魔法の特訓
サーシャの魔法で岩場を吹き飛ばしたのは黙っておこうということになった。
「この島は帝国の所有物だし、ふっ飛ばしたのバレるとカティに怒られる……」
怒られる事を想像してか、しょんぼりしているヴァーニャを見て、サーシャは謝った。
「ご、ごめんなさいお父様」
「なに、バレなきゃいいんだ。バレなきゃ…… だから早めにここから離れよう」
ナディアにおんぶされながらの帰宅途中、サーシャは島の事について尋ねた。
「お母様、この島について聞かせてくれませんか?後、もう歩けるので下ろしてはもらえませんか?」
「島の説明は良いわよ。下ろすのは嫌」
ナディアはゆっくりと語り始めた。
語られた内容は以下の通りだった。
島の名前はエルバ島、南北四〇キロメートル東西二〇キロメートルぐらいの大きさで、サーシャ達がいるのは島の中央付近。
鉱物資材が豊富だと調査でわかっており、十年前から開拓を開始した。
サーシャ達の家から東へ歩いて二時間ほどのところに港と開拓村があるが、魔物の存在があるためあまり開拓は進んでいない。
「遺跡探索の人数を増やせればいいのだけど、帝国自体も魔物に囲まれてる状態だからか、誰も送ってくれないのよね」
「鉱物資源ですか!何が採れるんですか!?」
「鉄鉱石と金……後は銀だったかしらね。」
サーシャは良く知っている鉱物だったことに少し落胆していた。この世界独特の鉱物が近くで採れるならいじらせてもらえるかも、と考えていたのだ。
(まぁそんなに上手くはいかないか。魔石という興味深い研究対象も見つかったし、それで我慢しよう。)
「説明ありがとうございました、お母様。ところで下ろしてくれませんか?」
「嫌よ」
その後、ナディアはサーシャをおんぶし続け、夕食時にやっと下ろした。
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「魔法の特訓をします」
翌日、サーシャは椅子に座っていたリーゼを捕まえてそう宣言した。
「はい、頑張ってくださいね」
リーゼはノリが悪かった。
「やり方がわからないので教えて下さい!お願いします!」
「急に卑屈にならないでください!私にどうしろっていうんですか!」
雰囲気を変えるために咳払いをしてサーシャはリーゼに説明した。魔石に注ぎ込む
魔力量の調整が出来ないこと、そして練習に使うには魔石付きコンパウンドボウが危険なことを。
「そうですね……小さい魔石で練習すれば良いのではないでしょうか」
「小さい魔石ですか?」
「ええ、私が以前使っていたものです。ちょっと待っていて下さい、確か部屋にあった
はずです」
リーゼは自室から二つの小石のようなものを持ってきて、テーブルの上に置いた。
「この二つは同じものです。魔力を通すと火が出ます」
リーゼが片方の魔石に触れて少し経つと、魔石から小さな火が付いた。十秒ほどして火は消えた。
「魔力量を調整することで、火の大きさや消えるまでの時間は変わります。私が使っていない方の魔石を差し上げます。
調整の練習ならこれで出来ると思います。私も付き合いますから外で試しましょうか」
「そうですね!練習あるのみです!」
二人は外に出た、緑が映える草原に気持ちがいい風が吹いていた。
念の為に家から五分ほど離れたところに大きめの石を置き、その上に魔石を置いた。
「ではいきます!」
サーシャは座り込んで魔石に手を当て集中した。体内の熱いものを全力で魔石に
注ぎ込む。
「んっ……えい!」
サーシャは気合を入れて魔石に魔力を押し込んだが、何も起こらなかった。
首をかしげたサーシャは魔石をじっと見つめた。
(失敗した?)
「サーシャ様、一応後ろに下がってください」
魔石から手を離し、後ろで見守っていたリーゼの元へ歩き出した瞬間。高く伸びた炎が魔石から吐き出された。
「熱っ!熱いです!」
風が吹いていたのもあって、サーシャは炎に煽られてしまった。幸いにして引火しなかったが熱いものは熱い。
「大丈夫ですかサーシャ様!」
リーゼが慌ててサーシャを手元に抱き寄せた。
「一旦下がりましょう、危ないです」
二人はダッシュで避難した。炎はその後、十分は消えなかった。
炎が消えた後、念のため五分ほど様子をうかがってから、二人は確認のため魔石のところに戻った。
サーシャは恐る恐る魔石に触ったが熱くはなかった。
「熱くは……無いんですね」
「そうですね、魔石で火を起こしたり氷を出しても熱くなったり冷たくなったりはしません。
それにしてもすごい炎でしたね。私が全力で魔力を注いでもこんな炎は出ませんよ……まぁ、私の魔力量は少ないほうですが」
(確かにすごい炎だった、魔法ってすごいものなのだなぁ)
リーゼはサーシャの目線に合わせて座った。サーシャの肩を力強く握り、諭すように言った。
「サーシャ様の魔力量は素晴らしいものですが、調整が出来ないと危険すぎます。
出来るようになるまで私が付き合います、是が非にでも頑張ってもらいます。
わかりましたか?」
「わ、わかりました。私、頑張ります!」
いつもの優しいリーゼとは別人のような迫力にサーシャは首を縦に振るしかなかった。




