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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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帝都二年目の冬 : 同胞との楽しい語らい

 ロドリゴの表情は驚愕に満ちていた。

 サーシャの顔をマジマジと見ながら、口をパクパクさせている。


『そ、そうだ! 貴様もなのか? どうやって来た! どうやったら帰れる! 俺はあの糞共にタイ』


『黙れ』


 ピシャリと、サーシャはロドリゴを黙らせた。

 痛みに飼い慣らされたロドリゴは、慌てて口を閉じる。


『質問にだけ答えるんだ。 君は五年前に豹変したと聞いた。 〈ロドリゴ〉が〈君〉に変わったのはその時かい?』


 サーシャは雑談の中で紫雲から、異世界への行き方の違いを聞いていた。

 本による知識だとのことだが、サーシャは初めて知ることばかりだった。


 異世界に姿をそのまま召喚される、異世界召喚。

 異世界の生き物に生まれ変わる、異世界転生。

 異世界の生き物に魂が憑依する、異世界憑依。


 ロドリゴが五年前に豹変したという話を聞いて、サーシャはもしかしてと思ったのだ。

 現に、彼は元の世界だの、この世界だのと、話の端々に滲み出ていた。

 そして悲鳴を上げた時に、サーシャにはそれが日本語に聞こえていた。

 これらの証拠と、帝国の人間にしては過激すぎる行動。

 それら全てが彼を異世界人だと表明していた。


『YESなら首を縦に、NOなら首を横に振るんだ』


 ロドリゴは首を縦に振る。


『君は権力を欲して貴族達を暗殺した。 少女達を誘拐し、地下室に閉じ込めた。 そうだろう?』


 ロドリゴは少したじろいだが、素直に首を縦に振った。


『そしてだ』


 サーシャはロドリゴを冷たく見据える。 その瞳からは殺意が見えた。


『火縄銃を作ろうとしたな?』


『な、何故そのことを!』


 サーシャの手からナイフがきらめき、ロドリゴの肩口に深々と突き刺さった。


『ぎゃあああああ!』


『YESかNOで答えるんだ』


 サーシャはナイフを引き抜きつつ、『治癒』してやる。


『あの馬鹿みたいな粗雑な火縄銃の設計図。 あれで火縄銃を量産しようとしたんだろう?』


 ロドリゴは目に涙を浮かべながら、必死で首を縦に振った。


『硝石やら、硫黄やらはどうしたんだ? 黒色火薬はもう作ってあるのか』


 ロドリゴは首を縦に振る。 硫黄はとにかく、硝石はどこから手に入れたのだろう。


『発言を許す、硝石と硫黄の入手手段と、黒色火薬の在り処を言え』


 ロドリゴは話し始めた。


『硫黄は商人から仕入れた…… 帝都でも売っているはずだ。 硝石もあったが足りなかった、だから作った』


 作った、と聞いてサーシャの眉がピクリと動く。


『硝石培養法か』


 ロドリゴがコクリと首を縦に振る。


『どこだ?』


『う、裏山にある。 俺がこの世界に来てから一年で作った……』


 つまり四年は経っているということだろう。 手間を惜しまず世話しているのなら、硝石はもう採れるだろう。


『こ、黒色火薬もその近くの小屋に置いてある』


(ということは、銃本体と弾さえ手に入れば完成していた所だったのか。 危ないところだったな)


 聞くことは聞いた、だがまだわからないことがある。

 ロドリゴは何を求めていたのか。

 単なる欲望のままに突き進んだ結果だろうか、それとも……


『発言を許す。 君が何故そこまで権力を欲したんだ?』


 ロドリゴは感極まったように表情を一変させ、叫ぶように答えた。


『元の世界に戻る方法を探すためだ。 そのためには人手がいる。 王宮には古文書とかいう本があるっていうじゃないか。 それに帰還の方法が載っていたら…… もし、それに載っていないなら、この国以外に攻め込んで、そこで情報を得ればいい。 それでもダメならまた他の国に攻め込む! 銃さえあればやれるはずだ、どうにかして元の世界に戻れるんだ! そうだ、貴様も協力して……』


