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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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魔法学院一年目 : 南の遺跡、にかいめ そのに

 少女たちの細腕から魔法が、弓から矢がゴーレムたちに襲いかかる。 身体から魔力を吸い上げ、破壊的な魔法を生成する。 放たれた軌跡は輝き、ゴーレムの体を通っていった。

 場数を踏んで、彼女たちが撃つ魔法は狙いが正確になっていた。 ミスリルゴーレムは真っ二つに切断され、火球に燃やされて溶けた。

 ミスリルゴーレム二体はあっという間に無力化された。 残るは黒いゴーレムだ。


 鉄の矢は風を切って、黒いゴーレムに向かって走る。 黒いゴーレムはその矢を受けて、穴を空けられて怯む。 しかし、歩みは止まらない、少女たちに向かって一歩、また一歩と進んでくる。


「ティス様! 射ち続けますよ!」


 矢をつがえる事で返事としたティスティアーナは、悠然と進む黒いゴーレムに向けて矢を連射した。

 鉄の矢は黒いゴーレムの体に穴を開けていく、まるで矢を避けるかの様に穴が空いて、そのまま貫通している事から見て、黒いゴーレムはガルヴォルンで出来ているのだろうとわかる。

 ガルヴォルンゴーレムの股関節の部分を、矢が数本通り抜け溶かし切る。 足を失ってバランスを崩し、腕を地に付いて倒れそうになるゴーレムを見て、一人の少女が猛然と駆け寄る。


「てぇえええい!」


 気合が入った掛け声と共にジャンプしたソニアは、ガルヴォルンゴーレムが防御しようとして振り上げた腕ごと、刃を通した。 ガルヴォルンゴーレムの体から、肩口がずり落ちた。

 重い金属が地面に落ちた音が響く。 それに構わずにガルヴォルンゴーレムは、無事な方の腕をソニアに向かって振った。 風を切る音が聞こえるほど勢い良く振られたその腕に当たれば、ソニアの華奢な体をグシャグシャにしただろう、しかし、巨腕は誰もいない空間を通りすぎるだけだった。

 ソニアはスライディングして巨腕をかわし、ガルヴォルンゴーレムの無事な方の脇下に移動していた。 彼女はニヤリと楽しそうに笑いながら剣を振り上げる。 鋼の剣はガルヴォルンゴーレムの腕を切り飛ばした。 もうガルヴォルンゴーレムの四肢で無事なのは片足しかない。

 その片足で健気にも立とうとするガルヴォルンゴーレムに、笑いを浮かべた猫耳の可愛らしい少女がその足を切り飛ばした。


 その大立ち回りを、サーシャとティスティアーナはぼーっと見ていた。 援護しようにも、動き回るソニアに当たりかねなかったからだ。 ティスティアーナはどうしようかと戸惑っていたが、隣のサーシャが弓を下ろして。


「まぁ、ソニアさんですから大丈夫でしょう」


 と、言うものだから二人してぼーっと見ていた。


「ミスリルゴーレムは無力化した…… んだが、どうなっているんだこれは」


 ミスリルゴーレムを無力化したことを確認して、サーシャたちの元へやってきたフィオレンツァの目には、巨人の四肢を断ち切って満足そうに剣を振るって鞘に仕舞うソニアの姿。 そして、それをぼーっと見ているサーシャとティスティアーナの姿があった。


「あれ、まだこれ生きてますよ。 四肢が無いから何も出来ないでしょうけどね」


 ソニアの言う通り、ガルヴォルンゴーレムはピクピクと動いていた。 ミスリルゴーレムの方はピクリとも動いていない。

 興味をそそられたサーシャは一歩前に出る。


「ちょっと調べてみましょうか」


 念のため腰に差して置いた鋼のナイフを抜きながら、ガルヴォルンゴーレムに近付く。


「調べるって、何を調べるのよ」


「ティス様、なんでこんな金属の塊が動いているのか気になりません? 他の魔物は生き物ですけど、ゴーレムって無機物ですよ。 そんなものが動くはずがないじゃないですか」


 何か有るはず…… と言いながらスッとナイフをガルヴォルンゴーレムの胴体に当てる。 見る人が見れば、それは開腹手術に似ていた。


「なんだか屠殺してるみたいだね……」


 リリアナにはそう見えたようだ。 その言葉に、家畜の屠殺シーンを見たことがある者たちは気分が悪くなってしまった。


 ガルヴォルンを溶かしつつ、何かを探り続けていたサーシャが声を上げた。


「んっ? これは…… 魔石?」


 黒く輝くガルヴォルンとは、少し違う黒さを持つ鉱物が胸の中心付近にあった。 サーシャは躊躇なく腕を伸ばし、魔石に触れる。


「魔力を通し…… 通せない? いや、文字は見える、なんで見えるの? この文字は…… あっ!」


 パリンという音が鳴り、魔石は割れた。 それと同時にガルヴォルンゴーレムの動きが完全に止まる。


「魔石が体内に有ったのか。 それが人間で言うところの心臓だったのか?」


「詳しい事はわかりません、なぜ砕けたのかも。 けれど文字は読み取れました」


 魔石の文字をサーシャが読み取れることは、場にいる全員が知っていた。 皆、息を飲んでサーシャの言葉を待つ。


「『自動』 自動と書いてありました」


 ガルヴォルンゴーレムの胸にあった魔石が、砕ける直前に読み取れたのはそれだけだ。 サーシャはまだ何か書かれていた様な気がしている。


「自動、自ら動くということか。 つまりその魔石に操られていたとでも言うのか?」


「その魔石の効力がそういった物なのかもしれません。 ゴーレムの様な無機物を動かす。 問題は誰がこんな事をしたか、ということなんですがね」


 そればかりはわからない。 現時点では材料が足りないのだ、この謎を解くために必要な材料は多岐に渡るだろう、そもそもわかるのかどうか。


「サーシャはその特定の誰か、がやったって言いたいのね? そりゃまぁ自然に出来る物とは思えないけれどね」


「ティス様もそう思いますよね、そもそも……」


 サーシャは周りを見渡す。 白い発光する謎の鉱石、明るくまるで太陽があるかのような草原。 人に開けられるように出来ている扉。 まるで、人が使うことを想定しているような……


