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ルナティック・ブレイン 【-特殊殺人対策捜査班-】  作者: 橋依 直宏
Consider 4  憫笑するブラインドフラワー
34/97

File:8 見失わない





 PM18:28。江東区こうとうく


 日が長くなり始めたおかげで、辺りはまだ明るさを保っている。

 少しにぎわいを残した住宅街の中、ある家の前で白い軽自動車が速度を緩めた。車は車庫しゃこに頭から入り停車する。ランプが消え、男が一人車から降りてきた。

 つなぎの作業服姿の無気力げな男だ。無造作に取り出した鍵で玄関のドアを開け、滑り込むように家へと入っていく。

 そのドアが閉まった途端、影から10人の男たちが一斉に湧いて出てきた。

 言葉を交わすことなく、6人が家を囲むように散らばり、玄関に4人が残った。一番先頭にいた眼鏡の男が隣に立つ恰幅かっぷくの良い男を見る。視線を受けた男は耳元の通信機を指先で二回叩くと強くうなづいた。それを合図に眼鏡の男がインターフォンを鳴らす。

 反応はない。もう一度鳴らすと、女性の声が返事をした。


芥子菜(からしな)さん、すみません。警視庁のものですが」

「え、警察?」


 インターフォンが切られる。

 眼鏡の男の左後ろ、Gジャンの男がドアをこじ開けるべく近づくと、あわただしくドアが開けられた。

 小太りの女性がドアのすぐそばに立つ男を見て、血の気を引かせた。


「あの、どうされたんですか……?」

「息子さん、帰宅されていますよね」


 眼鏡の刑事の右後ろ、ポロシャツの刑事が鞄から白い紙を取り出した。眼鏡の刑事はそれを受け取ると、女性・芥子菜の母親に見えるようにかかげた。


墨田区すみだくで発生した事件の件で、息子さんに家宅捜査令状が出ました」

「え? そんなまさか」


 母親が口元を押さえ、崩れ落ちかける。

 その時だ。母親の背後、突如ドアを開け息子・芥子菜からしなハルトが現れた。

 刑事たちは確保すべく動き出した瞬間、芥子菜ハルトは口の端を吊り上げた。


「班長!」


 裏から大声が上がる。眼鏡の刑事が顔を向けた先、黒い塊が飛び出してきた。

 黒いステーションワゴンだ。しかも運転席には誰も乗っていない。だが自ら意思を持ったように、車は玄関前に立つ刑事たちへと突っ込んできた。

 それとほぼ同時に芥子菜ハルトは母親を突き飛ばす。Gジャンの刑事を巻き込み倒れる母親には目もくれず、刑事たちを蹴散らし止まったステーションワゴンへ飛び乗ると、刑事たちが飛びかかるよりも速くタイヤを高速回転させもうスピードで走り出した。


「なんだ、なんで車が!」

「裏の路駐車が突然動いて!」

「遠隔操作でパクりやがったのか! くそ追え、追え!」


 怒号が飛び交う中、恰幅な男・竹輔は耳元を押さえ、声を張り上げる。


「蕗二さん!」

『だと思ったよ』


 低い声とともにサイレンの音が鳴り響き、刑事たちの目の前を、銀色のセダンが猛スピードで横切った。








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