『そうか、わかった。 少し黙れ』


 サーシャはロドリゴの頭に『電』の魔石を押し付けて、彼の意識を奪った。



「さて……」


 一応、情報は出揃ったと言っていいかもしれない。 サーシャにとって、もうロドリゴに用はない。

 だが、彼は異世界人だった。 しかも野望を持った。

 彼が帰りたい、という気持ちもわからなくはない。 方法はさておいてだ。

 しかし、生かしておくには危険だった。

 また火縄銃など作ろうとした時には。 それが止められなかったらと思うと寒気がする。

 始末するべきだ、とサーシャは考えた、だが。


 ふと、地下室への扉が目に入った。


「彼女達を助けないといけませんね…… すこし考えたいですし、開けてみましょうか」


 石造りを思い扉を、サーシャは必死で開けた。

 壁に引っかかっていたランプを取り、『火』の魔石で明かりを灯す。

 そして、地下への階段を下り始めた。



 地下室のドアを開けた時に、まず気になったのは異臭だった。

 血の匂いと糞の匂い…… そして死臭だ。

 ランプで照らすと、十人の枷を繋がれた全裸の少女達が見える。

 彼女達はいずれもぐったりしており、生気が見られなかった。


 背中がすこし動いている者がいた、生きてはいるのだろう。

 床にはムチやロウソクや男性器を模した張り型、その他様々な拷問器具があり、地下室の主の性格を物語っていた。


 サーシャは生死の確認をするために、動いていた少女に近寄った。


「ひいっ!来ないで!来ないでぇ!」


 足音を感じ取った事で恐怖に怯えた少女が、発狂したように叫ぶ。

 余程酷い目にあったと見え、傷だらけの肌が痛々しかった。


「落ち着いてください。 私は貴女達を助けに来ました」


 サーシャは反応した少女の肌に触れ、『治癒』の魔石に魔力を流し込んだ。

 ガクン、と力が抜けていくような感覚を覚える。

 少女の傷は多く、深かった。 その治療には多量の魔力を必要としていた。


「弓の魔石より消費したような……」


 重傷の『治癒』は何度も行うには多量の魔力が必要なようだ。


「痛みは無くなりましたか? 私の声が聞こえていますよね?」


 黒髪の……サーシャより幼いであろう少女は弱々しくうなずき、涙をこぼした。


「他の方は……」


 サーシャは周りの少女を見やるが、ピクリともしていなかった。

 ランプで照らして念入りに確認すると、ウジが湧いているものすらいた。


「この人は、まだ生きてる……」


 かなりの重傷だった。 その少女に近寄って抱き起こすと、か細く息をしていた。

 『治癒』をかける。 みるみる傷が塞がっていくが、サーシャは体内から魔力が失われて行くの感じていた。

 どうやら、少女は死は免れたようだ。

 しかし、栄養不足や失血は回復しないようで、今だに弱々しい。


「私の声が聞こえますか? 助けに来ました。 他に生きてる方は居ませんか?」


 少女は弱々しく首を振った。


「アーダは五日前に死んだ。 クララは三日前、ダフネは昨日…… 他の人はいつ死んだかすら覚えてない……」


「…… わかりました。 もう喋らないでください。 行きましょう」


 二人の少女の枷を破壊して、サーシャは二人を先導しつつ、ロドリゴの部屋に戻った。


 二人の少女は縛られたロドリゴを見て、露骨に怯え出したが、サーシャがどうにかなだめた。


「ああ、そうだ。 貴女達」


 サーシャはロドリゴを指差して、少女達を見た。


「彼、もう必要無いんですけど。 どうします? ああ、使うならどうぞ」


 少女達に二降りのナイフを渡す。

 二人は目を白黒させていたが、じっとナイフとロドリゴをみつめていた。


「地下室の惨状がわかれば、彼は国に捕まるでしょう。 しかし、貴女達はそれでいいですか?」


 サーシャは暗に復讐をするなら、今だと言っている。

 その言葉は甘く、少女達の頭に入っていった。


「すこし待ってください…… えいっ」


 椅子のロープを解き、ロドリゴを地下室への階段に突き落とす。

 サーシャは地下室に再度降りると、ロドリゴが死なず、今だに気絶していることを確認する。


(『電』の魔石が無ければこうもスムーズにはいかなかった。 アランさんには感謝だな)


