これからも一緒に
しばらく時間が流れて春。
自業自得とはいえドラコの小学校入学に色々時間かかった……
体操着やランドセルと言った道具の購入に、人間の子供との付き合い方は加奈ちゃんに頼んでドラコと一緒に遊んでもらう形で勉強させていく。
やっぱりこういうのは似た年代の子供同士で遊ぶのが一番の勉強だと思う訳よ。
それから加奈ちゃんの使い魔であるカンナちゃんは……マジでよく分からない事になっていた。
あの分かりやすい小悪魔シルエットから魔法少女をサポートする小さな可愛い謎の生物のような姿に変わっていた。
いや本当に何でそうなった?
加奈ちゃん曰く一緒に日曜朝8時半の少女向け番組を見ていいな~って言っている間にこんな姿になったとか。
でも可愛い姿になっているから周りの子達から怖がられるような事もなくなり、むしろ友達と一緒に来るペット枠のような感じで受け入れられているらしい。
そして今日は小学校の入学式であり、バイト代を使って買ったカメラを持参してドラコの入学式に保護者枠として参加していた。
え?俺の方は大丈夫なのか?
保護者に配慮して小学校、中学校、高校と1日ずつずれているので大丈夫。
なので俺は今日休みだから問題なく参加できるのだ。
カメラを持ってドラコが来るのを待っていると、ようやくやって来た。
少し緊張している様子だが暴走する様子もない。
他の子達に混じってちゃんと行進している。
座った後は少し俺の事を探してきょろきょろし、俺を見つけると小さく手を振った。
俺も手を振り返すとドラコはほっとしたように落ち着く。
その後の入学式は順調でその後保護者は小学校からの説明を受ける。
簡単に言うと学校の授業方針とか、どんな風に子供の安全を管理しているのかなどを説明された。
そしてやはり大人ばかりの場所に俺という学生が混じっているのは結構珍しい。
隣に座っていた誰かのお母さんが、「弟さんか妹さんが小学校に入ったの?」っと聞かれたので「両親が忙しいのでその代わりです」っとそれっぽい事を言ったら納得してもらえてのはよかった。
兄や姉が参加すると言っても精々入学式を覗く程度だから説明会にまでいるのはやっぱり珍しいだろうな。
そう思いながらも説明会を参加した後、子供達は入学式を終えて帰ってくる。
当然その中にはドラコもいて俺を見つけると駆け寄って抱き着いてきた。
「ただいま、シュー」
「お帰りドラコ、小学校入学改めておめでと。やっていけそうか?」
「入学したばっかりだから分かんない」
「それもそうか。そんじゃ今日何食べたい?」
「唐揚げ!!」
「了解。唐揚げ用に鶏肉買っていかないとな~」
ドラコを肩車しながら俺達はスーパーに向かう。
すると偶然奥さんに会った。
「あれ?奥さんどうしたん?」
「あら柊ちゃん。今日はドラコちゃんの入学式だったんじゃないの?」
「もう終わりましたよ。奥さんの方はこの時間帯に買い物は珍しいですね」
「そうかしら?でもヒロちゃんとシンちゃんの歓迎会で作る料理の素材を買い足しに来たのよ」
「なるほど。ちなみにドラコは今晩唐揚げが食べたいそうです。なので鶏肉を買いに来ました」
「なるほどね~。それじゃ一緒に買いましょうか」
俺達が2年生に進級する日、ヒロとシンも俺達のクラスに転入してくる事が決まっていた。
既に引っ越しは終わっており、今は荷解きをしているらしい。
それが終わった後クロウの家でどんちゃん騒ぎの予定だ。
もちろん今回は酒はなし。
食材を買って一度俺の部屋にドラコの教材などをしまう。
俺の部屋はドラコのためにも2人部屋になり少し広くなった。
小学生扱い受けている子が俺と同じ高校生の寮に住んでいるのも変だが、まぁしばらくの間だけだ。
俺が卒業するときはクロウの家にルームシェアとして借りる予定だ。
まだ転生者達の就職先はまだまだ固まっており、アンノウンの脅威はまだ完全に終わってはいない。
俺が世界の壁を修復する前に入り込んだアンノウン達がまだ生き残っているからだ。
そんなアンノウン達が完全に倒されるまで転生者達の戦いは終わらないが、新しいアンノウン達がやってこなくなったので終わりが見えてきたというのは精神的にも様々な人に影響を与えた。
もちろん反応は人それぞれだ。
アンノウンが居なくなることを素直に喜ぶ人達。
転生者達の家族や結婚した相手は危険な事をしなくて済むと安堵したり。
これ以上危険な戦いに身を投じなくてよかったと言う転生者。
アンノウンが居なくなる事でアイデンディがなくなってしまうのではないかと考える転生者。
本当に色々だ。
俺の場合はアンノウンが居なくなってよかったと、みんなが世間一般の人達に受け入れられてもらえるかどうか。
一応みんな人間として生きてくと言ってくれているが、他の人達が認めてくれるかどうかは別問題。
だから俺はみんなの味方をし続けて、今度こそみんなと一緒に生きるのが俺の目標だ。
だから俺はアンノウンが居なくなったと言われる世界になったとしても、俺だけはアンノウンだった事実は変わらないみんなと一緒に生き続ける。
それが案外あっさり認められるのか、それとも一生認められないのか、そればっかりはその時にならないと分からないが認められるように頑張っていく。
それが友達として当然の行動だろう。
