100話 お楽しみは……
さて……今年の体育祭はどうなるでしょうね。
そんなことを思いながらティーカップを片手にグラウンドを見つめる。今年は面白い生徒が大勢います。学園長として2年目ですが、本当にわくわくしますね。
伝説の勇者の娘さん、魔王の娘さん、私の双子の妹。それだけじゃない、もっともっと楽しめそうな生徒はいっぱいいる。例えば今一人でグラウンドの隅で座っている黒髪短髪の生徒。彼女はサボっている……ように見せかけて生徒全員の動きの癖を見つけている。水風船チャンバラはどう考えてもパーティ人数が多い方が有利。ですがもしかしたらあの子が優勝することもあるかもしれませんね。
「失礼します」
コンコンコンとドアがノックされ、数いる先生の内の一人が学園長室へ入ってきた。
「どうされました?」
「あの……どうして今年は種目を変更したのですか? 普段なら騎馬戦だったのに……」
あぁ、そんなことですか。もっと急を要する案件かと思いましたよ。
「そんなの決まっています。そちらの方が面白いと思ったからです」
「は、はぁ……」
まぁわからないでしょうね。ただの人間でしかない先生には。
もしかしたら目覚めるかもしれない。伝説の勇者の娘が、魔王の娘が、そして私の双子の妹が。
もし目覚めたら……そう思うと今からわくわくが止まりません。
『ねぇ……まだ出ちゃダメなの? そろそろ退屈よ〜』
脳内に直接響く声。それに対して私も脳内で返事をする。
『もちろんですよ。貴女の存在はトップシークレットですから』
「言いたいことはそれだけですか? 先生」
今度は口で言葉を発する。この切り替え、慣れるのに随分時間がかかりましたね。
「は、はい……」
納得はしていないようですね。折れた、という表現が正しいでしょうか。
先生はドアをゆっくりと開けて部屋を出ていってしまった。それと同時に……
「ぬあー! 退屈!!!」
私からもう一人の私が生まれました。何をいっているかわからないかもしれませんが、事実なので仕方ありません。私は黒髪ですが、この子は金髪ですね。そこは違うところです。
「もう少し我慢してください。もう少しで面白いものが見られると思いますから」
「本当〜? アンタってすーぐそういうこと言って、天使である私ですら騙そうとするじゃない!」
「ふふ、悪女ですから」
「だーれが"半知"と"聖騎力"を授けてあげたと思っているのよ!」
不満そうに自分の功績ばかりを並べる私の分身。この子は天使です。この世界に存在する、魔物、人間、天使。3大生物の内の一つですね。
「それについては感謝していますよ。お陰で伝説の勇者の娘も、魔王の娘の存在も知れましたから」
「その伝説の勇者の娘とやらは大したことなくて、魔王の娘とやらと戦う時はちっとも私を介入させてくれなかったじゃない!」
「まだ貴女を出すわけには行きません。人間と天使は協力関係にありますが、だからといって個人契約を結んでいるなどと知られたら打首獄門です」
実際そうやって死んだ人を何人も見ていますしね。
「……私と契約しなかったらアンタの妹と同等なくせに、よくそんな偉そうな態度を取れるわね」
「そうですか? 貴女抜きでもアルチャルよりは強い自信はありますよ?」
流石にアルチャルに負けるほど弱くはありません。えぇ、それはもう。私1人でもランキング戦で優勝を狙えるでしょう。
「ふっ、どーだか。そうだ! 今からアイツらにちょっかいかければいいんだ! そんじゃね〜」
「"ラファエル"」
「……わかったわよ。真名を呼ばないでちょうだい」
まだですよ……まだまだ。楽しみは一番楽しくなる時まで取っておかないと。
私は今、どんな顔をしているでしょう。きっと……ニヤついているのでしょうね。




