表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
87/95

魔法学院一年目 : 魔力喰い

「なんだそりゃ…… 聞いたことないな。 先輩どうです? 心当たり有ります?」


「俺は町の警備ばっかだし、遺跡に潜るお前が知らなきゃ俺も知らんよ」


 聞く相手を間違ったか、とアウルは思いつつ、目の前の怯えきった女に目をやった。

 体を隠すようなローブ、決して離さぬように、魔石が付いた杖をしっかりを抱いている。 年齢は三十ぐらいだろうか。

 典型的な探索者の魔法使いだった、装備が豪華な訳でもないので貴族ではないだろう。


 女が騎士団詰め所に飛び込んできたのは先程の事だ。 行方が分からない仲間の探索と、妙な魔物の遭遇報告をしてきた。 手が空いていたアウルは混乱した女を落ち着かせ、話を聞いていた。 他の団員は探索のための準備を進めている。


「肌色のスライムに似た魔物ねぇ……」


 スライムなどと呼ばれる似たような魔物は存在する。 遺跡の天井に潜み、人を発見すると奇襲するように上から襲ってくる。 頭を覆い、窒息させてきたり、強酸の体を持っていたりする。 剣で切っても効果があまりないので、無視するか焼くかどちらかで対処する。

 しかし、肌色では無かったはずだ。 スライムなら水色であるはず。


「それに…… 森に居たって?」


 コクコクと女は首を上下に動かす。 よっぽど怖い目にあったらしく、ビクビクしている。 アウルは自分が責めているような口調になっていないか心配になった。


「もう一度確認するけど。 あんたらは三人で森に狩りに行った。 無事獲物を仕留めて帰ろうとしたところで……」


 アウルは何と呼称していいのか悩む。


「えーっと、それが現れたと。 んで」


 改めて女を見るとその服装はボロボロだ。 顔も汚れていて、そこそこの美貌も台無しになっている。


(もうちょい可愛くて年齢が下なら口説きたいとこだなー)


 アウルは当人ではないため、かなり気楽に聞いていた。 女は大分怯えているが、探索者の命は軽い。

 探索者が死ぬのはいつものこと。 という考えがまだアウルにはあった。 女の言うことは恐怖が作り出した幻想の可能性もある。


「同行してた二人がやられた。 と、けどあんた魔法使いだろ? その魔石がなんだかわかんねぇけどスライム如き何とかなるんじゃないのか?」


 アウルの認識からすれば、スライムは動きが遅く、奇襲で敢え無くやられてしまわない限りはどうとでもなる相手だ。 魔法使いがいるなら尚更だ。

 女は首を振る、とんでもないことだと言わんばかりに。


「あ? 魔法が使えなかった?」


 潜んでいた肌色の魔物に襲われたのは女だったらしい。 肌に引っ付いた魔物を振り払い、氷柱をぶつけてやろうとしたところ、魔法が発動しなかったそうだ。 と、いうか魔法を発動させようとしたが、彼女は全身が脱力して動けなかったそうだ。


「つーと、魔力切れって事か? そんなにバカスカ使ってたとか?」


 そういうことでは無かったらしい、まだ氷柱を何発も出せるだけの余裕はあった、と女は言う。 だがしかし、実際は魔法は出ず、魔力が枯渇した。 魔力の残りは間違いなく有ったそうだ、そこを判断出来ないのに探索者などやってられないと、女は少し怒った様に言うのだ。


 肌色の魔物は素早く、同行していた戦士の男二人は善戦したそうだがやられてしまったらしい。

 そのやられ方も奇妙だったと。 魔物に触れられると、どんどん動きが鈍くなりやられてしまった。 それは魔力切れで脱力する症状に似ていた。


「魔物が触れると動けなくなる…… 毒とかか? けどあんたは今大丈夫そうだしなぁ」


 女が体験したのは一時的な魔力切れだったので、男たちがやられそうになっているのを見て逃げ出したらしい。

 助けを呼んできてくれ、と言われたのもあり、魔法を使えない女には何も出来ないのがわかっていたのもある。


「場所はわかるんだよな? 取り敢えず火炎瓶を持っていこう。 先輩、準備出来てますか?」


 鎧を着込み、武器のチェックに余念の無い熊の亜人に声を掛けると、彼はニヤリと頷いた。 油をたっぷりと入れ、布を導火線とした火炎瓶――サーシャが考案し、作成させた物だが――をいくつか用意すると、詰め所に居た騎士たちは北の森へ出発した。



-----



「あー 逃げる際に木に傷をつけといたのか。 これ辿ってけば良いわけだよな」


 そろそろ夕刻になる時間帯だったので、騎士団は急いでいた。 軽い怪我をしていた探索者の女は置いて行くつもりだったが、仲間が心配なのかついてきていた。 どちらにしろ道案内は必要だった。


「えっ? ここ? なんもねぇぞ……」


 女が指差した木には十字の傷が付けられていた。 ここが魔物と遭遇した場所なのだという。


「いや、なんかあんな。 なんだありゃ…… 装備か?」


 森の地面には服や鎧、剣などが散乱していた…… いや、散乱していたというには奇麗だった。 装備していたであろう探索者の姿は見当たらない、探索者であったであろう物体もだ。


「妙に奇麗だし…… なんだこの違和感は」


 死体が魔物に食われたのなら、血が残ってたりする物だし、鎧が奇麗に残るわけがない。 まるで、地面に倒れた状態で、人だけが溶けて消えた様な装備の残り方だった。


「なんともねぇな……」


 アウルは恐る恐る触ってみたが、なんらおかしいところは無かった。 ただの鋼鉄製のチェストプレートや、ズボン、ニーパットや鋼鉄製のロングソードなど普通の装備だ。


「一応持って帰るか…… 形見になるかもだしな」


 ふと、女を見ると悲しそうに目を背けていた。 仲間が死んでいるかもしれないと実感したのだろう。

 アウルは余計な事を言ったか、と鼻をポリポリかきながら装備を集めていた、その時。


「うわああ!」


 背後から騎士の叫び声が聞こえた、アウルや女が装備品を集めている間、彼らは周りを警戒していた。

 何かに襲われたのか、と思ってアウルは素早く騎士たちの元へ戻った。


「なっ!?」


 探索者の女が言った通りの肌色のスライムの様な魔物が、壮年の騎士の肩にのしかかっていた。 他の騎士が剣で無理矢理魔物を叩き落とす。 のしかかられていた騎士は、探索者の女の報告通り、魔力切れの症状で動けていない様だ。


「火炎瓶だ!」


アウルや他の騎士たちは、持ってきた火炎瓶に『火』の魔石で着火して魔物に投げつける。


 魔物の動きは素早く、全ては当たらなかったが、一本は魔物の近くにあたり、瓶は割れて火が魔物を包んだ。


「うわっ、くっせぇな……」


 死体を焼いた様な臭いにアウルは鼻を摘まむ。

 火が消えると、プスプスと焼け焦げた魔物の死体が残った。 焼き過ぎた肉の様な外見はグロテスクだった。


「これどうします…… えっ? 俺が持って帰るんですか?」


 先輩らは嫌な仕事を若輩者であるアウルに押し付けてきた。 少し不満に思いながらも布で死体を包み、背負った。


「くっせぇ……」


 異臭漂う死体を背負いながらも、夕刻になるまで、行方不明の探索者を探したが、見つからなかったので騎士たちはこの日は引き上げた。


 持ち帰った魔物の死体は調べられたが、よく分からなかった。 スライムの様な液体では無く、肉の塊なのでは、という推測だけだった。 魔物はその被害状況から鑑みて、魔力喰いと名付けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