112話 体育祭⑦
「はぁ、はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
私もビエントちゃんも息が上がってる。たった一回の激突でこれだもん。これ以上戦ったらどうなっちゃうんだろう……。リリーは私のパートナーにヒラちゃんを選んでくれたけど、今のところヒラちゃんが手を出せるような状況はない。『ブースト』は魔法にかかるものであって、剣術には関係ないもんね。
「ふっ、伝説の勇者の娘であるあなたが、名も知れぬ僕に苦戦するなんて、随分と滑稽ですねぇ」
みんな同じだ……私のことを、伝説の勇者の娘としか思っていない。私をユーシャって個人だと思ってくれているのは、今のところパーティのみんなだけ。
「私は伝説の勇者の娘かもしれない……でも、私はユーシャだから!」
「ふっ、そんなこと……誰も興味なんてありませんよ!」
ビエントちゃんが剣を握りしめて突進してくる。この戦いでは後ろを取られたら終わる。まずは前方から勝負を仕掛けて、勝って、堂々と後ろに回り込むのがビエントちゃんの作戦かな?
「乗ってあげる。『勇者流剣術:幻影斬』」
幻影斬は私の残像が残るように高速で移動して斬る技。これならビエントちゃんの裏を取れる! ちょっとズルい手だけど、許してね!
「ふふっ、引っかかりましたね〜」
「なっ!」
ビエントちゃんの後ろに回り込んだ瞬間、風が思いっきり吹いたと思えば気がつけば尻餅をついていた。
な、何が起こったの……?
「こんな背中を開けちゃダメってわかりやすいルールで、後ろを無防備にするわけないですよね〜? 僕の背中に風の魔法を仕込んでおいたんですよ。……もちろん、今もまだ残っています」
「きゃう!」
「ヒラちゃん!」
奇襲を狙っていたヒラちゃんが風に吹き飛ばされる。なんとか繊細な動きで持ち直したから良かったけど、今ので私やヒラちゃんのどちらかがやられていてもおかしくなかった。
「雑魚は指をくわえて見ていればいいんですよ。さぁ、後ろに回り込まないと水風船は破れない、後ろに回り込めば風に飛ばされる。この状況でどうやって僕に勝つんですか〜? 教えてくださいよ、伝説の勇者の娘さん?」
「くっ……!」
こんな時にリリーがいれば……と思ってチラッと見るけど、リリーも苦戦中みたいだね。こっちはこっちでなんとかしないと!
幸いなことに、私にとってこの種目では何も後ろに回り込むだけがすべてじゃない。双路の劔で斬ることもできる。
「やあっ!」
なら一目散にそれを目指すのみだよ!
「正面から……いいですね。楽しませてくださいよ!」
鍔迫り合いさえ起こればこっちのもの! お願い! 受け止めて!
ポフッ! と柔らか素材の剣がぶつかった音がした。私の勝ちだ!
「『勇者流剣術:双路の劔』」
「なにぃ!?」
後ろからの斬撃に驚くビエントちゃん。いっけぇ!
「な〜んちゃって☆」
「えっ!」
私の斬撃を……風で飛ばした!?
「あなた達のパーティは研究済み。練習でその技を使ったことを後悔するんですねぇ! 練習時間中、僕はずっっっとあなた達のパーティだけを見ていましたから!」
そんな……もうどうすれば……
「さぁ、そろそろ私の攻勢を始めますよぉ!」
ビエントちゃんが景気良く叫んだ、その時だった。
パァン! と水風船が弾けた音が響く。その水風船は……ビエントちゃんのもの。
「な、何で……どうして!?」
混乱するビエントちゃんに対して、私はすぐに状況を理解した。
ヒラちゃんが……風魔法を使って剣を飛ばしたんだ! 繊細な風さばきで、1ミリの誤差も生じることなく!
「私は取るに足らない存在かもしれません……でも、だからこそ、勝てます!」
「く……そがぁぁぁぁ!!」
発狂するビエントちゃんを先生達が取り押さえて連れていった。その姿は少し怖い。次のランキング戦、また戦うことになったら厄介なことになりそう……。




