166話 アスセナとデート③ そして……
アスセナが涙を拭き、ようやく話ができるようになった。私はアスセナの言葉を聞き漏らさぬよう、真剣にアスセナと向き合う。
「姫様、この映画を見ていただいたのは、私の覚悟の表れです」
「アスセナの覚悟……」
「はい。私は姫様に幸せになっていただきたい。私は姫様に夢を叶えていただきたい。その一心です。姫様、今の姫様の夢、それは何ですか?」
アスセナが溢れそうになる涙を我慢しながら話していることはこっちにも伝わってくる。
「私の夢は……魔族と人間の和解。どちらも堂々と行き来できて、手を取り合い、高め合う世界を作ること」
私だけの夢じゃない。これはユーシャと私の、2人で目指しているもの。
「そうです。その夢のために姫様は……ユーシャさんとお近づきになる必要があるのです。お2人で目指されている、夢ですから」
「アスセナ……」
「だから姫様、私はこの姫様をかけた恋愛レースから降ります。姫様はユーシャさんと結ばれ、どうか幸せになってください。それが、私にとっても喜びですから」
アスセナは私の手を握って、無理やり笑顔を作ってみせた。両目からは抑えられない涙があふれてきている。
「うん、ありがとうアスセナ。私たちの夢を応援してくれて。私が言うのはおかしいかもしれないけど、その覚悟は本当に尊敬するわ。ごめんなさいより、ありがとうの方がいいわよね」
「はい。そちらの方が、嬉しいです……でも……涙が……止まらないんです」
こんなにも私のことを好いてくれる子がいた。それに私は気がつかなかった。その罪悪感が私を包み込んでくる。
でも、アスセナはよくできた付き人で、私が罪悪感を必要以上に覚えないようになんとか笑顔を作ろうとする。
そんなアスセナをしっかりと抱きしめる。これくらいのことしかできない自分に無力さを覚える。でも、やれるだけのことはしよう。それがアスセナに対する礼儀だわ。
「アスセナ、ありがとう。貴女は私にとって、1番大切な親友よ」
「はい……はい!」
アスセナは私の肩で大泣きを始めた。まるでさっき見た映画の女性使用人のように。彼女はもう2度とお姫さまには会えないとわかっていて泣いていた。でもアスセナは違う。今後とも、私との付き合いは続く。
アスセナが落ち着いて、話せるようになった。抱擁を解き、アスセナを見つめる。すると作られていない、100%本心から来る笑顔だった。
「先ほどもお伝えしましたが、姫様の恋人は諦めます。でも勘違いなさらないでくださいね? 姫様の付き人は後にも先にも私1人です。そこだけは絶対に死守してみせますからね!」
「えぇ、もちろんよ。勝手でわがままで情けない私の付き人は、アスセナにしか務まらないわ」
「……では、行ってきてください、姫様」
「えぇ。行ってくるわ……ユーシャの元へ!」
私は着替えて靴を履き、家を飛び出した。目指すはユーシャの家。私はユーシャと恋人になるため、走り出す。
ユーシャの家に着くと緊張に襲われた。でも躊躇っていたらアスセナに失礼だから、勇気を持ってインターホンを押す。
「は〜い」
いつものユーシャがひょっこり出てきた。当然、驚いた顔。
「あれ? 今日はアスセナちゃんとデートなんじゃ……」
「ユーシャ! 私と付き合ってください!」
「うぇ!?」
突然のことに驚いたのか、ユーシャは半分パニックに陥っていた。そりゃそうよね……と冷静に振り返ると恥ずかしくなる。でも今さら引き返せない!
「どう……かな?」
「も、もちろん嬉しいけど……アスセナちゃんは?」
ユーシャに今日のことをすべて話した。アスセナが、私たちの夢を応援してくれること。そのために、自分は身を引いたこと。その上でのユーシャの回答は……
「至らない未熟者ですが、よろしくお願いします、リリー♪」
無事OKを、いただきました。これにて私たちの恋愛戦は、夏休み中に終了したのでした。
明日の更新はお休みさせていただきます。




