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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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帝都一年目の春 : ケーキ会議

「人員の確保についてはどうなったんですか?」


「魔法学園の卒業生引っ張ってきて教育中、後は即戦力として読み書きが出来る暇人達を引っ張ってきたわ。大体は貴女の描いた絵の通りよ」


ケーキを頬張っているサーシャの疑問に、カティはカモミールティーを飲みつつ答える。

ここは帝都の一角にある、ケーキ屋。丸いテーブルの上にはワンホールのカットされたケーキが置かれており、それを囲むように四人の女が座っていた。


「魔法学園からの引き抜きは、定期的に行った方が良いと思いますよ。若いから長年使えるわけですし」


一○歳の少女の言葉とは思えない提案に、グラナキア帝国の宰相がうなづく。


「そうね…… この際、学科を作ろうかしらね。リーゼさん、どう思います?」


「それだと男女比が偏ってしまいますね、男子の教育機関も有るべきではないでしょうか。あ、美味しい……」


エプロンドレスではなく、カティと似た様なスーツに身を包んだリーゼが、フォークでふわふわしたケーキをつまみながら言う。


「日曜学校の様なものではなくて、高等学習を受けさせる場って事ですね。ま、考えてみましょう。今までは血筋か推薦ぐらいでしたからね、文官になるには」


淡々と決まる教育機関の方針について。そこに疑問を挟む少女が居た。


「ねぇ…… サーシャ…… なんでケーキ食べに来ただけなのに……こんな会議みたいになってるの?」


「なんででしょうね?」


リタの疑問にサーシャは答えることが出来なかった。



サーシャはリタにケーキを奢るという約束を果たすため、ケーキ屋がある一角まで来ていた。そこに先客としてカティとリーゼの文官コンビが居たのだ。

帝国の運営に軽く口を出すサーシャと、それを真面目に聞くカティ達、そんな組み合わせで話が普通のお茶会の様にはならない事は分かっていたようなものだ。分かっていないのは当人達のみである。



「リタちゃん…… だったわよね。ミスリルの加工が出来るっていう。ミスリルの需要と供給についておしえてくれない?」


「じゅよう……? きょうきゅう……?」


「ミスリルを欲しがってる人がどれだけ居るのか、それに対して答えられているかどうかですよ」


意味がわからず首を傾けるリタに、サーシャがフォローする。


「あ、うん…… 欲しがってる人は…… すごく多いです…… けど材料が足りないから…… 持ち込みでしか今は受けてません……」


リタは言葉を良く考えてから答えた。


「なるほどなるほど、ミスリルの武器防具の需要はあれど、ミスリル自体の供給が足りてないのね…… ミスリルハンドかミスリルゴーレムの安定した狩場があれば、騎士団と魔法使いを派遣するんだけど……」


そう言いつつ、ケーキを食べるカティ。食事をしながら会議することに慣れている動作だった。


「厄介ですよ、ミスリルは。他の金属と合金にしようとしても失敗しました。基本を鉄にしてコーティングしようとしても出来ないんですよね。現状、ミスリルはミスリルのまま使うしかありません。かさ増しが出来ないんですよ」


ミスリルについての実験結果を述べるサーシャ。実験用に残してもらっていたインゴットでいろいろ試したのだが、全て失敗に終わっていた。


「アルバ島への探索者の派遣はしたから、そこから流れてくるのを待つしかないわねー」


どうにかフリーの魔法使いを確保したカティは、護衛を付けてアルバ島へ送り出していた。


「他の国からの輸入というのはどうですか? む、舌触りが良くなってますね。レシピを教えて良かった……」


サーシャが考えとケーキの感想を口にする。

ワンホールケーキは半分以上婦女子達の胃の中へ消えていた。



「その手もあるけど、ミスリルハンドとかは調度品として使われてて高いのよね。ミスリルって綺麗だし。何? ケーキのレシピってサーシャちゃんが教えたの?」


前に乗り出して、カティがケーキの話題に食いつく。


「ぶっ壊れたでっかい手を調度品にするセンスがよくわかりませんね…… 加工技術が伝播出来れば細工して、調度品として売り出すっていうことも可能なんですがねぇ…… ええ、色んなデザートのレシピを教えましたよ。試作に成功すれば店に並ぶ事でしょう」


サーシャが教えたレシピの中には、帝都では見たことがない材料が含まれた物もあったが、特徴は教えたので、案外どうにかするかもしれない。


「ミスリルはまだ貴女たちしか加工出来ないのだから、夢物語ね。仕方のない事ではあるのだけど。そんなにデザートが増えたら給料が飛んじゃうわね……」


「また……こんな感じで…… 分け合えば……いいんじゃないですか?」


デザートの話題にのみついて来ていたリタが、遠慮がちに言う。


「そうですね、その方が財布に痛くありませんし」


力強く賛成するリーゼ。ワンホール銀貨二枚というケーキの価格は、国に勤める者からしても高いようだ。


「砂糖が高いから、らしいですよ、お店のお姉さんの話では。サトウヤシの栽培を考えた方がいいかもしれませんね」


他の材料…… 小麦粉やら卵やらバターやらは手に入りやすいが、砂糖は輸入に頼り切っているため、どうしても値段が高くなるという。


「サーシャちゃん。今度、交易船が帰って来る時に交易物を見てもらえない? 」


カティがかつてから考えていたことを口にする。様々な発想を持つサーシャなら、交易物の中から有用な物を見つけてくれるかもしれない、という期待を持った発言だった。


「ああ、楽しそうですねそれ。わかりました、日時がわかったらヴィスコンティのお屋敷に知らせを下さい」


「そういえばサーシャ様、ヴィスコンティのお屋敷では……」


「特に問題は……いえ、大きい問題が有りましたが……」


「ヴィスコンティ家の事故については……」


「資料を調べる暇が……」


そんな会話を聞きながら、リタはカモミールティーを飲みながら空を見上げる。


「良い……天気だね……」


見上げた空は、雲ひとつない青空だった。季節は春から夏に移ろうとしている。

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