156話 お説教
ユーシャを追いかけるために家を飛び出した。でもどこへ行ったのかは皆目検討もつかない。
「困ったわね……」
なぜユーシャが飛び出していったのか。それを知りたいのもあるし、ユーシャを一人にさせたくないものあるし、何より……好きな人に逃げられるのが辛かったから追いかけてきた。
私はこういう手の出しようがないとき、どうすればいいかを考える。10秒ほど迷った末に私は……学校へと足を運んだ。
「頼りたくはないけど……仕方ないわよね」
仕方ないことだと自分に言い聞かせて、私はある部屋をノックした。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
「あらあらリリーさん。いらっしゃいませ」
まるで私が来ることが分かっていたかのように、アルティス学園長は薄く微笑んだ。
「……失礼を承知で申しますが、お願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか」
「その前に一つ。私から説教があります」
私が来ることをアルティス学園長が予期している。それは想定内だった。でも説教があるというのは想定外ね。
「……なんでしょうか」
「ランキング戦、決勝。リリーさんは魔界の魔法をお使いになられましたね?」
その言葉にビクッと肩が震えたのがわかった。誰にもバレないような魔法を使ったつもりだったけど、アルティス学園長にはバレていたか……。
「……それが何か?」
「問題ですよ。あなたが魔王の娘である……とまではバレずとも、何かしら魔界と繋がりがあると見られても仕方がありません。まぁ今回のケースで誰かに悟られたということはないとは思いますがね」
「それは……すみませんでした」
「はい。ちゃんと謝ることのできる良い子ですね」
同い年にこのセリフを言われるのはなんかショックかも。でもアルティス学園長はそういうのを超越した存在に見えるし、関係ないのかな?
「どうしてアルティス学園長は私を魔王の娘と知りながらここに置いてくれるんですか?」
「それ、今この瞬間に必要なことですか? 今あなたがすべきことはなんですか?」
それを言われてハッとした。今重要なのはユーシャ。私のことではない。
「そうです! ユーシャは今どこに……」
「安心してください。近所の公園のベンチで一人座っていますよ」
それを聞いて安心した。どこかアテもない遠くへ行ってしまったわけではないのね。
「……というか、やっぱり知っていましたね。なぜです?」
「さぁ? それを解き明かせたのならパーティポイントを30pt差し上げてもいいですよ」
……つまりバレようがない方法で知っているということね。本当に得体の知れない人で、会えば会うほど嫌になる。でも、今回ばかりは助かった。
「では失礼します。ありがとうございました」
「はい。また新学期に会いましょう……いや、そうではないかもしれませんが……」
そう言って静かに手を振るアルティス学園長。その裏にどんな意図が組み込まれているのか、私には想像もできないし、想像するだけ無駄だと思う。
だから私はとりあえずアルティス学園長のことは忘れて、ユーシャを追うために前を向くことにした。
近所の公園……走っていけば5分で着くわね。
「はぁ、はぁ……」
全力で走ったから息が上がる。でもユーシャのことを考えたら、これくらいへっちゃらだった。
広い公園の、隅にあるベンチ。そこにユーシャは一人腰掛けていた。
「ユーシャ……」
遠くからの呟きは聞こえるはずもない。だから一歩一歩、ユーシャへと近づいていった。
「ユーシャ」
まだ聞こえない。
「ユーシャ!」
まだ。まだまだ。
「ユーシャ!!」
私の叫びに、驚いた表情でこちらを見たユーシャ。
このとき私は今日、何かが動き出す。そんな気がした。




