130話 勝者と魔界
1回戦を勝利した私たち。仮想戦闘空間室から出ると、壁にもたれかかる少女が待っていた。
「セレナ……!」
「その表情、どうやら勝ったようだね」
セレナは肩まで伸びた白い髪を揺らし、不敵に微笑んだ。顔色は……悪くはなさそう。仮想空間で戦うこのシステムは、体が弱いセレナにとっては追い風となっているみたいね。
「えぇ。次の戦いで会いましょう」
「あぁ。王子として、華麗に決勝まで進むとしよう」
そう言い残して、セレナはどこかへと行ってしまった。何か背中に視線を感じたため振り返ると、ユーシャがアスセナに向けるような視線を私に向けてくる。
「ど、どうしたの?」
「んー?(笑) 何が?(笑)」
怖い……笑顔が超怖い。
「いやその……」
「ねぇリリー、あの人はだぁれ?」
ユーシャが私の声を遮ってまで聞いてきた。その圧が怖いのよね……。
「あ、あの子はセレナ。以前5ptを私が持ってきたことがあったでしょう? その時に力を合わせて試験をクリアした子よ」
「へーそうなんだ。へーそうなんだ」
……なんで2回も言ったのかしら。そういえばアスセナもこの前2回言っていたような……。もしかしてユーシャとアスセナって似たもの同士だったりする?
「リリー様と協力したということは、かなりのやり手ですね」
「そうだな、警戒しねぇと」
「まだまだ強敵さんがいっぱいですね……」
奥から出てきたみんなに話題の軌道修正をしてもらって何とか助かった。正直、今のユーシャと会話を続けるのは怖い……。
「よ、よし! 何はともあれ1回戦は突破! このまま優勝まで突っ走るわよ!」
「「「「おー!!!!」」」」
景気のいい叫びがこだました。
◆
魔界。
黒きモヤに囲まれた魔王城の一室。皆はここを魔王室と呼び、恐怖の部屋というイメージがついている。
「勇者学校に忍び込ませた我が娘の件、どうなっている?」
魔王に問われているのは魔王軍四天王が一角、ベルゼブブ。
床に跪き、魔王に絶対的な忠誠を誓っていた。
「はっ。それに関しては上手く潜入しているそうです。リリーも、楽しそうな表情でした」
「そんなことを聞いているのではない」
魔王は声に込められた力を1段階あげる。ベルゼブブはそれに対してしまったという感想を抱いた。
「この件の要は勇者の卵が今後生まれてくるか否かの調査だ。それに関しては何と言っておった」
「……リリーは今のところ脅威になり得るものはいないと報告してきました」
「そうか……ならば良いが。……ベルゼブブよ。貴様から見てリリー1人に任せるべき任務であると思うか?」
「もちろん。彼女であれば任務を全うすることでしょう」
「我はそうは思わん。入れ」
魔王がそう命じた瞬間、魔王室のドアが開く。通常魔王か、四天王クラスしか入れぬこの部屋に入ってきたのは、リリーと同世代くらいに見える子ども。
特徴的なのは黒い髪に黒い角。鬼族であると一目でわかる。
「……その子は?」
恐る恐る、ベルゼブブは魔王に質問した。
「こいつはイビル。我が魔力で産んだ、分身体だ。もっとも、我の記憶とリンクはしておらず、独立した1つの生命であるがな」
その言葉にベルゼブブは安心する。もし魔王の存在が倍になることがあれば気が気でなくなる。別人格とあらばそれは問題にはなり得ない。
「それで? その子をどうされるおつもりで?」
「こやつは新学期より我が娘と同じ学校へ通わせる。我が娘が任務を全うしているか、確認するためにな」
「疑って……おられるのでしょうか」
「ふん。念の為だ」
魔王はイビルと呼ばれた少女の元に近づき、角をへし折った。相当な痛みがあったのだろう。少女の顔は苦痛に揺れた。が、反抗はしない。
「これで人間の中に入り込んでもバレはしまい。さぁ……新学期が楽しみだなぁ、リリーよ」
そう言って魔王は高らかに笑う。ベルゼブブはただその様を見ていることしかできなかった。




