143話 夏休み①
ミーンミーンとセミが鳴く中起床する。夏休みが始まった私は初日からダラダラとした生活を始めた。たぶん……ランキング戦で負けたことの反動からこうなっているのよね。
「おはようアスセナ」
「おはようございます、姫様♪」
こんなにダラけた私を、アスセナは非難したり咎めたりはしない。ただただ優しく、聖母のように受け止めてくれる。アスセナの子になったら幸せでしょうね……いっそバブーとか言ってみようかしら。
「姫様、私の帰省ですが、明日魔界へと向かうこととしますね」
「ええっ!? もう?」
あまりに早すぎる帰省にビックリする。私の一人暮らしがついに始まってしまう……お料理スキルは何一つとして身についていないのに。
「ごめんなさい……家族から帰ってこいとうるさくて」
「まぁそれなら仕方ないわね。ご両親によろしく伝えておいてね」
「はい♪ それと、今日はご馳走にしますね」
そう言って張り切ってキッチンに向かうアスセナ。
さて……ここから3日間どうしようかしら。
インスタント食品→寿命を縮めそう
手作り→発がん性物質を生み出しそう
出前→財布が薄くなりそう
う〜〜ん。詰んでる。
どうしたものかと考えながらアスセナを抱き枕にして昼寝することにする。もう慣れたのか、アスセナも抵抗しなくなった。それどころかアスセナも一緒になって寝るようになった。
「気持ちいいわね、アスセナ」
「はいぃ……姫様の匂い……ウェヘヘ」
たまに邪悪な笑い方をするのが気になるところだけど、いちいち突っ込んでいたらキリがないからスルーする。
いつも通りの親友以上恋人以下のイチャイチャを続け、日を跨いでいたらついにアスセナが旅立ってしまう時が来た。
「それでは姫様、本日の夕食まではご用意させていただいていますのでぜひお食べください。明日以降は……が、頑張ってください!」
「えぇ。なんとかするわ」
笑顔でアスセナを送り出す。けど内心ドッキドキよ。はぁ、一人暮らしってどうすればいいのかしら。
そうだ、お風呂掃除も私がやらないといけないのよね。皿洗いも? ……私、アスセナに任せっきりだったかも。いや、断定できるわ。任せすぎだったって。
アスセナの用意してくれたお昼ご飯を食べて、静かすぎる部屋にだんだんと悲しさが込み上げてくる。
そういえば、ユーシャも一人暮らしなのよね……。
「さみしい」
そう呟いた時だった。
ピンポーンとインターホンが鳴る。アスセナが忘れ物でもしたかしらと思ったけど、そんなミスをするような子じゃないから……パーティの誰かかしら?
「はーい」
ガチャっとドアを開けてみると、そこには初めて見る子がいた。黒いふわふわした髪に、感情のこもっていない目。ツノがなくて、かなり怖くなったアスセナといった感じの子ね。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「……私はイビル。この部屋の隣に引っ越してきたものでいやがります」
「……はぁ」
何その言葉遣い。引っ越してきたってことはお隣さんになるってことよね。そのことよりも言葉遣いの方が気になっちゃったわ。
「今日から隣人として、同志として、よろしくお願いしやがります。では……」
「そ、それはどうも……」
簡易的すぎる挨拶を終え、イビルという少女は隣の部屋のドアを開けて入っていった。なんだか生気の宿っていない子だったけど大丈夫なのかしら。
そんな出会いがありつつも、とりあえずアスセナのいない1日目は乗り切った。でも勝負は明日から。アスセナの作り置きがなくなって、自分で調達しないとご飯が食べられないもの。
「ほんと、どうしようかしら……」
ランキング戦の作戦会議ばりに頭を悩ませる。まったくと言っていいほど妙案は浮かんでこなかった。まぁ……簡単なものを作りましょう。簡単なものが何かすら知らないんだけどね。