 後ろから、二人の少女が着いてきていた。


「ここなら血が残っていても、不審に思われませんよ。 彼女達の分までどうぞ」


 サーシャは残った少女達を煽る。

 こいつは先に死んでいった少女達の仇だと、仇を取るのは自分達だと思わせる。


「ああそうだ…… 事故死、と処理するつもりなので。 ある程度の原型は残して置いてくださいね」


 サーシャは階段を上って、後始末を始めた。


(ハニートラップというのも、馬鹿には出来ないものだ。 ん? 僕の身体には付いているのだから、ハニートラップになるのか? ……どうでもいいか、甘い話には注意しないからこうなる。 人の恨みはやはり買うものではないね、僕も注意しよう)


 地下から声が聞こえる。


『ぎゃあああああ! き、貴様ら、何故動ける? 足の腱は切ったはずだ! やめろ! こんなところで死にたくない、俺は帰るんだ! やめろ! やめ……』


 それを最後に声は聞こえなくなり、肉を刺す音が、絶え間無く聞こえた。



-----



 サーシャは後始末を終えた。

 ロドリゴの死体は治癒で綺麗に直し、首の骨を折っておいた。 服を着せ、有る程度は綺麗にしてやった。

 地下室へ、サーシャを連れ込もうとして階段で転んで死んだ、という事にしておく。

 ロドリゴの出血がすごかったが、少女達の血と混ざってしまっている。 科学鑑定なんてないのだから大丈夫だろう。


 部屋は綺麗にしておいた、証拠が見つかることは無いだろう。

 部屋のカーテンを引き裂いて、少女達を包む。 ついでにナイフに着いた血を拭き取り、回収する。

 そして、サーシャは返り血一つない綺麗な姿で意気揚々と部屋から出た。


 部屋の外には瑞穂が心配そうな顔をして立っていた。


「ああ、うるさかったですか?」


 サーシャは平然とした風に話しかける。


「今来たばっかりだし、何にも聞こえなかったから逆に心配で……」


 どうやら防音は優秀だったらしい、ロドリゴの悲鳴も聞こえていなかったようだ。


「そうですか…… 重畳ですね。 瑞穂さん、彼女達は生存者です。 弱っているので治療と世話を」


 このまま馬車で、帝都に連れて帰ろうかと思ったが。

 弱り方から見て、ここで休ませた方がいいだろうと判断した。


 神妙な顔でうなずいた瑞穂が、彼女達を連れて行く。

 その姿を見送っていたサーシャは、後ろからの気配に気付く。


 振り向くと、執事の老人がサーシャに駆け寄ってくる。


「おお…… 無事でしたか……」


「それが……」


 サーシャは特訓した演技力を遺憾なく発揮した。

 地下室に連れて行かれ、手篭めにされそうになったがロドリゴが転落し、事故死した。

 その後、地下室に十人の少女達が繋がれていて、二人は生きていたので連れてきた、と。


 その言葉を聞いた老人は驚愕の表情を浮かべたのち、涙を漏らした。


「我々が…… 本来は我々が旦那様を諌めねばならなかったのです…… それを怠ったが故にこんな事に……」


 本心から反省しているようだったが、サーシャにとってはどうでもいい。

 冷静かつ、冷やかに返した。


「実は私は、国の中央に知り合いがございます。 事は全て伝わるでしょう…… 現場は騎士団が抑えますので、貴方達は待機していてください…… 生き残った少女達を瑞穂が世話をしています。 貴方も手伝いをお願いします」


