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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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魔法学院二年目 : 卒業式を眺めながら

 つつがなく日々は過ぎて行き、季節は春になろうとしていた。

 サーシャの目の前では三年生達の卒業式が行われている。 彼女らの行き先はまちまちで、魔法を生かし探索者になる者もいれば、そのまま実家へ戻り結婚して家庭を持つ者もいる。

 仲の良い上級生がいない者からすると興味の無い行事ということは古今東西変わらない様で、そこら中からコソコソと話し声が聞こえている。

 サーシャは隣にいたフィオレンツァやティスティアーナたちに聞こえる様に、ポツリと疑問を口に出す。


「遺跡に潜っていた方たちは全員卒業生でしたよね。 今後はどうするんでしょうか……」


「さぁね。 けどあそこは魔法使いにとってはまだ稼げるところでしょ? 探索者やるんならまた潜るんじゃないの?」


 ティスティアーナの言葉にサーシャはある程度納得した様に頷く。

 彼女が言うとおり、南の遺跡は稼げる所ではある。 魔法使いにとってはだが。


 南の遺跡の一定階層から出るミスリルゴーレムとミスリルハンドは高く売れる、いや売れていた。

 それに拍車をかけたのがサーシャが作る様に進言した遺跡の地図である。 その正確な情報はエトルリアに帝都に全て伝わった。 伝わり過ぎた。

 どの地点にどの魔物がおり、どの様な特性を持つか、まで載った地図はサーシャの奇襲戦法と相まって、魔法使いたちによる乱獲に発展した。

 その結果、ミスリルの価値は日に日に下がっていった。 需要に対して供給過多だったのだ。 最近では新人の探索者でもミスリルの装備品を買えるまでに価値が下降してからは落ち着きを見せている。


「そこらへんはあんたの方が詳しいわよね。 町の鍛冶屋に出入りしてるんでしょ?」


「そうですね。 リタも忙しくなったと言ってました」


「ああ、君の友達のか。 そういえば最近顔を見せないな」


 リタは時々寮に顔を出していたが、最近は忙しいのかこちらから出向く以外では見なかった。


「輸出用に加工依頼が来たと言っていました。 国内での需要には大体答え切ったのでしょうね」


 それを聞き及んだ時のリタの表情が、とてもとても疲れ切っていたのを思い出し、クスリと笑うサーシャ。 その笑顔は周りから見ている者をハッとさせる様な美しさだったが、本人はその視線に気付かない。

 そうこうしているうちに噂が噂を呼び、尾ひれが付いてファンを増やしていく。


「まー無いと思うけど、もしかしたらあたしたちに遺跡に潜れって話が来るかもね。 たまに暴れるのは良いんだけど頻繁に潜れって言われるのはイヤだわ」


 もし、遺跡攻略の人員が足りなくなった場合、まず関係者の頭に浮かぶのは知り合い、身内の顔だろう。 すなわちサーシャやフィオレンツァ、ティスティアーナだ。

 戦闘など出来るだけしたくないとサーシャが言ったため、その意思を汲んでくれる可能性もあるが、本気で人が居ないなら無視されるだろう。


「遺跡をなんとかするのは貴族の義務だからな。 私やティスは仕方ないだろう。 とはいえ、サーシャの指示に従うと、どうも狩りっぽくなってしまって戦っているという感じが無いのがな」


