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12.ベルリンでの休暇③

 翌日。


 ライ麦パン、マーマレードジャム、ゆで卵、ソーセージ、りんごに食後のコーヒー。


 宿で提供される栄養たっぷりの朝食をゆっくりと取った後、私達はとある図書館に向かっている。そこで開かれる読書会に参加するためだ。


「読書会というものには、学校のように大勢の方がいらっしゃるのでしょう……?」


「心配いりませんよ。多くて二十人くらいではないでしょうか」


「に、二十人……大勢ではないですか……」


 そう言うと、ソフィーは握っていた私の手にさらに力を込めた。


 足取りは軽いとは言えない。


 はあ、とついたため息が、白い蒸気となってベルリンの空へと消えていく。


 一つの教室に百人を超す子どもがすし詰めになることもある学校教育の現状、そして、家庭教師による一対一の授業がどれほどの知的贅沢であるかも、今のソフィーには想像もできないだろう。


「大丈夫です。あなたの聡明さは私が保証します。ほら、行きましょう」


「わ、わたくしの側を離れないでくださいね!」


 読書会に参加して、ソフィーの知見を広めること。それが課外授業の一つだった。


「大きな街では、その、読書会というのがよく開かれるのですか?」


 道中、ソフィーが聞いた。


「そうですね。そうですが、ベルリンはやはり特別です」


「特別?」


「はい。ライプツィヒほどではありませんが、ベルリンも本の街と言われています。人口も多いですから、自主的な文化活動も、自然と活発になるのです」


 大都市の恵まれた環境の中、図書館や学校、コーヒーハウスを拠点にして、数多くのクラブが読書会を開催していた。


 教師、教授、職人、労働者、神学者、芸術家に医者。そこでは全ての参加者が自分の経験と興味を持ち込み、出自や職業に関係なく、自由で活発な議論が行われるのだという。


 多くのクラブでは女性は正式な会員になることはできないけれど、ゲストとして議論に参加することは許されていた。


 私たちが向かっている読書会も、そのような場の一つ。アニオール村の牧師様からのつてで、とある教会が主催する読書会を紹介してもらったのだ。


 読書会のテーマは『フリードリヒ・シュライアーマッハ-による女性のための教理問答』。


「その、シュライアーマッハー様は、高名な教授様でいらっしゃるのですね?」


「ええ、ソフィー。昨日訪れたベルリン大学の創立にも関り、大学で教授も勤める名の知れた神学者様です」


 その論文に私は目を通したことはないけれど、このテーマだし、もしかしたら女性の参加者も多いかもしれない。学校に通っていないソフィーも、新しい経験が得られるかもしれない。


 と、そう思ったのだけれど。その期待は大きく外れる結果となった。



◇◇◇◇



『Bibliothek der Ev.-Luth. Paulus-Kirchengemeinde Kreuzberg (クロイツベルク・福音ルター派パウルス教区図書館)』



「どうやらここのようですね」


「これが図書館ですか……」


 街の中心からは外れた場所にある、薄い黄色の漆喰壁に朱色のレンガ屋根の建物。


 そこに私達の目的地であることを示す表札が打ち付けられていた。その入口の扉を、私は開いた。


「すいません、読書会に参加したいのですが」


 受付にはお年を召されたご老人が座っていて、私たちを一瞥した。


 信仰の篤さの垣間見える、落ち着いた、やわらなか笑顔を作った。


「おや、このような可愛らしいお嬢さん方がいらっしゃるとは……どなたかのご紹介かな?」


「はい、ザクセン地方のアニオール村の牧師様の紹介です」


 紹介状を受け取ると、受付のご老人はもう一度落ち着いた笑顔を作り、私とソフィーを建物の奥の方へと導いた。


「いや、これはよい心がけだ。どうぞ、こちらへ。お嬢さん方」


 案内されたのは、図書館の読書室。


 小さめの教室ほどの広さのその部屋には、黒い服を着た牧師、それから年配の、教養を感じさせる参加者達。全部で三十名くらいだろうか。参加者は思ったよりも多い。でも活気よりも、重苦しい雰囲気が漂っていた。若い参加者、そして女性は、私達だけだった。

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