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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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はじめてのおつかい その2

「ここが雑貨屋さんですかね?」


 鍛冶屋よりも小さめの木造の建物だ、看板には丸っこいビンの絵が描いてあった。

 扉に手をかけたサーシャは先ほどの醜態を思い出し、一息ついた。


(どんな珍獣が出てきても驚かないようにしよう……)


 そんな失礼なことを念頭に置いて、サーシャは気合を入れた。


「たのもう!」


「ふあぁぁ。ん?客かい」


 カウンターに肘を乗せてあくびをし、面倒臭そうに眉を潜めた女性がそこにいた。

 赤毛に頬に一本傷、やさぐれたような瞳が印象的で、年の頃は30ぐらいだろうか。


「随分可愛らしい子だね、おつかい?」


 顔をほころばせ、にこやかに女性は話しかけてきた。


「そのようなものです。はじめまして、私はアレクサンドラ・イヴァーノヴナ・ドラゴミーロフといいます。サーシャとお呼びください」


「ん、礼儀正しくて良い事だ。あたしはアマンダ・コスタだ。」


 よろしく、と手を差し出してきたアマンダを見てサーシャは気がついた。

 アマンダの左腕は肩から先がない、隻腕だった。

 気にしないようにしてサーシャは手を握り返した。


「はい、よろしくお願いします」


 隻腕を気にしないサーシャにアマンダは機嫌を良くした。


「あたしの腕を見て表情を変えないか、いい子だね可愛いし」


「先ほど鍛冶屋さんで大失敗しまして……」


 うつむきながらサーシャは鍛冶屋での一件を話した。



「あはははは!死んだふりかい!そりゃいいや!」


 アマンダは話を聞いて腹を抱えて笑った。


「笑い事じゃないですよ……大変な失礼をしてしまいました」


 いやいや、とうつむくサーシャに笑いながらアマンダは手を振る。


「鍛冶屋の親父は慣れてるから良いのさ、酒場に行ったらその場に居た全員に驚かれたとか言ってたよ。全員知り合いなのに」


「それはそれでひどい話ですね……」


「ま、そんなことはどうでもいいね。ろくなもんはないが商品を見ていってくれ」


 あっけらかんと商売に移るアマンダ。


 サーシャは陳列棚を眺めていると、床に妙なものが置かれているのに気がついた。


「アマンダさん、これなんですか?」


 握りこぶしを模した綺麗で大きな置物で、手首の部分に当たるところに穴が空いている。


(見たことがない金属……金属だな。よく出来た置物だ)


「それはミスリルハンドの死骸だよ。売約済みだけどね

置物として好事家にたまに売れるんだよ」


「ミスリル?ミスリルですか?」


 サーシャが知っているミスリルはある作家が生み出した架空の金属だ。

 鋼より簡単に鍛えられて鋼より強い、という特性があったと記憶している。


「やっかいな金属らしくてね、鍛冶屋の親父が言うには、熱しても熱しても硬くて形が変えられない、だってさ

武器に出来たら相当強いだろうって話だけどね。見た目が綺麗だからって置物として買っていく奴はいるんだよ」


 アマンダの話を聞きながら腕を組んで考えこむ。


(名前が一緒なだけで性質は違うんだろうか。軽くて硬いってところは共通してるけど)



「ちなみに雷帝こと、あんたの親が仕留めた奴だよそれは」


「そうなんですか?」


「厳密に言うとあんたの可愛らしい母親だろうけどね、魔法でドカンと穴を開けたんだろう。

銀髪は珍しいしそっくりだ、あんたが娘だってすぐにわかったよ」


 可愛いしね、意味深な視線を送ってくるアマンダ。


「あたしはあいつらと組んで冒険者をやってたのさ。腕を無くして引退したんだけどね」


 アマンダは昔話を語り出した。



---



 その後、アマンダが腕を無くした事件の話を聞き終わったところに後ろから扉が開く音が聞こえてきた。


「ああ、サーシャここに居たんだね。アマンダさんこんにちは」


 ダーシャは店の中に入るとアマンダに挨拶した。


「ダーシャか、この子を引き取りに来たのかい?」


「ええ、お話の途中でしたか?」


「いや、もう終わったところさ」


 話をする二人を尻目にサーシャは陳列棚にある一点の商品を手にとっていた。


「アマンダさん、これと魔石を売ってもらえませんか?」


「魔石?この袋の中にあるのがそうだけど、

魔力を流しても何の効果も出なかった魔石しか無いよ」


 じゃらじゃらと音を立てる袋を振るアマンダ。


「じゃあ全部ください」


「えっ?」

「えっ?」


 何言ってんだこいつという目で見るアマンダと、なにかおかしいことを言ったかわからないサーシャ。

 二人の間に微妙な空気が流れた。


「えーと、何に使うんだい」


 気を取り直して尋ねるアマンダ。

 アマンダからすると魔力を流しても反応しないということはゴミでしかない。

 一応取っておいたが不良在庫でしか無いのだ。


「実験です、もしかしたら有用かもしれませんよ?」


(仕組みや法則を知るためにも試剤は多いほうがいい)


 さらりと答えるサーシャに売っていいものか悩むが、

不良在庫の解消が出来るのはいいことだろうとアマンダは考えた。


「ところで銀貨四枚しか無いんですが、これで足りますか?」


「銀貨って……子供に何持たせてるんだい」


 アマンダは腕を組んで傍観しているダーシャに声を潜めて話しかける。


「母様の指示だから仕方ないんですよ」


 あからさまに面白がった表情で返答するダーシャ。


「まぁ人様の教育方針に口を出す気は無いよ。ところで値段だけど……」


 アマンダは顎に手をやり、少し考えるような仕草を見せた。


「うん、ただでいいよ。あんたにあげる」


 太っ腹なアマンダにサーシャは慌ててしまった。


「そんな、悪いですよ」


「埃かぶってたろ?どうせ売れやしないんだ、あんたが有効に使うんだったら道具も喜ぶってもんだよ」


 ところで、とアマンダは言葉を続ける。


「自分の店にあるものだけど、それなんなんだい?

だいぶ前にあんたの親から仕入れたんだけどさ」


 アマンダはサーシャが陳列棚から取って来た物をあごでさした。

 その品についた埃を取っていたサーシャは振り向いて答える。


「双眼鏡です」

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