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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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魔法学院一年目 : 秋の訪れ

 春が過ぎ、夏も終わり、季節は秋となった。 空は秋晴だ、雲ひとつ無い快晴で少し日差しが眩しすぎるぐらいだ。

 寮から学院までの道を友人たちと歩く。 とめどもない話をしつつ、優雅に歩く彼女たちは、他の少女たちからの視線を否応無しに集めていた。


「毎日の事だから慣れたけど…… いや、まだ慣れないね。 この熱の篭った視線は」


「リリアナさんは綺麗になりましたからね。 半年前のそばかすだらけの貴女からは想像が出来ないでしょう」


 イレーネ直伝の化粧術と美容法を教わったリリアナは、本人の性格もあってか毎日コツコツと実践した。 その甲斐あってか、顔からそばかすは消えて、水を弾く玉の肌に。 そして、適当に伸ばしていただけの髪も流れるような美しさになっていた。


「この視線を集めてるのはあたしじゃ無いと思うなぁ……」


「じゃあ誰だと言うんだ?」


「これだもん。 サーシャちゃんもフィオも自覚足りな過ぎ!」


 サーシャ"さん"から"ちゃん"になったことに、サーシャは苦々しい顔をする。 まだ呼び捨ての方がマシだった。

 自らを愛称で呼ぶ様になった友人に、フィオレンツァは薄い微笑みを返す。 その、自信に満ち溢れた笑みは周りの少女たちを魅了し、黄色い歓声をあげさせた。


 フィオレンツァは如何なる相手でも態度を変えなかった。 それはその対処しか知らないというだけの事だったのだが、他の者にはそうは写らなかった。

 上級生や教師にも屈せず、自分の意見を堂々という姿は、少女たちには輝いて見えていたことだろう。

 彼女は教師たちが困っていた学院の経営について、自らの領地運営の経験から意見を出し、見事に解決した事が有った。

 それから彼女は女王と呼ばれている。 この学院の治世を行う女王であると。

 この半年で一五○センチほどに身長も伸び、特徴的な白い髪と切れ長の青い瞳が一種の神々しさと風格を産んでいた。


「フィオ様は流石の人気ですね。 ティス様も人気がありますし。 やはり産まれが高貴だと違うのでしょうか」


 そう言いつつサーシャは優しげに微笑んだ。 母を思わせる慈愛に満ちた微笑みと流れる銀の髪、取り巻きの少女たちはうっとりとため息をつく。

 "彼女"は学院でも成績優秀で、先遣隊のリーダーとして活躍した。 その成果は騎士団を唸らせ、遺跡攻略への糸口を作った、と少女たちの間では噂されている。

 学院で成績優秀なのは、前世でこの世界とは比べ物にならない高等教育を受けていたからで、礼節に関してもイレーネに鍛えられたお陰だ。 それに遺跡攻略の鍵となったガルヴォルンだって、金属の『でたらめ』のお陰である。

 だが、"彼女"は姫と呼ばれている。 女王に寄り添う、腰まである銀色の髪を持つ美しい姫君。

 身長はさっぱり伸びず、未だにギリギリ一四○センチだったが。 姫君の異名は、フィオレンツァと比べると、まるで姉妹か親子の様に見えなくも無い所からも来ている。

 その割に胸だけは成長を続け、一種の扇情的な雰囲気を生み出していた。 そこに母性を感じている生徒も多い様だった。

 そんな環境に"彼"は必死で耐えていた。 自分に幻想を抱く少女たちを傷付けない様に、相応しい自分であるために。


「あたしが人気あるって? あんた本気で言ってんの? どう見てもこれはあんたとフィオの取り巻きよ」


 ティスティアーナはフィオレンツァとあまり身長が変わらず、並ぶと姉妹の様に見えていた。

 無論、フィオレンツァが姉でティスティアーナが妹だ。 ずけずけと物を言い、ある意味庶民的な彼女は生意気な妹、としての地位を確立していた。 そう言ったティスティアーナに魅力を感じる少女たちも居たが、サーシャ、フィオレンツァの二大巨頭に比べれば小勢力だった。


「あ、サーシャさん。 おはようございます! ……相変わらず凄いですね」


 猫耳の少女…… ソニアが元気に挨拶する。 彼女は取り巻きの少女たちに対して好奇の目で見ていた。

 寮生の一年生とソニアが並んで歩く。 それがいつもの登校風景となっていた。

 トコトコと、周りの少女たちと比べると歩幅が狭いので早歩きをしつつ、サーシャは考え事をしていた。


 サーシャが先遣隊として南の遺跡へ入ってから、もう二ヶ月が経つ。 ガルヴォルンの対策も騎士団側で決まり、実際の遺跡攻略で成功したと伝え聞いた。

 その後も先遣隊として何回か潜ったが、ここ最近はめっきり無い。 三年生から選りすぐった魔法使いたちと騎士団は、順調に遺跡を攻略していると耳にしている。

 先遣隊の活躍を知った少女たちからは、遺跡へ潜りたいという希望者も出ているらしい。 サーシャからすれば自ら危険に乗り込む事が理解出来ないが。

 たまにソニアも同行している様で、彼女が戦闘狂だということがわかる。

 何らかのつまづきが有ったならば、相談してくるかもしれないが、今の所は平穏を楽しむつもりだった。

 秋の涼しい風が流れてくる。 サーシャは乱れる髪を抑えつつ。


「サーシャ、どうした」


「いえ、こんな日が続けば良いですよね。 何も無いけど平和で安らかな……」


 まるで歌う様にさえずるサーシャに、フィオレンツァは少し皮肉気な笑みを浮かべた。


「私としては遺跡の緊張感も嫌いでは無いのだがな」


「フィオ様、基本的には危ない事なのですよ? 出来るだけ避けてくださいね、私に対処出来る物などあまり無いのですから」


 子供を叱る様に見上げてくるサーシャに、フィオレンツァはほくそ笑んだ。 まるで子供が大人ぶっている様に見えたから。


「…… 今、私の身長について考えませんでしたか?」


「いや、考えていないぞ」


 平然とした顔でフィオレンツァは嘘をついた。

 さっぱり伸びない身長をサーシャは気にし始めていた。 前世では平均的な男性としての身長を持っていたから、その時と比べると不便な点も多々あるのだ。


「歩幅が足りないんですよねぇ……」


 足が短いと言うわけでは無いが、周りとの身長差は年々激しくなっている。 いつの間にやら十三歳になった、成長してほしい身長は成長せず、胸ばかり成長する体に苛立ちすら感じているサーシャだった。


「サーシャちゃん、今、魔石学って何やってるの?」


 リリアナは魔石学の授業に出たが、授業らしい授業を行わないレベッカについて行けず、別の授業に移っていた。 とはいえ、レベッカの研究の行方が気になってはいるようだ。 魔石を作り出すと言う夢物語の。


「大雑把に言えば研究のお手伝いですよ。 最終目標には遠いですけどね」


「サーシャちゃんも大変だよね」


「わからないことをはっきりさせるのは楽しいですよ。 わかりきった物よりは遥かにね」


 未だにどういう物なのかわかりきっていない魔石。 その研究は簡単な数学や礼節などよりサーシャに刺激を与えていた。

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