 老人は涙を堪えてうなずくと、瑞穂が向かった方向に走り出した。

 根はいい人なのだろう。


 サーシャは騎士団を呼ぶために、馬車の所へ戻った。



「おせぇぞ銀髪。 もう出発しようかと思ってたぜ」


 御者は少し機嫌が良さそうに笑った。

 どうやらサーシャの無事を喜んでくれているらしい。


「ご心配かけました。 急いで帝都に戻ってもらえますか?」


「おう、金はたんまり頼むぜ」


 軽い、心地よいやり取りと共に、馬車は駆け出した。



-----



 サーシャは、待機してもらっていたカティに事を簡単に説明した。

 カティは騎士団を直ぐにまとめ上げ、ボルジャ領に向かって行った。

 後で理由を聞かせてもらう、との言葉を残して。


 どちらかというと、今回の一件より、カティの追求の方が怖そうだった。



 その後、サーシャはコソコソとヴィスコンティの屋敷へ戻った。

 ロドリゴの屋敷で時間を食ったのと、カティと話したため、随分と遅くなってしまった。


 一応手鏡で返り血などが付いてない事を確認する。 大丈夫そうだった。

 忍び足で玄関を開けて、人が居ないことを確認する。

 カティとの約束があるから、遅くなるとイレーネ以外には言っておいたのだが。

 出来ればドレス姿を見られる前に部屋に逃走したかった。

 自室前に着き、ホッとするサーシャ。

 これでゆっくり休める、と思いながらドアを開くと……


 そこには仁王立ちして、怒りを隠そうともしていない、フィオレンツァの姿があった。



「えっと…… お嬢様? 何故私の部屋に?」


 後ろ手でドアを締めると、フィオレンツァが顔を伏せながら、ずんずんと寄ってくる。

 おろおろとするサーシャの顔を挟むように、フィオレンツァはドアに両手を付ける。

 フィオレンツァはサーシャを真正面から睨みつけた。 距離が近い。


「イレーネから、カティから、全部話は聞いた」


 サーシャにとって死の宣告に相応しい言葉だった。


(あ、あれだけお嬢様には内緒にと言ったのに……)


「これで二回目だなぁ、サーシャ? ん? 一回目の時、私は言ったよなぁ。 相談しろと、一人でやるなと。 んんんんん? おかしいよなぁ、何で君は今回も一人でやってるんだ? そしてその話を君からでは無くて、イレーネとカティから聞いたんだ?」


 ロドリゴを追い詰めた、冷酷かつ冷静なサーシャはそこには居らず。

 ただ、慌てふためく少女がいた。


「えっとえと、その件に関しましてはですね。 わ、私にも少し考えがあったというか……」


「言い訳するな!」


「ひゃい! すみません!」


 そして、フィオレンツァはジロジロとサーシャの体を見つめてきた。

 好色なロドリゴを誘うために、扇情的なドレスを着ていることをサーシャは思い出し、赤面する。


「ドレスのほつれはあるが、怪我は…… ん? 手を見せろ」


 フィオレンツァはサーシャの手首を取る。 ロドリゴにベッドに投げだされた時に掴まれた場所だ。


「赤くなってるじゃないか…… まさか、ロドリゴにやられたのか」


「え、えっと……」


「答えろサーシャ、命令だ」


「は、はい。 掴まれてベッドに投げられました……」


 それを聞いたフィオレンツァは怒りの表情に一変する。


「なにぃ! 私のサーシャになんて事をするんだ! 準備しろサーシャ、ボルジャ領を攻める」


「落ち着いてください、お嬢様。 すでにロドリゴ様は亡くなっておられます」


 その言葉に溜飲が下がったのか、フィオレンツァは少し落ち着いた様で、自分の髪を払った。


「そうか。 死んだのならばそれでいい。 煉獄で私のサーシャに触れた事を後悔すればいい」


「は、はい……」


 サーシャは少し引いていた。


 ふぅ、とフィオレンツァはため息をついて、表情を変える。

 真面目な顔になって、サーシャの頭を抱くようにかかえた。


「なぁ、サーシャ…… サーシャが何でこんな事をしたのかは聞かない。 イレーネは、私達の仇を取りに行ったと言っていたが。 私が思うに、それだけじゃないんだろう? けど」


