115話 試される生徒たち
6月。私は思い知った。なるほど、これが梅雨ってやつなのね。
授業中に外を見て思う。昨日も、一昨日も、先週もずっと雨だった。今日も雨が降っている。
アスセナと話していたのは、よくこんなじめっとした期間を生き抜けるわね、というものだった。魔界ではじめっとした場所を好んで生息するのはカエル型の魔物やそれを食べる蛇型の魔物くらいしかいない。
体育祭が終わってから約半月。特に何もなかった。座学の時間が終わればパーティごとに連携を深めるための実習を繰り返すのみ。嵐の前の静けさなのか、それともただの杞憂なのか、私は少しだけ不安だった。
「お疲れリリー。お弁当だよ?」
ユーシャに声をかけられてハッとした。ぼーっとしてたみたいね。
お弁当をいつものように4人で食べる。
「どうした? なんか疲れてんのか?」
「寝る前にホットミルクを飲むといいですよ」
心配してくれるシルディとヒラ。私は周りの人に恵まれているわね。と改めて実感した。
「ありがと。ちょっと梅雨に呑まれているだけよ」
実際こう雨が続くと気分が落ち込む。
それだけじゃなくて、何か漠然とした嫌な予感があった。
今……学校側に私たちは試されている気がする。あのアルティス学園長が無意味に空白の期間を設けるとは思えない。あの人のことはよくわからないけど、そういうことをする人ではないのはわかる。だから、この期間にも何かを試されているんじゃないかと思ってしまう。
「みなさーん、実習が始まりますよー!」
「「「はーい」」」
……クラスの雰囲気も、なんだか緩んでいる気がする。今までずっとイベント続きだったものが突然ばったりと止まったから無理もないけど、それにしても緩みすぎじゃないかと思う。
「リリー? 顔、険しいよ? 具合悪い?」
「保健室行くか? 案内は……できないけど」
「私、保健室の場所知っていますよ」
みんなが心配の声をかけてくれる。
みんなの中には危機感っていうものがないのね。私の気にしすぎ……なのかしら。
そうだと……良いんだけど。
◆
学園長室からグラウンドを見渡す。どうやらうまく魔法がかかっているようですね。
「学園長、まだ魔法が効いていない生徒が何人かいます」
「でしょうね。みんながみんな魔法にかかってしまったら面白くありません」
私がこの梅雨の季節に学校にかけたのは、なんだかちょっとやる気をなくす魔法。アドレナリンが出ている戦闘時に使っても意味はなくとも、こういう平時の時には大きな効果がでる。人から危機感を奪い、備えるということを忘れ去れる恐ろしい魔法です。
グラウンドを見渡す限りだと……おやおや、リリーさんはまだ魔法にかかっていないようですね。
「ふふっ、楽しませてくれそうじゃないですか」
ちなみにアルチャルは……あらあら、もうどっぷり魔法の中ですね。まだまだ未熟な妹です。
「さぁ先生方、今年も『潜影実習』を始めましょうか。どのパーティがクリアできるのか、それともクリアできるパーティはいるのか……。教員として見守っていこうではありませんか」
この大変な実習に、まずは気がつくことができるか、みんながポワポワした中、自分は気力を保てるか、そしてクリアできるのか。多重に設けられた試験をくぐり抜けたもののみにパーティポイントは入ります。さぁ、見せてくださいみなさん。あなた達の危機管理能力、試させてもらいます!