「贅沢言わないでくださいフィオ様、私はみんなが安全であるようにと考えているのですよ?」


 心外だというサーシャに、フィオレンツァは曖昧な表情を返す。


「わかってる、わかっているよ。 けどまぁ退屈な物は仕方ないだろ?」


「そーね、あんたの指揮は退屈だわ。 もっと刺激的な戦い方とか無いの?」


 そうサーシャに問うティスティアーナだったが、その顔はどうせ無いんでしょ? という軽く馬鹿にした物であった。

 その事に気付いているサーシャは、少し考えてから口を開く。


「そういうのが聞きたいなら、酒場にいる探索者の方たちに聞くといいですよ。 血湧き肉躍る様なお話が聞けるでしょう。 ……誇張してますけど」


 なんてね、と茶目っ気たっぷりに語るサーシャに、ティスティアーナは露骨に嫌な顔をした。


「まったく、あたしがそんなことしないと思って馬鹿にして。 ま、頼まれてもしないけどね」


「そうこう言ってるうちに……」


 卒業式は終わりを迎えるようだ。 壇上ではエドガルドが締めの挨拶に入っている。 その話は退屈その物だったが、彼には珍しく気を使ったのか短く済んだ。

 サーシャにとって、始めての卒業式は雑談まみれで終わった。



-----



「はーい、わたしたち三年生、あなたたち二年生おめでとー!」


 エレナの脳天気な声が響く。 マドンニーナ魔法学院の制度は適当で、四月から進級、という物ではない。 三年生が卒業したから、繰り上がって在校生が進級する。

 だから、三年生が卒業した今日で進級である。 というわけで、エレナの提案により軽いお祝い会が開かれていた。 料理を作るのはサーシャとリリアナだが。


「さーひゃ! おつまみまだぁ?」


「はいはい。 ちょっとだけ待ってくださいねー チーズでも食べててください」


 厨房に催促の声が響き渡る。

 しこたま酔っ払ったティスティアーナは呂律が回っていない。 それを軽くあしらいながら、サーシャはフライパンを振る。


「リリアナさんも混ざって来ていいですよ、私はフィオ様に止められててお酒は飲めませんし」


「そう? うーん…… わかった」


 リリアナはサーシャを気遣う目線を送るが、サーシャの決意が強いことがわかり、大人しく騒がしいテーブルに向かうことにした。


「そうそう、甘えてくれて良いんですよ。 まだ子供なんですからね」


「いや、サーシャちゃんの方が子供に見えるんだけどね……」


 精神年齢基準で言ってしまった事を少し後悔しつつ、サーシャはリリアナを見送った。



「キャハハハハハ! フィオ! もっとバーって飲みなさいよ!」


「ティスがこんなに酒癖が悪いとは思わなかった……」


 背中をバシバシ叩くティスティアーナに辟易したフィオレンツァがぼやく。 しかも積極的に絡むのはフィオレンツァにだけだったから、彼女は疲れ切っていた。

 それを我関せずといったクールな表情で見つめながら、ジーナは杯を傾けていた。


「ふぅ…… たまにはこう騒がしいのも良い物かもしれないわね。 静かすぎるよりは大分良い」


「なぁに? ジーナも絡まれたいのぉ? ならわたしがからんであげるわよー」


 手をわきわきさせてジーナに迫るエレナに、ジーナは軽く視線を送ってため息をついた。


「要らないわよ、こうして眺めてるだけで良いわ」


 その言葉を聞いて、フィオレンツァが疲れた顔をジーナに向ける。


「出来れば助けて欲しいんだがな……」


「残念ね、出来ないから助けれられないわ」


 その返答はさらにフィオレンツァを疲れさせた。


「なに!? 助けて欲しいの? あたしにまかせなしゃいよ!」


「いや、お前から助けて欲しいんだよ」


 そんなこんなをしていると、厨房からリリアナがやってきた。

 リリアナはその場の惨状に、少しだけ戻って来たことを後悔した。


「えっ、えっと。 やっぱりあたしサーシャちゃんのところへ……」


「逃がすと思うかリリアナ。 ほら、こっち来てティスの相手をしてやれ」


「あ、やっぱりそうなるの? はぁ……」


 そう言いつつもリリアナは大人しくティスティアーナの隣の席へ座った。 酔っ払ったティスティアーナはリリアナでも良かったのか、しきりにスキンシップを取りつつ絡んでいった。


「さて……」


 ティスティアーナの矛先が自分に来る前に避難しようと、フィオレンツァはサーシャがいる厨房へ向かった。

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