158話 涙を見せないで
「リリーが……魔王の子……」
ユーシャがポツリと呟く。私はその顔を、依然として見ることはできない。
ユーシャは覚悟を持って私に告白をしてくれた。なら私も嫌われる覚悟を持って、自分のことを打ち明けないとフェアじゃない。
自分なりに覚悟を持って伝えたはずだけど、やっぱりやめておけば良かったとも思う。ユーシャに嫌われると想像しただけで泣きそうだった。
「ごめんなさい……ずっと騙してた……」
「リリー、顔を上げて」
ユーシャに促され、顔を上げる。そのユーシャの顔は、笑顔だった。
「どうして……笑っているの?」
「本当はね、リリーがただ者じゃないことはわかってたんだ。まさか魔王の子だとは思ってなかったけど」
「私の父は……魔王はユーシャのお母さんを!」
「うん。でもそれはリリーじゃない。リリーのお父さんでしょ? ならリリーは何も悪くないよ」
そう言ってユーシャは私を抱きしめた。その温もりに、心が熱くなる。
「リリーが私の目標である『人間と魔族の和解』に協力してくれるって言ったこと。あれは本心でしょ?」
「もちろん! あれに嘘偽りは一切ないわ!」
そこは必死になって伝える。そこは私の根幹になる場所。ユーシャと私を繋ぐものだから。
「じゃあ私たちはこれからも仲良くしないとじゃない? だって、人間と魔族の和解を目指している私たちが仲良くなくなったら、よくわかんないもん」
そう言ってユーシャはニッコリ笑ってみせた。聞きたいことはいっぱいある。
どうして……大好きなお母さんを殺した奴の娘を、そんな笑顔と愛で包めるのか。
どうして……私なんかを好きになってくれて、魔族だってわかっても変わらずにいてくれるのか。
どうして……ずっと騙していたのに、それを咎めもしないのか。
「どうして……」
私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちてくる。この半年間、本当はずっと心が痛かった。みんなと仲良くなればなるほど、自分が人間ではなく魔族であることを恨んだ。みんなと笑顔を共有すればするほど、魔王の娘である境遇を恨んだ。
でも、ユーシャは違った。そんな私を笑顔で受け入れてくれた。
「言ったでしょ? リリーが好きだから。2回も言わせないでよ、恥ずかしい……」
本当に照れ臭そうに、顔を赤らめるユーシャ。
「ありがとう、ユーシャ」
「うん。あ、このことはちゃんとみんなにも言おうね。隠されたままだと、辛いだろうから」
「えぇ。もちろん」
ユーシャは「よっ」と声をあげてベンチから立ち上がった。私がユーシャを呼び戻しに来たはずなのに、なぜか逆に元気付けられた気がする……というかそうだ。
「じゃあ帰ろっか。……って、勝手に飛び出した私が言うのもアレなんだけど……」
テヘヘとユーシャは笑ってみせた。
「私も飛び出したようなものだし、同罪よ」
それから家に帰り、とりあえずイビルちゃんには部屋に帰ってもらうことにした。みんなの前で魔界の魔法、『インソノライザー』って言う防音魔法を使い、盤石の体制で私のことを話した。アスセナは途中で泣きそうな顔をしながら私を見つめてくる。
「…………以上が、私がみんなにずっと隠していたことよ。ごめんなさい」
素直に、頭を下げて謝罪した。これが私が示せる最大限の誠意。
「頭上げろよリリー。似合わねぇぞ」
「そうですよ。リリー様が何者であろうと、私たちのリリー様であることに変わりはありません!」
「ま、魔族の方というのは驚きましたが……大丈夫です! 最近私、強くなりましたから!」
「みんな……」
感動して泣きそうになる。でもそんなことをしたらまたみんなに気を遣わせる。グッと堪えて笑顔を作った。
「うん、ありがとう、みんな!」
やっと言えた私の秘密。これからどうなっていくのか、まだわからないけど……やっと心のつっかえが取れたわ!




