リゾット
「ここがフォルツァ城です、門番に話を付けてきます」
キールはそう言って、アウルと共に門番の所へ向かっていった。
城は城塞都市の中心にあった。
星型の形状の広大な城郭で、入り口は100Mはあろうかという高い塔になっている。
海外の城など初めて見るサーシャは興味深そうに見ていた。
すると、門番と何やら話していたキール達が戻ってきた。
「門番の話だと、本日は皇帝陛下との謁見は無理だとの事です。明日宿に連絡するので、宿が決まったら教えて欲しいと」
「まぁ、いきなり来て会えるわけないよなぁ」
ヴァーニャは予想していた言葉に頷いた。
遺跡を攻略してから今の今まで連絡したわけでもない、単に直ぐ船が来ることを知っていたので
さっさと行ったほうが早いだろうと思って、直接ここまで来たのだ。
「ヴァーニャさん、俺達はここで失礼します。馬車の荷物を引き渡さなきゃいけないので」
アウルはそう言って、敬礼をする。
「ああ、ここまでありがとうな」
キールがサーシャの元へ近寄ってきた。
「サーシャちゃん、任務が無い時は南門の詰め所に僕は居るから、なにか知りたい事がある時は答えられる。
この町には図書館もあるからそこで調べるのもいいと思うよ」
「図書館があるんですか?」
「うん、まぁ城の中にだけどね。入るのにはお金がかかるけど、そこまで大した額でもないよ」
この世界では本は貴重品だ。読むのにお金がかかるのは当然のことかもしれない。
推測や質問だけでの知識に限界を感じていたサーシャは、図書館に興味をもった。
(貴重な情報源だな、暇があったら行っておこう)
「わかりました、ありがとうございますキールさん」
アウルとキールは手を振って、馬車と共に去っていった。
「さぁて、まずは昼飯だな」
この世界は一日三食が普通のようだ、サーシャが知っている限りは中世では一日二食だったらしいが、そこは異世界ということなのだろうと考えている。
サーシャ達は城から少し歩いた所にあった、宿屋と酒場が併設された店で食事を取ることにした。
「外食をする人たちって多いんですね……」
サーシャは店内を見渡して感想を漏らした、酔客も多いが普通に食事を取っている人も多い。
もちろんスパゲッティなど長い麺類は手づかみだ。
(食事用フォークはまだ出回ってないのかな?アルバ島から結構出荷したってダリオさんが言っていたけれど)
「帝都は人の出入りも多いし、遺跡探索の拠点にもなってるんだよ。そいつら目当ての店も結構あるぞ。
この店がまさにそうだな、大体はそういう連中が使ってるんじゃないか?」
「後は屋台が多いわ、店での外食はちょっと豪華な食事になるわね」
ヴァーニャの説明にナディアが補足する、どちらかというと定住していない人たちが使うということだろう。
「なるほど……」
探索者は意外と多いらしい、その割にはエルバ島の遺跡はヴァーニャ達しか探索していなかった。
こちらの遺跡の方が実入りが良いとか、そういった理由でもあるのだろうか。
などと考えていると黒板に書かれたメニューに気になる文字を発見した。
「チーズ……リゾット」
リゾット。元々は麦類を使った料理を麦から中東から伝わった米に変えた料理である。
つまり米を使っている。米を。
「米……」
サーシャは躊躇せず、チーズリゾットを注文した。
「このリゾットというのは米料理……ですよね?米って栽培されているんですか?」
「ここ数年で稲作の手法が伝播されてね、水稲栽培って学者さんは言ってたかな。
ポー川の周辺は米を作っているところが多くなったんだよ」
サーシャの質問に忙しそうに振舞っていた中年の女性が答えてくれる。
”リゾット”が米料理であることは間違いないようだ。
「そういえばサーシャ様は米、というものに興味を持っていましたね……」
はしゃぐサーシャを見て、昔のことを思い出したリーゼ。
「ええ、東の国にまで行かないと食べれないと思いましたが、こんな近くにあったんですね!」
そしてサーシャの目の前にチーズリゾットが運ばれてきた。
スプーンなどの食器は持参するのが当然らしく、運ばれてこなかった。
自作の食器セットをバッグから取り出して、スプーンでリゾットを口に運んだ。
「どうですか?サーシャ様?」
自分の食事を放置してリーゼがサーシャに感想を聞いてくる。
「うん……美味しいですよ?」
サーシャは違和感を覚えていた、確かにサフランが効いたチーズリゾット自体は美味しいのだが……
違和感の原因を掴むため、リゾットをスプーンでいじって調べる。
「ああ、そうですよね……米の種類っていうのがあるんですよね……」
サーシャが米、と言っているのは日本産のジャポニカ米のことだ、
しかしここで使われているのは幅が広く、大粒なジャバニカ米だった。
そこまでは知らないサーシャは、形や大きさで日本の米、自分が食べ慣れた物とは違うものだと判断する。
(うーん、もちもち感が足りない気がする……いや、米が食べられるだけありがたいんだよな……
この米が合うか合わないかはわからないが日本料理にも使えるかなぁ)
「炊いたら美味しいんですかねぇ……」
リゾットは煮込み料理だ、しかも味付けしている。
この米を炊いて、飯にした時にどういう味になるかはわからない。
ちょっとガッカリしたサーシャにリーゼは問いかける。
「サーシャ様、どうしたんですか?」
「いえ……ままならないなぁ。と」
そんな事を言うサーシャに、リーゼは首を傾げた。




