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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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魔法学院一年目 : 昼食とお買い物と

 体育の授業は終わった。

 シャワーの様なものがあるところが、流石はお嬢様学校だとサーシャは感心した…… 裸の少女たちから目を逸らすのが大変だったが。

 今回は取り敢えず模擬戦だけだったが、今後は体力作りも含めた授業を行うらしい……

 サーシャは、マラソンなどがあったらどうすればいいのだろうか、と考え込んだが答えは出ない。

 素直に言うしかないだろう。 走ったら転ぶのだと。

 その時の事を思うと、ため息しか出ないが、仕方が無い。


「はぁ……」


 同じ様にため息をついている者が居た。 隣の席のリリアナだ。


「どうしましたか、リリアナさん?」


「いやぁ、お昼ご飯ってあれじゃない?」


 体育が終わり、昼食の時間である。 しかしリリアナは嫌そうな顔をしている。

 何故なら。


「礼節の授業の実践なんだもの。 寮なら無作法でもいいけど、お昼ご飯は先生がついてるし……」


 そう、教師がテーブルマナーを監視しているのだ。

 食堂に一年ごとの生徒が集められ、食事を取るのだが。 各テーブルには教師が歩き回り、マナーの教育を施すのだ。


 サーシャが持ち込んだフォークとナイフによって、各国のテーブルマナーは変わった。

 手掴みで食し、汚れはフィンガーボールで洗う。 といった物が、フォークとナイフを器用に使い、手を汚さずに食べることが正しい、ということになったのだ。

 正しい、というかテーブルマナー界における、現在の流行がそれ、ということなのだが。

 最近では一般市民にも浸透してきたようで、自分のフォークとナイフを持っているのは当然となっていた。

 手掴みだと、汚れを洗い取るのも面倒だから広まったのだろう。


 とはいえ、孤児院でそんなことはあまりしていなかったのだろうから、リリアナが困っているのも仕方が無い話である。

 半年ぐらいのアマル家での教育も、中途半端な物だったらしい。 彼女に習慣付けるところまでいっていない。


「憂鬱だよ~」


「フォークやナイフを使わないメニュー、というのも選べませんしね…… えっと、頑張ってくださいね」


「うーん、頑張る~」


 悩みながらも彼女は前向きだ。 そんなリリアナを見て、サーシャは心が温かくなった。



 リリアナは昼食の時間を切り抜けた。 隣にいたサーシャの動きを同じ様に行うことで、なんとか誤魔化したのだ。

 とはいえ、こんな方法では身につかない。 なんとかしなければいけない、とリリアナは悩むのだった。



-----



「サーシャ、何処へ行くんだ? 茶でも淹れてもらおうかと思ったんだが」


 今日の授業が終わり、サーシャが寮から出かけようとしていた所に、フィオレンツァが話しかけてきた。


「食材の買い出しと…… 友達に会いに行こうかと。 あ、夕食の準備までには戻ってきますよ?」


 結局の所、食事はサーシャとリリアナが調理している。

 材料費は寮生各々が出しているが、料理が出来ない者に食材の買い出しをさせるのは厳しい。

 こうしてサーシャが買い出しに出かけるのも、もう珍しくない光景となりつつある。


「ほお…… 友達な。 …… 私も行くかな」


「へ? 構いませんが……」


 こちらは珍しい事だった。 フィオレンツァが買い出しに付き合う事など、帝都で過ごしている時は一切無かったからだ。

 戸惑いを隠していないサーシャに、フィオレンツァは眉をひそめる。


「なんだ? そんなに意外か」


 心外、といった風にフィオレンツァはサーシャを見る。 その目に気圧されながらも、サーシャは答える。


「まぁ、有り体に言ってしまえば」


「ふん、たまには良いだろう? 私とて、そういう時もある」


「は、はぁ…… では、行きましょうか……」


 そう言われてしまえば、反対する理由もいわれもない。

 サーシャは首を傾げながらも、フィオレンツァを伴って寮から出た。



-----



「おじさま、ごきげんよう」


「おお、サーシャちゃんじゃねえか」


 食料品店の店主は、サーシャを見て愉快そうに笑う。 顔馴染み、というにはまだ日数が足りないかもしれない。

 しかし、サーシャの髪は目立つ。 覚えやすいのだろう。

 店主はサーシャに付いてきているフィオレンツァに気付く。


「お友達かい? また綺麗な娘だな」


「口説かないでくださいね? 大事なご主人様なのですから」


 それを聞いた店主がニヤリと笑う。


「サーシャちゃんはそっち(・・・)の趣味があるとはなぁ」


 セクハラ紛いの店主に、サーシャは少し眉をひそめた。 店主は女同士での恋愛関係の事を言っている。 サーシャとフィオレンツァが、その様な関係にあることを示唆しているのだ。


