さよなら開拓村
「ダリオさんこんにちわ……居ない?まさか!」
帝都に行くことになったサーシャは、開拓村で挨拶回りをすることにした。
とは言っても、鍛冶屋のダリオと雑貨屋のアマンダぐらいしか頻繁に話す知り合いは居ないのだが。
そして、ダリオは留守にしているようだ。店には誰もおらず不用心だった。
「遺跡で倒した小さい方の熊……やっぱりダリオさんだったんですね、私はなんてことを……」
崩れ落ちるサーシャの後ろでドアが開いてダリオが入ってきた。
「おっ、嬢ちゃんじゃないか……何してんだよ」
サーシャは振り返ってダリオに泣きついた。
「ダリオさん!私、遺跡でダリオさんの眼球に矢を!」
「なにそれ怖い」
その後、ダリオはサーシャをなんとか落ち着かせて遺跡での話を聞いた。
「ほぉ、ドラゴンを倒したのか、大したもんだ。で、もちろん素材は取って来たんだよな」
ダリオは少しワクワクしていた、ドラゴンの素材なんて見たこと無かったからだ。
「それが酷いんですよ、肉はすごく臭いし、黒くなった鱗以外の鱗と皮は手でちぎれるぐらいで。
黒い鱗と爪、後は牙ぐらいですねまともだったのは。後は焼いて捨てました」
ダリオはがっかりしてしまった、皮素材では最高だと聞いていたのだが。
「聞いた話とえらい違う、外見も違うみたいだし、別の種族だったのかもしれねえな」
「私、防具にはあんまり興味が無いので。牙とか鱗はダリオさんにあげますね」
それを聞いたダリオは思い出したように話を返してきた。
「いや、帝都に行くんだろう?ちょっと頼みがあるんだよ。姪が帝都の鍛冶屋で働いてるんだが、こいつを届けてくれないか」
ダリオはミスリルのインゴットを出して布でまとめた。
サーシャがミスリルハンドから武器を作る際に、インゴットにした余りだ。
余ったものはすべてダリオにプレゼントしていた。
「結局嬢ちゃんに教えてもらっても加工出来なかったからな。身内贔屓に聞こえるかもしれねえが、姪は天才だ、
もしかしたらだが、嬢ちゃんが教えればミスリルの加工が出来るようになるかもしれねぇ。ドラゴンの素材も良かったら渡してやってくれ」
「わかりました、ところで姪御さんのお名前はなんていうんですか?」
「リタだ。見た目は俺みたいなんじゃなくて、ほぼ人間だよ。耳は熊だし尻尾もあるけどよ」
「リタさんですね、わかりました。ところでダリオさん」
サーシャは布に包まれたミスリルのインゴットの山を見て言った。
「こんなにあると重くて持てないので、港まで持っていくの手伝って下さい」
「おいおいミスリルって軽いじゃねえか、俺なら人差し指だけで持てるぞ。嬢ちゃん体力ねえなぁ……」
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雑貨屋に行く途中でダーシャに会ったのでミスリルを渡してもらい、そこでダリオとは別れた。
そしてサーシャは雑貨屋でアマンダに会うためにドアを開けた。
「今度は妹かい、今さっきあんたの兄さんが来てたよ。帝都に行くんだって?」
「はい、それでご挨拶をと思いまして」
「そうかい、寂しくなるねぇ。ここに来る客なんてあんた以外は大して居ないもんだから。
ああそうだ、試しに縫い付けてみたんだけど上手く行ったからこれをやるよ」
そう言ってアマンダは三〇センチぐらいの白いふわふわなショルダーバッグを取り出した。黒い魔石が真ん中に縫い付けてある。
「軽くなる効果があるっていう魔石を手に入れてね、魔力を通すジャイアントスパイダーの糸で縫い付けてみたんだ
魔力を通してみな、中にあるものが重さを感じないぐらいまで軽くなるよ」
(随分可愛らしい見た目なのはアマンダさんの趣味だろうな……)
試しに今まで持っていた小さなバッグをショルダーバッグに入れてみる。
魔力を通し、持ってみると羽のような軽さだった。
「わ、これすごいですね。文字は……『軽量化』ですか、そのまんまですね。
アマンダさんこれ結構貴重だと思うんですが、もらってもいいんですか?」
「いいんだよ、あんたなら大事に使ってくれそうだし。ちなみにそれ、あんたが倒した首狩りウサギの毛皮だよ」
始めて開拓村に来た時に遭遇した首狩りウサギの毛皮は、その場に居た御者をした衛兵にあげたのだが、何の因果かサーシャの手元に戻ってきた。
「あれって結構前のことですけど、毛皮ってそんなに保つんですね」
(前世での毛皮は何年かすると駄目になったはずなんだけどな。手入れも大変だし)
「首狩りウサギの毛皮は長持ちするんだよ、帝都でも高級品として通ってる。
まぁそんなことはいいさね、帝都でもしっかりおやりよ」
「ありがとうございます。アマンダさんもお元気で」
サーシャはお辞儀をして、雑貨屋を後にした。
「さて、港で合流しましょうか……んっ?港に何かが見え……」
船が巨大な魔物に襲われていた。




