148話 出校①
夏休みも3分の1くらいが経過した。
計画的に宿題をやり進めていた私はもうあと数日もすれば終わるでしょうというところまで来ていた。
あれ以降、イビルちゃん関連の問題は特にない。継続的におすそ分けに来るから、アスセナが「もう結構です」とキラースマイルを交わしてバチバチに睨み合っていたくらいね。それからはずいぶんとおとなしくなったわ。
そんな平和な時を過ごしていた私は今、学校の正門前に立っている。みんなと待ち合わせをするためにね。
「リリー!」
久しぶりの声、久しぶりの笑顔。暑い夏の日差しに負けないくらいのユーシャの笑顔が私を癒してくれる。
「おはようユーシャ。久しぶりね」
「うん。宿題は順調?」
「もちろん。ユーシャは聞くまでもないわよね」
「うん!」
心配なのはシルディだけだわ。なんとなくだけど、夏休み最終日まで溜め込むタイプな気がするのよね……。
「おはようございます。リリーさん、ユーシャさん」
「ヒラちゃんおはよう! 元気してた?」
「はい! 夏休みはいいものですね」
ヒラが来た瞬間、空気がポワポワする。うん、この妹感は誰にもない才能ね。
「おーっす。おひさ〜」
シルディはだいぶラフな格好でやって来た。いくら暑いからってかなり手抜きな服装できたわね……。白T一枚って。
「じゃあ行きましょうか」
そう言って私たちは学校へと入っていく。ここにアルチャルの姿はない。そう、今日私たちが夏休みの1日を使って学校に来たのは、第1回ランキング戦の優勝者に贈られる現役勇者パーティからのレッスンの説明会のため。
正直言って忘れていたけど、なんとかギリギリで思い出すことができた。アルチャルが教えてくれたのにそのアルチャルに参加権がないっていうのが悔しいわよね、私たちは5人で1つなのに。
私たちは学園長室の前に立ってノックをする。
「どうぞ、お入りください」
名乗ってもいないのになんで私たちだってわかったのかしら。やっぱりアルティス学園長は末恐ろしいわね……
「失礼します」
あくまでも丁寧に、私たちは学園長室へと入っていく。椅子に座って紅茶を嗜むアルティス学園長が待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
「どうぞ、お座りください」
人数分の椅子が用意されていたから順番に腰掛ける。椅子に座った瞬間、左側から鋭い殺気を感じた。
私は腕を伸ばして伸びて来た"それ"を掴む。
「ほう。やるではないか」
年齢は25歳くらいか……それくらいのミステリアスな空気を漂わせる赤毛のお姉さんが体育祭でも使用した柔らか素材の剣で襲いかかって来た。聞くまでもなく、勇者パーティの方でしょう。
「ずいぶんと怖いご挨拶ですね」
「戦場ではこれが目覚ましになったりもする。今のが真剣ならお前の手は斬れてきた」
「まぁまぁ、落ち着いてください2人とも。リリーさん、奇襲をかけてとお願いしたのは私です。リリーさんの実力を知ってもらうため、わざと仕掛けてもらいました」
「そんなことだろうと思っていましたよ」
ただで学園長室にあげて、椅子に座らせるような人でないことはもう理解している。いちいちこんなことで驚いてなんていられないわ。
「聞いた話によるとお前たちは期末のランキング戦では敗れたそうだな。そんなお前たちでは教え甲斐があるかどうか……」
「なんだと!?」
当然のようにシルディが食ってかかる。それを手で静止して、私が口を開く。
「私たちは負けました。だからこそ……教わりたいです。強くなるために」
「……いい目だな。名は?」
「リリーと申します」
「そうか。リリー、それからお前がユーシャだな」
勇者パーティの方は名乗ることもなくユーシャへと目線を移した。
「どうして私のことを?」
「母上……伝説の勇者様は私の上官だった。よく似ている」
その言葉を聞いた瞬間、ユーシャは泣きそうな顔になる。でもグッと堪えているのが私にもわかった。きっと複雑な思いでしょうね。でも……それは私も同じで……。




