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天上から美しい星々と、満ちた月が見守っていた。
頬を撫でる風は、昼間の暑さを忘れたように心地良い冷たさだった
。
鼻にかかったような、どこか不満げな声が、すぐそばで聞こえた。
腕の中、身じろぐ小さな体。
あやすように抱えなおすと、落ち着いたのかまた穏やかな寝息を立て始める。
腕にずっしりと重く、温かい。
このままずっと抱いていれば、汗を掻いてしまいそうだ。
胸に手を当てると、手のひらを力強く押し返す鼓動。
まだ合わせた手のひらの半分しかない、小さな手のひらは柔らかい。
薄い瞼の下に隠された瞳は、まだ穢れを知らない。
気がつけば溜息を吐いていた。
何億と言う種の中から、奇跡といえる確立で選ばれ、生れ落ちる命。
何年も繰り返してきた営みであるのに、つい忘れてしまっていた。
柔らかな髪を後ろに撫で流し、露になった額に口付ける。
君に、幸あらんことを。
腕に力をこめる。
星へ届くように、抱えた花束を放り上げる。
月が悲しげに雲に隠れた。




