らかだ。そこをついてあの手この手で分断するパーティは少なくなかった。
その時この3人が取った行動は、ユーシャとリリーが来るまで耐える。これである。
「よっしゃ見せてやるよ。アタシらのしぶとさをな!」
「無限の回復、無限の強化をお見せします!」
「絶対に倒れない。この諦めの悪さも私たちの強さ!」
ラーヴァナはこの3人を見て笑いが止まらなかった。ここまで活きの良い人間を見るのは久しかった。
だからこそ彼は……
「よいのぉよいのぉ。ならばちと……揉んでやるか」
四天王に相応しい殺気を放出し始めたのである。




