141話 決勝戦⑤
「勝つ算段でもあるのかい? 姫」
セレナが銀色に輝く剣を私とビエントの間に向けながら問うてきた。
「えぇ。私には特別な力が入っているのよ」
それは魔王の血……ではない。試合開始前にユーシャに注入してもらった勇気。それが今は私の力! 私の勇気!
「あぁ、トークばかりで焦ったいですねぇ! 『サイクロン』」
ビエントが我慢ならないといった様子で風を景気よく生み出していた。中級魔法とはいえ、あれを受ければすぐ脱落しそうだわ。
「……せっかちな子ね」
「まったくだよ」
私とセレナは同じ考えを抱いていた。本当ならセレナと手を組みたいけど……そう上手くはいかないでしょうね。それにセレナ側も受けてくれるとは思えない。
「行きますよ……『サイクロン』」
ご丁寧に前置きまでしてくれたビエント。彼女が手を仰ぐととんでもない勢いの暴風が吹き荒れた。
私はこれに対しては防御するしかない。
「『ブランクウォール!』」
「『ヴァイス』」
私は壁で防ぎ、セレナは白い波動を纏った剣で対抗した。挨拶代わりの『サイクロン』はなんとか防ぐことができたけど、ビエントが本気になったら凌げるかわからない。
「やりますね。なら本気で行きますよ!」
そう言うとビエントは3メートルくらい宙に浮いた。まさか飛べるの!? と思ったけど、そうではないみたい。ただ浮けるだけみたいね。
「リリーさんは前回のランキング戦で見事な『インフェルノ』を披露されていましたね。僕はこれですよ! 『ハリケーン!』」
『ハリケーン』ですって!? 風の上級魔法じゃない! そんなものを使えるなんて……本当にビエントは何者なの!?
「おっと、これはまずいね」
流石のセレナも焦っている表情。それもそのはず。今ビエントの周りに渦巻くように風が集まっている。この隙に攻撃……とも思ったけれど渦巻く風はまるでビエントを守るように包み込んでいた。
『インフェルノ』は溜めの時間が長いことが短所。『ハリケーン』も同じだけど……それを打ち消すくらいの鉄壁ね。
ビエントを取り巻く風がどんどんと強まっていく。やがてビエントが風に包まれ、1つの球体となっていった。あれが放出されると考えたら、『ブランクウォール』では止めようがないわね。
チラッと後ろを見るとユーシャたちも苦戦しているみたい。残念だけど、あれが放たれたらビエント以外みんな消し飛ぶわよ。
「負け」。この言葉が脳裏によぎった。でも同時に、「負けたくない」とも思った。わがままな子どものように、駄々をこねるように、私は……負けたくない!
だからごめんね、みんな。もしバレたら……もうお別れになっちゃうかもしれない。たった1つの小さな意地を見せてお別れなんて嫌だけど、ユーシャにあれだけしてもらった決勝戦で、負けたくないって気持ちの方が勝っちゃったわ。だから……
私はこっそり口を開く。できるだけマイクに拾われないように、カメラに映らないように、俯いて呟いた。
「『フォルタラセル』」
魔界の魔法。超強力な、身体強化魔法を自分の身にかける。
見た目の派手さはないからバレる心配はない……と思う。今からの行動で怪しまれたりはするかもしれないけどね。
「いくよ……『ハリケーン』」
ビエントの球体からトグロを巻くような風が襲いかかってくる。私はその風を……手のひらで受け止めた。
「な、なにぃ!?」
発狂するビエント。何が起きているのかわかっていないのでしょうね。
「お返しするわ。そりゃ!」
掴んだ竜巻を、ビエントに向かって放り投げる。超強化された肉体から投げられる竜巻はビエントを飲み込み、かき消した。私の勝ちね。嬉しさと共に、ほんの少しの罪悪感。でも……後悔はない。ユーシャ、私やったわよ!