「あの…… この場合の主人というのは、雇用主、ということですから……」


「ハハハハハ! 分かってるよ! お貴族様なんだろ?」


 悪びれずに笑う店主をよそに、フィオレンツァがサーシャの肩を叩く。


「なあサーシャよ、今の話のどこに笑う要素があったんだ?」


 キョトンとしているフィオレンツァを見て、サーシャは唖然とする。 その反応から、目の前の少女が清廉であることがわかる。


「そうですね…… わからなくても良いんです。 フィオ様はそのままでいてください」


 サーシャは子を見守る親の様な気持ちで、フィオレンツァの肩に両手を置いた。


「ふむ、なんだかよくわからんがわかった」


「んで、買いもんしなくて良いのかい? ご主人様を見せに来てくれた訳でもないんだろ?」


 ニヤニヤしている店主の言うとおりだ。 サーシャは並ぶ食品を、頭の中にあるレシピに従って手にとっていく。

 ふと、当たり前のように並んでいる、ジャガイモが目に付いた。


「ジャガイモも広まり始めましたね……」


「加工しなくていいのが素晴らしい! って農家の奴が言ってたよ。 小麦は粉にしなきゃならんから面倒だとさ」


 サーシャは町に住んでいるので、大抵粉になった小麦しか見ない。 なのでそういう苦労は感じたことはなかった。

 ゴロゴロと並ぶジャガイモは、土を払った程度だ。 それはそれは楽だろう。

 前世で食べたジャガイモ料理を、サーシャはいくつか思い出す。 再現出来そうな物がちらほらあるな、と思い、ジャガイモも手に取る。


「肉は何がありますか?」


 問われた店主は、店内にある冷蔵庫の中を覗く。

 肉を取り扱う店は、大抵が『氷』による冷蔵庫を備えている。


「カモシカにウサギ、牛に豚、後は魔物の……」


「魔物はいいです…… ではカモシカをください。 カツレツにするので…… ん、三○○グラムほど」


「あいよっと」


 店主は冷蔵庫から取り出した、肉の塊を適当にナイフで切る。 それを測りに乗せて、重さを測っている。


「ちと多いが、まぁいいだろ。 美人にはおまけしとかねぇとな」


「ふふっ、ありがとうございます」


 軽口を言う店主に、サーシャは爽やかに微笑んだ。

 店主はカモシカの肉を、経木の様な物に包んでくれた。 その他の食品の代金も含め、サーシャは支払いを済ませ、食品を受け取った。


「ぽいぽいっと。 『軽量化』様々ですね……」


 力がとてもとても弱く、買い出しなぞ出来なさそうなサーシャが、日常的に買い出しに出れるのは、『軽量化』のバッグのおかげである。

 これが無ければ、誰か荷物持ちが必要となるだろう。 それほどまでにサーシャは非力だ。


「サーシャちゃん。 あと、ご主人様」


 店を離れて少しして。

 サーシャたちは食料品店の店主に呼ばれた。 そういえばフィオレンツァの名前を教えていなかったな、などと思いつつサーシャは振り返る。

 すると、二人に赤い物が投げつけられた。 リンゴだ。


「やるよ、美味いぞ」


「ありがとうございます!」


 少し離れた店主に向かって、サーシャは礼を言った。 フィオレンツァも片手を上げて礼としていた。


 そこからさらに歩いたところで、リンゴを齧っていたフィオレンツァが口を開く。


「あの店主とは随分仲が良いようだったな」


「そうですか? 普通だと想いますけど」


 サーシャは首を傾げて考えるも、先程のやり取りから仲の良さが感じられなかった。 普通のやりとりだった、という印象しかない。


「そうか? あれがか? 冗談を言いあったり、おまけしてくれたり、仲の良い人物にしかやらないことではないのか?」


「うーん、そうですねぇ……」


 サーシャはどう説明すべきか悩んだ。 あの店主は人が良く、ノリも軽い。 だからあの様なやりとりだったのだが、それをそのまま説明しても、わかってもらえない気がした。


「おまけしてくれたのは、フィオ様が美人だったからですよ」


「なっ……」


 矛先が自分に回ってくるとは思っていなかったのだろう。 フィオレンツァは狼狽し、顔を赤らめる。

 肌が白い彼女が赤面すると、かなり目立つ。 まるで手に持ったリンゴのようだ。

 少し面白くなったサーシャは、追い打ちをかける。


「男の方は、美人の前ではいい格好をしたがるものですから。 あの店主もそういうことだったのですよ」


「おい、サーシャ。 ほ、本当か?」


「さあて、どうでしょうね? 今度会った時に聞いてみましょうか?」


「いや、いい。 いらない!」


 首を必死に振って否定するフィオレンツァが可愛らしかったので、サーシャは頬が緩むのを我慢しきれなかった。

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