164話 アスセナとデート①
セミの鳴き声で起床するのも慣れてきた。こっちの夏に適応してきたわね。
キッチンからはアスセナが料理をする音が聞こえてくる。朝ごはんと……今日のデートのためのお弁当かしら?
「おはようアスセナ。今日はよろしくね」
「おはようございます、姫様♪」
すごく楽しそうな表情のアスセナ。そんなにワクワクされると、こっちとしては嬉しくなるわね。
誰かにそんなに必要とされるだなんて……魔王の娘として、そんな幸福を味わってもいいのかしら。
アスセナ手作りの朝ごはんを食べて、さぁ出発だと意気込んでいたら……
「姫様、今日のデートプランを発表しますね」
「ここで? いいけど……」
とりあえず外に出るものだと思ってたからちょっとびっくり。まさか部屋で伝えられるだなんて。
「今日はお家デートをしませんか?」
「お、お家デート!?」
聞いたことはある。外にデートに行くわけではなく、家でのデート。一見やることが狭まれるように映るけど、実はそうでもない。……と、聞いたことがある。耳年増なのかしら、私。
「ダメ……ですか?」
シュンと縮こまってしまったアスセナ。
「もちろんいいわよ。でも逆にいいの?」
自分で言うのは恥ずかしいけど、今回のデートはユーシャとアスセナによる、私を取り合うためのバトルのはず。そんなデートにボロ屋でのお家デートを提案するのは攻めていると言わざるを得ない。
そんな見定めをする権利が私にあるのかという話ではあるんだけどね。
「もちろん。姫様と生活した約4ヶ月が詰まったここで、デートしたいです♪」
「アスセナ……うん、そうしましょう!」
そう私が答えるとアスセナはキッチンに向かって何やら準備を始めた。何かな〜? と思って見てみると、粉と卵を用意している。
「りょ、料理なら遠慮したいんだけど……」
「ご安心ください。パンケーキは簡単に作れますし、可愛くて美味しいんですよ♪」
なるほどパンケーキ……夜ご飯を作るとかだとテンションは上がらないけど、スイーツを作るとなるとテンション爆上がりかも。
よく見たら苺やバナナといったフルーツに、チョコソースやホイップクリームなんかも用意してある。
「いつの間にこんな……」
「昨日、姫様がユーシャさんとデートされている間に買ってきました。歯を食いしばりながらです……!」
「そ、そう……」
アスセナもかなり嫉妬深いわよね……。だからこそこんな戦いが成立しているんでしょうけど。
「では一緒に作りましょうか♪ どうぞ姫様もキッチンへ!」
アスセナに誘導され、キッチンへ。うっ……料理下手の性か、キッチンに立つと動悸がしてくる。困ったものね。
アスセナは私のためを思ってか、すべての材料をもうすでに測り終えていた。といっても、素人の私からしたら粉①、粉②、粉③って感じで、何がどれだかさっぱりわからない。
「薄力粉と砂糖を入れてください。軽く混ぜたらベーキングパウダーも入れてください♪」
笑顔で指示してくれるけど、どれが薄力粉でどれが砂糖かわからない。とりあえず舐めてみて甘かったからこれが砂糖ということはわかった。あと量が多いから、たぶんこっちが薄力粉ね。
その後はアスセナの指示通りに進め、苦労しながらもなんとか焼き終えた。
「ふぅ。ここからが本番ね」
「はい! トッピングです!」
アスセナは凝り性なのか、お店を開けそうなくらいたくさんのトッピングが用意されていた。料理下手な私でもこの作業はワクワクするわね。
迷った末に苺とホイップ、チョコソースを選択。昨日のクレープにバナナは入っていたから、まぁ今日はこっちね。
「さぁ食べましょう姫様。なんと、ここでもまだまだやることがあります!」
そう言ってアスセナは黒い鞄から何かを取り出した。