 フィオレンツァの表情は、頭を抱えられたサーシャからは見えなかった。

 しかし、なんとなく、なんとなく彼女が涙を堪えているように感じた。


「私はそんな事より、サーシャの方が大事だ。 仇を取るなんてどうでもいい。 今いるイレーネやクレリア、アレシア。 そして君がここに居ることの方が大事なんだ」


 サーシャは何故、彼女がここまで想ってくれるのだろうと考えていた。

 自分はまだ二年も仕えていない。 新参者だし、彼女があまり必要としていないから、侍女としてはさほど役に立っていない。

 なのに、何故この人は自分の為に泣いているのだろう、と。


「お嬢様…… 私は、私はそんな大層な者では無いですよ…… 立派な事をしたわけでもないです。 ただ自分のためにしただけなんです。 自分の都合で、自分が困るから、自分しか出来ないと思ったから」


 その、震えるような声で放たれた言葉を、フィオレンツァは静かに聞いていた。


「そんなことはどうでもいい。 君は君だから、大事にしたいと思ったんだ」


 サーシャは強い衝撃を受けていた。 自分が自分だから、必要とされる。

 能力を使った自分ではなく、素の自分を。

 そんな経験は初めてだった。

 言葉として形に表されたものはサーシャの心に強く衝撃を与え。


 いつの間にか涙が出ていた。


「あれ? いえ…… 泣くつもりなんて無くて…… 私、なんで……」


「良いんだ、サーシャ」


「うぐっ、うわあああああああ!」


 サーシャはフィオレンツァの胸の中でしばらく、泣いた。



-----



「あー、忘れてください、今の忘れてください」


 しばらく泣いた後、サーシャは冷静さを取り戻し、真っ赤になった顔をそっぽに向けていた。


「いやぁ、しばらくは忘れそうにないな。 サーシャも私の胸の感触が忘れられまい。 母のようなこの胸に戻って来てもいいんだぞ?」


 ひどくからかわれているのが、サーシャは分かっている。

 暴れ出したいほど恥ずかしいが、それが何処か心地良く感じているのも事実だった。


「母の胸、というなら。 ぺったんこのお嬢様では少し不足しているのではないでしょうか? 私ぐらいならとにかく」


 胸のネタは瑞穂によく効いた、フィオレンツァにも効くかもしれない。


「ほぉ、サーシャは主人にそんな物言いをするのか。 いけない侍女だなぁ。 じゃあその胸を揉んでやろう」


 フィオレンツァはジリジリとにじり寄ってくる、サーシャは胸を庇うように後退した。

 そういえばまだ扇情的なドレス姿であった。


「それっ!」


「えっ! お嬢様本気で、ちょっとまっ」


 ベッドに投げ出されたサーシャは、しばらくフィオレンツァのおもちゃにされた。



-----



「うう…… お嬢様酷いです……」


「ふふん、私に口答えするからいけないんだ」


 二人ともベッドの上で仰向けになっていた。セミダブルのベッドは、少女二人が乗るには十分な大きさだった。


「サーシャ」


「なんでしょう、お嬢様」


「それだ。 お嬢様、じゃなくてな」


 疑問符を浮かべるサーシャに向かって、少し赤くなった顔を隠すようにしたフィオレンツァは。


「フィオ、と呼べ」


 震える唇はそれだけを発した。


「えっ? お嬢様?」


「だーかーら、お嬢様じゃなくて、フィオ」


 足をバタバタさせて、フィオレンツァは抗議した。


「え、えっと…… フィオ……様」


「様も…… いや、仕方ない。 それで良い」


 フィオレンツァは諦めたように手を投げ出す。

 プラチナブランドと銀髪が降り乱されたベッドの上は、美しく咲き乱れていた。

 フィオレンツァは少しニヤつきながら、片目を開けてサーシャを見る。


「明日からも宜しく頼むぞ、サーシャ」


「はい、お任せください、フィオ様」


「ああ…… おかえりサーシャ、無事で良かった」


 フィオレンツァはサーシャを抱きしめて、そう囁いた。



-----



 次の日、フィオレンツァを起こしに来たイレーネは、彼女が寝室にいないと気付いた。

 もしかして、と思い。 サーシャの部屋に入ったイレーネはにこやかに微笑んだ。


 その目線の先には、姉妹のように手を繋いで眠る、サーシャとフィオレンツァの姿があった。

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