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7.授業③

 ━━授業が始まって、一ヶ月━━


 授業は平日の午前、午後それぞれ二時間ずつ行われた。


 彼女が聡明な女の子であることは明らかだった。通常数か月はかかるアルファベットの習得をすぐに終えて、今は日常的に使われている頻出単語の書き取りに挑戦している。


「Der Apfel, die Frucht, das Wissen, das Liebe......」


「ソフィー、Liebeは女性名詞ですから、冠詞は die。 -eで終わる名詞の八割は女性形ですよ」


「あっ、そうでした。話しことばと書きことばって、こうも違うのですね。わたくし、なんだか焦ってしまって」


 そう言いつつ、ソフィーはこれまで習った-e形の女性名詞をすぐに暗唱してみせた。


「じゃあ……Die Liebe, die Strafe, die Lilie……」


「はい、よくできました」



◇◇◇◇



「まったく、これまでの家庭教師は何をしていたのです」


 一日の授業が終わり、私はつい、過去の家庭教師への不平を洩らしてしまう。


 こんなに優秀な女の子が十三になるまで読み書きができなかったなんて、到底信じられなかった。


「これまでの、先生方ですか。えっと、まず聖書を与えられて、それから……」


 ソフィーの言葉に、私は呆れてしまった。


 自らの仕事を聖なる職業と堅く信じる宗教学校や国民学校の教師は、子どもがすでに読み書きをできるものと想定しているのだ。彼らの関心は宗教倫理を広めることにあって、文字の読み方を教えることにはなかった。


 アルファベットの綴りや日常の基礎単語を教えるといった雑事は「教母(Lesegotten)」、つまりは結婚せず、生活のために働かなければならない女性のすることで、自分たちとは関係ないと、なんとも傲慢な考えを持つ教師もいた。


 ソフィーの過去の家庭教師も、そういったタイプのようだった。


 それは、単にソフィーの運が悪いというだけでは済まされない。彼女の人生を左右する、極めて大事な事柄だった。


「それは本当に酷い。聞いているだけで、怒りが湧き上がってきました」


「ね?ひどいでしょう?わたくしは文字も読めないのに、先生方は聖書を読めと繰り返すだけで、わたくしができないでいると、ただただ怒鳴り散らすのです」


 誰かを非難するとき、人は素の感情を表すものだ。ソフィーが自然な笑顔を見せたのは、図らずもそれが初めてだった。


「だからね、レギーナ」


 と言って、ソフィーは私を真っ直ぐ見つめる。


「だからわたくし、あなたを遣わしてくださったことに、毎晩感謝をしているのです」


「誰に、ですか?」


 私の問いに、ソフィーはさも当然のことのように、自然と答えた。


「誰って、もちろん、神様にですわ」

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