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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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おとぎ話

 ある日、ナディアはサーシャに小包を手渡した。


「おかあさま、これはなんですか?」


「新しい本よ、文法の絵本と帝都から取り寄せたおとぎ話の本ね」


 サーシャの顔が喜びに染まるのを見て、ナディアは絵本を書いた事が正解だったと感じていた。

 数十枚の羊皮紙は安くはなかったが、遺跡で発見した品を売り払ったら、思ったより高く売れたのでお金に困ってはいない。

 ナディアが知るところによると市井での識字率はそう高くはない、文字を習得すれば将来の職業には困らないだろうと判断して絵本を書いたのだ。


「リーゼに全部教えてもらっても良かったのでしょうけど、やはり直感的にわかる絵本の方が良かったわね。 私が教えられればいいのだけど、遺跡探索もしなくてはいけないし」


「後はこれね、この板に砂をまぶして指で文字を書くの。わからないことがあったらリーゼか私に聞いてね」


「ありがとうございます、おかあさま!」


 サーシャは花のような笑顔を浮かべ、ナディアに抱きついた。


「うん、私の娘可愛い!」


 この笑顔のためならお金などどうでもいい、ナディアは我が子を抱きしめながらそう思った。


 なお、二冊の絵本を作るのにかかったお金は一般人が働いた場合の二ヶ月分、わざわざ取り寄せた本は半年分の給金で買えるものである。


---


 それからのサーシャは本の虫になっていた。

 文法の絵本で学習しているうちに、おとぎ話が読めるようになるのが面白かったのだ。


(外国語の勉強なんて前の人生じゃやらなかったけど、こうしてみると面白いものだなぁ)


 おとぎ話の内容が面白かったのも要因の一つだろう。

 セバストスの冒険というタイトルのおとぎ話は、少年が神託を受け、剣と魔法の大冒険に出るという内容だった。

 様々な国に立ち寄った際の描写が妙に細かく、異世界の知識としてはこの上ない資料となっていた。

 とはいえ、おとぎ話なので本当の事かどうかわからなかったため、サーシャはリーゼに聞いてみた。


「リーゼ、この本に載っている事なのですが、本当の事でしょうか?」


「『セバストスの冒険』ですか、懐かしいですね、私も子供の頃に読みました。 単身でドラゴンを倒したとかそういった事についてはわかりませんが。国々の描写については正しい内容だそうです」


 ただし、百年以上前の事ですけど。とリーゼは呟いた。


「そうですか。では、ここに書いてあるコメやショーユというものはあるのですか!」


 サーシャは前のめりになって問いかけた、転生してからパンとオートミールのようなものしか穀物は食べたことがない。

 純正日本人であったサーシャにとっては米が食べたくて仕方がなかった。

 セバストスの冒険には東の島国に行った時にコメやショーユという調味料、ミソシルなどを食べたと書いてあり、挿絵まで付いていた。


(米に醤油、味噌汁……夢が溢れるね)


 サーシャの勢いに押されながらリーゼは答えた。


「わ、私は見たことも食べたこともないですけど。もしかしたら帝都にはあるかもしれません。帝都は貿易が盛んですから」


「帝都ですか!私は帝都に行きます!帝都は遠いのですか!?」


 玄関に走りだそうとするサーシャをリーゼは羽交い絞めにした。


「サーシャ様落ち着いて下さい、帝都には船を使わないと行けませんよ。船は一ヶ月毎に来ていますが今は来ていません!」


 羽交い締めから逃れようとじたばた暴れていたサーシャがピタリと止まった。


「そうですか……」


 がっくりと落ち込んだサーシャにリーゼが補足する。


「え、ええ。ここは島ですからね、帝都は大陸にあります。船で一日はかかりますよ」


「船で一日というと泳ぐわけにはいきませんね……」


(この世界の船はどれぐらいの速度だろうか?帆船はあるだろうけど。

まぁ泳いでいけるような距離でもないだろう。仕方がない、とりあえず米は諦めようか。だがしかし!)


「ではこのページに書かれている、ショートケーキやタルトなどはあるのですか!?」


 転生前の彼は三時のおやつを欠かしたことが無いぐらいのデザート好きだった。

 タルト、ケーキ、和菓子に菓子パン、今の人生では一度も食べたことがない。もしかして生菓子は無いのではないかと諦めかけていたのだ。


「帝都では売っていますよ、非常に高価ですので私は二度しか食べたことないですね。 普段食べることが出来るのはお貴族様のような大きな家の方でしょうね」


「値段は置いておいて、あるのですね!タルトもショートケーキもあるのですね! 生きる理由が増えました!私はお菓子を毎日食べられるようになります!」


「サーシャ様、貴族の方でも毎日は食べないと思いますよ……」


「では、私がお菓子を毎日食べる最初の人になります!」


 どうやら自分ではサーシャを説得できないと判断したリーゼはため息をついた。


(とりあえずの目的はお菓子に米、後は見たこと無い鉱物だな。家から出られない状況が早めに解決してくれるといいんだけど。

鋼の精錬が出来るぐらいだから、火縄銃ぐらいは作れるよな……僕が作ればいいだけの話だし。実際に作ったことはないけど構造ぐらいならわかる。火薬があればいける……鉄砲隊を作って長篠の戦いを魔物相手に再現してみせようか。夢が溢れるね)


 黒い笑みを浮かべながら危ない考えを浮かばせるサーシャは放置して、リーゼは家事を片付けることにした。

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