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金属バカと異世界転生  作者: 鏑木
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はじめてのだんじょん その2

 長い螺旋階段を降り始めて二〇分ほど経った、

 5分でギブアップしたサーシャはまたしてもダーシャにおぶられていた。


「サーシャはもうちょっと体力を鍛えた方がいいかもね」


「そう思って、この前走ってみたんですけど。転んでしまいました、五回も」


(何もない所で躓くんだよなぁ……どうなってるんだろうこの身体)


「根本的に向いてないのではないでしょうか……」


「そうね、ダーシャがサーシャを独り占めにするのはずるいと思うのよ」



 だらだら進む一行とは別に、先行していたヴァーニャが声を上げた。


「魔物は居なそうだぞー、なんか妙に豪華でだだっ広い部屋がある」



 部屋に入った瞬間、あらゆるところにあるステンドグラスが目に入った。

 丸く広大な部屋はステンドグラスに照らされて万華鏡のように見えた。

 高い天井には多くの天使が描かれていた。



「見る限りは別の部屋に通じるドアも無さそうだし、ここが最後なんだろうが何にもねえな……」


「あ、わかりました!」


 サーシャは納得した、と手を合わせた後、部屋の天井を指差した。


「あれだけ階段が長かったのは、ここの天井が高いからですよ!きっと!」


「ああ、なるほどな。確かにそうかもしれん。ってそれは別にどうでもいいんだよ」



「そうなると、すごく怪しいのは……」


 サーシャはヴァーニャの足元を指差した。


「お父様の足元にある、四角いスイッチみたいな奴ですね」


「うわっ!あぶねぇ!踏みそうだった!」


 ヴァーニャは慌てて飛び退き、冷や汗を拭った。


「なぁ、どう思うこれ……」



「罠じゃないですか?」

「罠ですよ、父様」

「罠よねぇ」

「罠でしょう」


「だよなぁ……取り敢えず、この怪しいスイッチを押すのは最後にして、部屋を隅々まで調べてみよう。

サーシャはこのスイッチのところに居てくれ、そうすれば間違えて押すこともないだろ」


 そうして、一行は部屋の探索に入った。



---



 無言で表情を曇らせて、全員がスイッチの所へ戻ってきた。


「ど、どうでした?」


 どうもこうも無さそうなのはわかってはいたが、念の為にサーシャは聞いてみた。

 両手を軽く上げてダーシャが答える。


「見事なまでに何もなかったよ、父様も母様もリーゼもそうですよね」


 言われた全員が頷くことで答えを返した。

 重い空気が流れる中、ナディアがスイッチを見た。


「つまり、これを押すしかもう無いってことよね……」


 全員がぽつりと呟いた。


「「「「「嫌だなぁ……」」」」」



 そうも言ってられないので、サーシャが提案した。


「そうですね……誰か一人が押して、他の人は入り口のところに隠れるっていうのはどうでしょう?

そして、押した人も直ぐに入り口まで逃げるんです」


「じゃあ、それでいくか……俺が押すから、皆は下がってくれ」


 ヴァーニャはスイッチの前に立って待機した。

 彼を除く全員が入り口の階段で見守る。


「お父様ー全員退避しました!」


「よし、じゃあ押すぞ!」


 ヴァーニャは足で思いっきりスイッチを押して、入り口まで全力で走った。

 彼がスイッチを押した瞬間、地鳴りが聞こえ出し、部屋の真ん中に穴が開いた。


「穴が開いた?」


 ヴァーニャは入り口まで到着した。

 リーゼが出来上がった穴を注視して口を開く。


「何かが上がってきます、気をつけて下さい」


 地鳴りは続き、穴があった位置に地面が迫り上がってきた。

 そこに乗っていた物を見て、サーシャは驚きの声を上げた。


「あれは……ドラゴン!?」


 二メートルほどの巨体、赤茶色の肌、全身に付いた鱗、長く伸びた尻尾、鋭い爪、

 そして鼻ちょうちん。凶悪そうなドラゴンがそこにいた。


(ドラゴン……どんな物語でも強力な化け物として書かれている。この世界でも例外じゃ……ん?鼻ちょうちん?)


 サーシャは見た風景を信じられなかったので、もう一度見た。

 片腕を枕にしてこちらを腹を向けて、気持ちよさそうに寝ているドラゴン。

 たまに口から炎が漏れている、火を吐くということだろう。


「寝てますね」

「寝てますねぇ……」

「寝てるなぁ……」

「ちょっと可愛いわね」


 観察していたダーシャがドラゴンの胸を指差して言った。


「ドラゴンの胸に魔石がある、遺跡最深部の魔石はあれかな?」


 言われてみるとドラゴンの胸には大きい魔石があった。


「倒せってことなんだろうな……よし、こうしよう」


 腕を組んでヴァーニャは作戦を述べた。


「俺が『斬撃』をドラゴンの首に向かって撃つ。効かないようなら一旦逃げる。

話に聞いた限りではドラゴンは強大だ。多分効かないだろうが試してみよう」


「私が弓の魔石を全力で撃つのはどうですか?」


 サーシャの問いにヴァーニャは首を振った。


「その全力に遺跡が耐えられるかどうかわからんし、ドラゴンの魔石が吹っ飛んだら、

サーシャが読めないだろ?それは最終手段って事にしよう、生き埋めになりたくはないしな」


 それに効かなかったら困る、とヴァーニャは付け加えた。


「わかりました。私もどれぐらい手加減すればちょうど良いのかわかりませんし」


 頷いてヴァーニャは言葉を続けた。


「よし、じゃあ行くぞ。『斬撃』が効くようだったらそのまま攻めよう」


 ヴァーニャは剣を振りかぶった。


「せりゃ!」


 剣を振り下ろすと、剣から『斬撃』が気持ちよさそうに眠るドラゴンの首に向かって走った。

 無防備な首に『斬撃』が食い込み、ドラゴンが枕にしていた片腕と共に首が飛んだ。


「あれ?」


 あっさりと首が飛んでいく姿に一同が唖然としていると、地面を転がっていた首がこちらを睨んでくる。

 黒く変色していくドラゴンの肌、そしてその口を開けようとしている。


「くっ!」


 慌てて構えた弓から矢が放たれ、ドラゴンの首へ飛ぶ。

 しかし、ドラゴンの黒い肌に当たった矢は弾かれてしまった。


「あれ!?なんで!?」


 驚くサーシャを嘲笑う様にドラゴンの口が開かれ、灼熱の炎が……

 吐かれずにそのまま首は止まった。



「まさかとは思いますけど……死んじゃいましたか?」


 5分ほど念の為に入り口に隠れて、いつでも逃げられるようにしていたが、

 いつまでも動かないドラゴンを見て一同は確信した、ドラゴンは死んでいる。


「死んでるね……なんでサーシャの矢は効かなかったんだろう」


 十文字槍でドラゴンの死体を突っつきながらダーシャは疑問を口にした。


「肌が黒くなったら硬くなるとかそういうのじゃないですか?」


 サーシャは寝ている時に『斬撃』が効いたことからの推論を口にする。


「なんか全然実感ねえな……ドラゴン倒したっつうのに」


「それは仕方がないのではないでしょうか、戦ったというか暗殺したに近いですし」


 リーゼの指摘にヴァーニャは苦い顔をする。


「良かったですね父様、ドラゴンスレイヤーですよ」


「嬉しくねぇなー」


 強敵であるはずのドラゴンの呆気無い最後に釈然としない思いを抱えながら、

 サーシャ達は目的を果たすためにドラゴンに近寄った。

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