会食 その2
「この後はヴァーニャ達はどうするんだい?帝国に居るんなら東の迷宮の攻略とか……」
「西のゴールに船で行こうと考えてる。随分帝国に居たが、まだ旅の途中だからな」
「全く羨ましい限りだねぇ。そういえばダーシャ君はここで騎士になりたいって言ってたね、騎士団も人手が足りないし好都合だ。推薦状は書いておくから、騎士団の詰め所に持って行っておいで」
「……はっ、有難く存じます」
緊張のあまり、会話に参加してなかったダーシャは急に話を振られて驚いた。
「槍働きは足りてるんじゃないのか?」
「まぁ騎士団は別だよ、そこらから人手を調達するわけにはいかないね。食べさせる必要もある以上、小数精鋭が一番なんだけど。そういう意味ではダーシャ君は良い人材だな。遺跡探索で実戦経験はあるんだし便利に使わせてもらうよ、門番で暇な日常とか考えないでね」
「わかりました、具体的には東の迷宮の攻略ですか?」
「取り敢えずはそこら辺かなぁ。北がちょっときな臭いけど、まだ大丈夫だろうし。君の槍には期待してるよ」
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一方の女性陣も今後の動向を話していた、一人は内面が男だが。
ナディアは隣の国、ゴールにヴァーニャと共に向かうと言った。
「リーゼはどうするの……ってその格好を見る限りは帝国に戻るのね」
「はいお姉さま、元々そのつもりでした」
聞けばリーゼは陛下の侍女をしていたという。それをエルバ島へ向かうヴァーニャ達に貸し与えたような形だったそうだ。
ヴァーニャ、ナディア、レムス、リーゼでパーティを組んでいたらしい。
この場に着てきたエプロンドレスはそういう事だったのかなぁ、とサーシャは考えていた。
「リーゼさんが戻ってくるのは助かります、侍女だけでなく文官としても働いて下さいね」
「ええ……良いですよ。カティ」
リーゼは無表情だったが、サーシャには少し不機嫌そうに見える。大変だとわかっている仕事を押し付けられるのはさすがに嫌なのだろうか。
「サーシャはどうしたいの?私達に着いてくる?」
(そうだな……)
サーシャはそう言われて困ってしまった。彼には現在大した目標は無い。
強いて言うなら知識欲を満たすために古文書を読んだりすることぐらいだ。
生きるだけを考えれば、他の土地へ行くよりかは帝国に居たほうが良さそうに感じる。
彼がその目で見た帝国は平和そのものだったし、物資も豊富そうだ。それに上下水道まで整理されている都市が他にあるだろうか?
他の地域はどうなのか?そういった事がわからない以上、ここから動くべきでは無い。
「私は…… まだ帝国に居たいですね。少なくとも数ヶ月……もしくは何年か」
急ぐ必要が無い。情報を仕入れてからでも遅くはない。この身体の成長を待ってもいいかもしれない。
その思いが彼をそう発言させた。
「念の為に聞くけど、サーシャちゃんはわたしと働く気は無いのよね?」
働き口があれば、滞在することに不都合が無くなる。そう思ってのカティの発言だった。
「申し訳ありませんが…… それに私みたいなのを急に雇ったらおかしく思われますよ?」
下働きとかならとにかく、ただの幼女に見えるサーシャを文官として雇ったら変だろう。
サーシャが外見通りの幼女では無いことがわかっても、何やら言われるのが世の常だ。隠し通せれば別だが。
「そんなこと誰にも言わせるつもりは無いけどね…… まぁ本人がそういうのだから仕方ないわね。だとすると……」
カティはサーシャが言いたい事をわかってくれたようだ。その可能性を潰すと宣言しつつ、それ以外の道があるかを考えている。
「陛下!ヴィスコンティ家の話覚えてます?」
カティは少し離れた位置に座るレムスに問いかけた。
「ん?ヴィスコンティ……ああ、覚えてるよカティ」
今思い出したわー。というレムスの反応に少し眉を潜ませるカティだったが、そのまま話を続けた。
「良家の子女、という話でしたけど。サーシャちゃんはどうでしょうか。元々聞かなくても良い話でしたけど、少しは恩が売れますよ?」
カティの提案にレムスは腕を組んで考える。
「条件は文字の読み書きに魔法の才能、そして同い年ぐらいの女の子だっけ。ふむ、お嬢様の機嫌をとっておこうか」
レムスはカティの提案に賛成の様だが、本人であるサーシャは何がなんだかわからなかった。
「すいません、カティさん。どういったお話でしょうか?」
カティはサーシャのもっともな質問に答えるべく口を開いた。
「それは……」




