147話 夏休み⑤
「姫様! あの方は何なのですか!」
「私が聞きたいわよもう……」
頭が痛くなってくる。アスセナは私と2人になってからようやく『暗黒羊』を解除して白いアスセナに戻った。
時刻は日を跨いで0時。アスセナもずいぶん遅い時間に帰ってきたわね。
「色々聞きたいことはありますが……寝ますか?」
「もう少しだけ起きているわ。なんだかまだ怖くて眠れないもの」
突然夜這いをかけられたのだから仕方ないでしょう。あまりに怖い体験をした。これがユーシャにされたら……と思うとよだれが出そうになるのはなぜかしら。
「で、改めてですけど、帰ってきました」
「えぇ、おかえり。1日半だったけど、寂しかったわ」
アスセナの頭を撫でてリラックスする。そのままぎゅっと抱き寄せたら安心して眠れそうね。
「私がいない間に何かありませんでしたか?」
「……イビルちゃん関係以外は特に何もなかったわね」
むしろそれが1番のトピックよ。あの衝撃を上回るものはたぶん今後出てこないでしょう。そうほいほい出てきてもらっても困るわ。
「イビルさんのことはひとまず忘れましょう。隣に越されてきているのでこれからも危機はありますが……その時は私が消しますので」
「いや『消しますので』じゃないわよ! 物騒なこと言わないでちょうだい!」
「姫様、私たちは魔族です……もしかしたら破壊こそ本望かもしれません……」
「急に悟らないでよ……アスセナまで怖くなっちゃうじゃない」
なんかアスセナに魔王の影が見えた気がするんだけど。『暗黒羊』を使うとこうなるのね……何かを学習した気がするわ。
「はぁ。アスセナも疲れたでしょう? そろそろ寝ましょうか」
「でもイビルさんが隣にいる状況で寝るのは少し怖いですね……」
そう言いながらアスセナはもじもじとし始めた。私もたしかに怖いなと思って考える。
「じゃあアスセナと抱き合いながら寝ましょうか。流石に密着している私たちにどうこうすることはないでしょう」
「だっ、抱き合いながらですか!?」
オーバーに驚きながらも顔がニヤけているアスセナ。どういう感情なのかしら……。
「嫌ならもちろん無理強いしないわよ。密着するわけだし、嫌かもしれないわよね」
「いえ! むしろよろしくお願いします!!」
食い気味にアスセナが言葉を重ねてきた。なんでそんなに必死に食いかかってくるのかしら。
というわけでアスセナと一緒に同じ布団に入る。クーラーがしっかりと効いているとはいうものの、普通に汗ばむ程度には暑い。夏休みだもの、当然よね。
「その上で抱き合うのだから暑いったらありゃしないけど……不安で眠れない夏休みを過ごすよりはずっとマシよね」
じんわりと汗ばんできてアスセナの香りがベットに充満してきた。言うまでもなく臭いわけではなく、むしろ女の子のいい匂いがほんわりと香ってきた。
ということは逆に私の匂いもアスセナの鼻に届いているのよね。それはちょっと気になるかも。臭かったらもう立ち直れないわ……
「姫様の香り……うへへ」
アスセナの反応を見る限り臭くはないようね。よかった……。
そのままアスセナをぎゅっと抱き寄せて眠りにつく。イビルちゃんと違って、やっぱりアスセナは安心する……。私の親友だもの、ずっとそばにいてね……。
そんなことを思いながら、私の意識は遠のいていった。




