168話 さぁ、時を飛ばしましょう
イビルちゃんに魔王からの伝言を伝えられた次の日。私はパーティのみんなを人気のない公園に集めた。
「みんな、聞いてくれるかしら。私は魔王城に帰ってくるよう言われたわ」
「そ、それって……もうこちらには帰って来れないってことですか……?」
ヒラが瞳をうるうるとさせながら聞いてくる。
「そうじゃない……と言いたいところだけど、魔王次第ね」
魔王の気まぐれで、私は死ぬかもしれないし無事に帰ってこれるかもしれない。
ただ、今からみんなに伝えることは無事では済まないことをしようとしている。これを伝えたら引き返せない。でも、前に進むには言うしかない!
「みんな……私と一緒に、魔界について来てくれないかしら」
「「「「ほへ?」」」」
ユーシャもシルディもヒラもアルチャルも、みんな目を点にして驚いてみせた。そりゃそうよね……。
「そんなに気軽に行けるもんなのかよ」
「魔王城まではわりと簡単に行けると思う。でもそれ以降は……」
魔王城内部からは戦闘は避けられない。私たちでは到底敵いもしない相手がたくさんいる。運良くそれらを倒せても、最後に待ち構える魔王は絶対に倒せない。
「おいおい……つまり死にに行くってことかよ……もうちょっと冷静になろうぜ」
まさかシルディから冷静になれと言われる日が来るなんて思ってもいなかったわね。確かに、どう考えても無謀。絶対にやるべきじゃないのは確かだわ。
でも、魔王城に魔王がいると確定しているのは本当に稀な機会。戦場に行くことを好む魔王だもの、そう簡単に会うことはできない。
「わかってる。……でもチャンスなのよ。この争いを止める、絶好の機会なの!」
「リリー様、意を唱えることをお許しください。私もシルディと同じく反対です。魔界の実情はわかりませんが、どう考えても私たち子どもの手に負えるものではないというのは明白です」
アルチャルの反対意見に、シルディとヒラが頷いた。多数決ならこれで終わりだったわね。
「ユーシャは?」
「私は……前にも言ったけど、行きたい。でも……怖い。動かないといけないのはわかってるけど、怖いんだ」
ピンク色の髪を触りながら、ユーシャは小刻みに震えていた。
「そう……よね。で、どう思いますか? どうせいるんでしょう、先生」
「あら、バレてしまいましたか」
そう言って姿を見せたのはアルティス学園長。私がずっと魔界の探知魔法を張り巡らせていたから今日は見つかったけど、もしかしたらいつも近くにいたのかも……。
「アルティス!?」
驚愕の声をあげるアルチャル。突然双子の姉が出て来たことに戸惑いを隠せていないようね。
「みなさんこんにちは。何やら楽しそうなお話をされていますね。私も混ぜてはくれませんか?」
アルティス学園長の登場に、みんな口には出さないけど嫌そうな雰囲気は隠しきれていない。
それを気にしないとばかりに、アルティス学園長は公園のベンチに腰掛けた。
「じゃあ魔界へ行くかの話なんだけど……」
「はい、却下します」
「……」
アルティス学園長がすぐ割り込んで私の意見を却下した。なんかちょっと……ムカつく。
「……理由は?」
「皆さんは未熟者だからです。ランキング戦で優勝できないような弱っちい貴女たちが魔界へ行って、何ができるというのですか?」
「否定はしませんが……」
「なので、魔界へ行くのは卒業後としてください」
卒業後。つまりあと2年半。
それはあまりに長い時間に感じた。実際そうだと思う。
「さぁ、皆さんの成長が試されますよ。頑張ってくださいね」
頑張れと簡単に言うけれど、そんなもう決定事項みたいに言われても……
「ではラファエル、皆さんの魔界へ向かうと言う意思を消し去ってください」
「真名を呼ばないでっての!」
……………あれ? 誰だろう。この人。知らない。
……………あれ? なんでこんなにふわふわした気持ちになるんだろう。
……………あれ? どうしてアルティス学園長は私の前で微笑んでいるんだろう。
「リリーさん、あなたは私の手のひらの上で踊ってください。それで万事、上手くいきますから。私では魔王は倒せない。私では成功できない。でも、あなたなら……いや、貴女たちなら……」
何を言っているのか聞こえない。でも、私の意識は遠くなっていくのはわかる。
この日のことは覚えていない。私は一人で魔王城へ行き、そつなく報告を終え、生きて帰って来た。
そして、勇者学校で2年半の時を過ごし、卒業の日を迎えた。




