はじめてのだんじょん
あれから三日、武器の調整などを済ませた一行は遺跡の前に居た。
遺跡はサーシャ達の家から一時間ほどの場所にあった。
地下に降りる入り口はやたら狭く、一人ずつしか入れない。
遺跡内は明るかった。白いレンガが詰まったような壁がぼんやりと発光している。
部屋の真ん中まで進んだヴァーニャは、床にある魔法陣を指さしながら口を開いた。
「さて、この魔方陣に乗ってちょっと歩けば魔物とご対面だ。
俺とダーシャが引きつけるから、サーシャとナディアは後ろから撃ってくれ。リーゼは
二人の護衛を頼む。
こっちの攻撃が効かないと判断したら、さっさと逃げてまた別の手段を探ろう」
作戦を立案するヴァーニャに頷いて、一行は魔法陣に乗った。
視界が歪んだと思った瞬間、小部屋に転送されていた。
「よし、じゃあ行くぞ、この部屋に入れば奴は居るからな。気を抜くなよ」
ヴァーニャがドアを慎重に開けた。
かなりの大部屋だ、目視出来るギリギリの距離から黒い影が走ってきた。
巨大な熊がそこに居た。
サケやマスをよく食べれて栄養状態が良かったのであろう、
黒い毛に覆われた強靭そうな肉体。
その太い腕を振られたりしたら即死、良くて瀕死だろう。
「ダリオさん!なんでこんなところに!」
「妹よ。ダリオさんの毛は褐色だったし、もうちょっと小さかったよ」
叫ぶサーシャの横をすり抜けて、熊の前に踊り出たダーシャがツッコミを入れる。
同じようにヴァーニャも剣を両手で持って突撃する。
「おうりゃあ!」
走ってきた勢いを乗せて両腕を振り下ろしてくる熊に、ヴァーニャは合わせるように剣を切り上げた。
熊の手のひらに剣が食い込んで肉を切り裂いたが、熊はそのまま腕を振り下ろした。
慌てて剣を引いたヴァーニャは、転がって腕をかわす。
「よし!この剣なら切れるぞ!」
両腕を振り下ろしたため、姿勢が崩れた熊の脇腹に、炎をまとった
十文字槍が薙ぎ払われた。
深い傷に構わず、反転して襲い掛かってくる熊をダーシャは槍で受け流した。
「母様、サーシャ!」
背中を向けた形になった熊に、ナディアは火球を撃ち込んだ。
火球は大したダメージにはならず、毛を焼き焦がしただけだったが、熊はサーシャ達の方向を向いた。
「ウオオオオオオオオオオオオ!」
両手を上げ、威嚇するように吠え立てる熊の口内に、数本分の魔力を込めた白い矢が突き刺さる。
ダメージがあったのか熊は仰け反った。
「お父様、お兄様!脇や首を狙ってください!口内や眼球も狙い目です!」
えぐいことを言うサーシャの言葉に呼応するように、ヴァーニャは熊の脇に剣を突き入れた。
貫通した剣を引き抜くと、大量の出血が剣を濡らしていた。
サーシャとナディアを守るように動いていたリーゼが後ろを向いて叫んだ。
「後方にもう一匹居ます!」
後ろを向いたサーシャは少し小さめの走って来る熊を視認した。
そのまま弓を構え、顔面を狙って矢を射つ。
矢が目に刺さったのと同時にリーゼが投擲したナイフも顔面に刺さった。
投擲と同時に走り出していたリーゼは、刺さったナイフを掴んで抉るように薙ぎ払う。
顔面を抑えて悲鳴を上げる熊にさらに数本の矢が刺さり、返す刀でリーゼが
突き入れたナイフが胸を貫く。
ナイフを抜いて蹴ると、悲鳴を上げなくなった熊はそのまま倒れた。
サーシャが振り向くと、もう一匹の熊は胴体に槍が刺さり焼け焦げた上、
ヴァーニャが発動させた『斬撃』の魔法によって首が飛んでいた。
「片付いたようですね、他に気配はしません」
リーゼはナイフを振って血を払いながら報告した。
「切れりゃこんなもんだな」
返り血で血まみれになりながら笑うヴァーニャに、ダーシャが槍を抜きながら
水筒を投げた。
「もう一匹出るとは思いませんでしたけどね、リーゼとサーシャがここに
居なかったら危なかったかもしれませんよ。
ま、サーシャが居なかったら切ることも出来ませんでしたし」
ヴァーニャは水をかぶって血を流す。
「サーシャ様々だな」
そのサーシャはナディアに怪我がないかを隅々まで触診されていた。
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一行は熊の毛皮を剥いだり、休憩した後、魔石が浮かぶ部屋に入った。
リーゼが周りを見渡して気配を探る。
「魔物は居ないようですね。ここは安全かと」
サーシャはそれを聞いて、魔石に駆け寄り触れた。
魔力を通して浮かび上がる文字を読む。
「文字がかすれていて断片的にしか読めませんね。
うーんと。このダン……は一五……で終わ……
クリ……方……品……
……次……階層……さい」
そこまで読んだところで魔石は音を立てて壊れ、下層へ降りる階段が現れた。
(壊れるのか……メモをしておけばよかったかな)
「どうだった、妹よ」
聞いてくるダーシャに腕を組んで考えこんでいたサーシャは首を振りながら答えた。
「多分、一五階層でこの遺跡は終わりって書いてあったんだと思いますけど。
それ以降はさっぱりわからないですね」
「じゃあ進んでみるか、俺とダーシャが先行するから。ゆっくり着いて来てくれ。
危険だったら言うから」
一行は階段を降り始めた。