「こういう遺跡自体、誰かが用意したものだと思っています。 遺跡…… 人が過ごしていた町などが地中から発見された…… という代物では無いでしょうこれは。 誰かがこの遺跡という名前の迷宮を用意したんです」


「誰って…… 誰なの?」


「リリアナさん、それはわかりません。 わかりませんけど、あんまり友達にはなりたくないですよね。 根が暗そうです」


「確かにな、一人で…… かどうかはわからんが、こんな地下に洞窟やら草原やら作るやつは、よっぽど暇な変人だろう」


「ですよね、フィオ様」


 フィオレンツァと考えが合っていたことが嬉しいのか、サーシャが微笑む。 事の発端のサーシャは笑っていたが、疑問提起されたことで、他の少女たちは腕を組んで悩んでいた。


「まぁ考えたってわからないことなんです。 あまり考え込まない方が良いですよ?」


「そもそもあんたが言い出したんでしょ!」


 無責任なサーシャにティスティアーナが憤る。 サーシャは思い付いたことを言っただけのつもりであって、彼女たちをそこまで悩ませるつもりは無かった。


「今までのゴーレムは、あの魔石を無意識に破壊してたって事になるんですか?」


「そうかもね、さっきサーシャさんが触った魔石は跡形も無く粉々になっちゃったし」


「ゴーレムやハンドといった金属の魔物は、核として魔石が何処かに有るって事ですね。 有意義な情報だと思います。 騎士団の方たちにも知らせてあげましょう」


 サーシャはバッグから羊皮紙と羽ペンを取り出してメモをとる。 ついでに地図の原型も書いておいた。 この三部屋目から、扉が二つあり分岐している。 これを虱潰しに次階層への階段を探すのは大変そうだ、とサーシャは眉をひそめた。


「あんたのバッグ、なんでも入ってるわね……」


 『軽量化』のバッグには、サーシャがあるといいなと思ったものが際限なく詰め込まれている。 『軽量化』の効果で羽根のように軽いが、効果が無ければかなりの重さだろう。 それだけ無駄なものが入っている。


「水筒とか食料とか大事ですよ? …… そうだ、携帯食料の研究が中途半端でしたね。 そういえばチョコレートもまだ作ってなかったですし……」


 食料、というサーシャの呟きを聞いて、誰かのお腹がくぅ、と鳴いた。


「あはははは、お腹空いちゃったね。 今日は帰ろうか」


 結局、今回は三部屋目までしか行けなかった。 この調子だと、いつ終わるのかがわからない。


(人手があればな…… そのためにも僕らが先回りして、調べなければいけないのだけど。 面倒だなぁ、そもそも戦闘自体があまり好きではないし)


 戦闘狂の鑑であるソニアとは違って、サーシャは戦いなどやらなくていいのなら、やらない方が面倒が無くていいと思っている。 相手が話の通じない魔物だから仕方が無いが、話が通じていたのなら交渉に持ち込んでいただろう。


(厄介な相手だよ、魔物は。 敵にしかなりえない)


 考え事をしていたためか、サーシャは他の少女たちより遅れて動いていた。 慌てて彼女らの元へ駆け寄る。


「では帰るとするか。 サーシャ、理事長と騎士団への報告頼むな」


「わかりましたフィオ様。 ……ところでガルヴォルンゴーレムどうしましょうか。もう少し実験してみたいので持ち帰りたいところなのが、さすがに私たちでは運べませんよね」


 二メートルの巨体である。 横幅も広く、ミスリルより重いため少女たちの細腕では持っていけない。


「騎士団の連中に伝えておけ。 消えてなくなる前に回収させればいいだろう」


「わかりました。 地上で待っている方にお願いしておきましょう」


「サーシャ、ガルヴォルンは役立たずだったのではないのか?」


 フィオレンツァは疑問を口にする。 サーシャのガルヴォルンに対する落胆を目にしている、彼女が執着しているように見える理由がわからない。


「液体になるなら、液体として使うのも手かと思いましてね。 今は居ませんけど、魔法を使ってくるような魔物が出る可能性があるので」


 ガルヴォルンゴーレムの制御に、魔石が使われていた件のことである。 念には念を入れておく事は大事だろう。


「まぁ、合金化させて性質が変化するかもしれませんしね。 今のままでは名前負けしていますし」


 楽しそうな目をするサーシャに、フィオレンツァは何も言えなくなった。 楽しそうにしているのは本当だったから、止める謂れも無い。

だから、こう言った。


「そうか、頑張れよ」


「はい! フィオ様、私頑張ります!」


 メラメラと燃える目をするサーシャに、フィオレンツァは薄い笑みを浮かべて見守っていた。


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