幕間
幕間
黒狼は足をひきずり、森をさまよっていた。
もうどのぐらいそうしているのか、月日の感覚はとうにない。己が何者で、何を欲していたのかさえ、曖昧模糊としている。ただただ、飢えていた。
かつては腹を満たすため、群れを率いて狩りをした。おぼろな記憶。だが今はもう、匂いを追う感覚もわからない。何を追い、どう仕留めたら良いのかも。代わりに、鈍い怒りと攻撃の衝動が腹の底でふつふつと滾る。
ドォッ、と低い轟きが耳によみがえった。
嵐の唸り。あの暗い日だ。もう少しで獲物を喰らえるところだった。肉に牙を立て、溢れた血で喉を潤したのは覚えている。なのに。
邪魔サレタ。アイツニ……
そうだった。この傷は、あの時にやられたものだ。存在の境界を引き裂き、弱らせてゆく一撃。屠った家畜を吊るして血抜きをするように。
……血抜キ?
唐突に浮かび上がった光景に、黒狼は当惑し立ち止まる。その光景をかつて身近に知っていた、という妙な確信。だがそれも、現れた時と同様、すみやかに沈む。
ふたたび狼は歩きだした。
コッチダ。アイツハコッチニ行ッタ
もしかして、これは久方ぶりの狩りではないのか。狼はニヤリと牙を剥いた。だが、ああ、この身体は獲物に追いつくまで持つだろうか。
そう言えば、熊の母仔を見たような気がする。そろそろ仔が、母に追い払われて独り立ちする頃ではなかったろうか。幼く不用心で、取り憑きやすそうな……