荷物を置いた後クロウの家でヒロとシンの歓迎会で色々料理を作って準備をする。
奥さんがメインで作っているが、俺の他にコッペリアや愛香さん、コンも手伝っているので多いが問題なく作る事が出来る。
前はたどたどしかったコッペリアの包丁さばきも様になってきた。
「コッペリアちゃん。こっちお願い」
「はいはい。それにしても私達も食べるとはいえ、少し多くない?」
「多い分には問題ないだろ。足りないよりはマシ」
「柊君って基本的に料理を多めに作りますよね。何か理由ってあるんですか?」
「理由と言うか習慣だな。実家だと少ないよりはいいだろって感じでいつも飯の量多かったんだよ。余ったら冷蔵庫で保存すれば良い訳だしって考え方だったんだよ。母ちゃんが」
「なるほど。それで習慣ですか」
「でもそれってあとから苦労しそうじゃない?冷蔵庫の中にいつまでもあまりもの残しておくわけにはいかないでしょ」
「そう言うときは昼に食ったり次の日に食ったり色々だな。足りなくて腹を空かせるよりはいいだろった考え方だったから」
「なるほどね~。今の内に姑問題解決に動かないと」
コッペリアが何か恐ろしい事を言った気がするが聞こえなかったことにする。
って姑って言葉で思い出した。
「そういや先に言っとくけど、今度の夏休みは実家に帰省するからな」
「え!?」
「今年は帰省するんですね」
「ああ。去年帰省しなかったんだから今年は帰省しろってさ。多分去年の冬に帰省してたらまた違ったんだろうが、とにかく今年は帰って顔見せろと」
俺がそう言うとみんな料理の手が止まっていた。
そんなに変な事は言っていないはずだが、問題がある。
「しかもその時にお前らの事連れて来いってさ。ベル、コッペリア、奥さん、ドラコ、クロウ、コン、愛香さん、ヒロとシンで合計9人だぞ。家に入り切らないってのにどうする気だってんだ。まぁ裏技使おうと思えば使えるけどよ、それでも9人は多いって」
「それって……私達も行っていいって事?」
「むしろ来いってさ。絶対部屋も布団の数も足りないのにどうする気なんだか。俺の事について礼が言いたいんだと」
全員の予定が揃うかどうかも分からないのに何を言っているんだか。
俺は呆れながら言うとドラコが強く反応した。
「シューのお父さんとお母さんに会えるの!?」
「会ってお礼言いたんだと。電話で言えばいいだろうに直接顔を合わせて言いたんだってさ」
「絶対行く!!シューのお父さんとお母さんに会ってみたい!!」
「ベルとかはどうするよ?」
「僕も行く~。お礼言わないとね~」
「当然僕もだね。話を聞く限り柊お兄さんの家に行く時はホテルを予約しておいた方が良いのかな?」
「そこなんだよな~。実家は住宅街だから周りにホテルなんてないし、ホテルありそうな場所は遠いしな。いざって時は誰かの世界に行ってそこで寝泊まりしてもらうしかない?でもそうなるとかなり面倒くさいよな~」
一体何を考えて言い出したのかさっぱり分からない。
この人数と会うならむしろ向こうから来た方がよっぽど楽でいいと思う。
きっとこの予定のない強引なやり方は父ちゃんが発案だなと思いながら少し恨む。
おかげでどうすればいいのか色々考えなければならない。
本当に余計な事を言った物だ。
「ねぇ柊ちゃん。それ本当に私も行っていいのかしら?」
「ちゃんと奥さんの事も話してますよ。と言っても友達として話しましたけど、やっぱり成人女性なのでお世話になっている人にもお礼を言いたいって感じでしたが」
「あらどうしましょう。みんなの引率として絶対に参加しないとダメね。ところで本当に人数はご両親に伝えたのよね?」
「当然伝えましたよ。特に仲のいい世話になってるみんな全員となると10人近くになるぞって。それなのに礼を言いたいから連れてきてほしいなんて言うんですからちょっと両親が正気か疑いましたもん」
「確かに大移動よね……確か東北出身って言ってたかしら?」
「そうです。まぁ東京から新幹線に乗れば乗り換えなしで行けるでしょうけど、やっぱ大変でしょうね……」
それに一応ベル達はアンノウンでもある。
アンノウンの身で仕事とは関係なくどこかに旅行しに行くというのは許可されるんだろうか?
国内だからまだマシと思いたいが……その辺はどうなんだろう。
なんて思っているとコッペリアと愛香さん、コンがしゃがんで相談し始めた。
「これ、最終決戦の場になるんじゃない」
「いやでもお付き合いしてないのに周囲から認められるって言うのはどうなんですか?」
「愛香様は少し周囲を気にしすぎです。世の中にはこんな言葉があります、外堀を埋めると」
「そうですけど柊君絶対いつまでもみんなと一緒に居たいって言いますよ。友達の関係を続けるのは良いですが、それ以上の感情を持ちそうなのが本当に怖いです」
「そんなの勝った後に尻に敷けばいいのよ。もしくは搾り取る」
「品がありませんよコッペリア。例えそれが真実であったとしてもです」
「……コッペリアさん経験あるの?」
「ある訳ないでしょ。私をビッチか何かと勘違いしてないでしょうね。あくまでも情報だけよ」
「とにかく、今年の夏は私達にとって非常に重要な夏になる事は間違いありません。戦闘は協定通りに」
何が協定だ。ぶっちゃけルールほとんど意味なくなってるだろ。
誰かがルール無視をして好き勝手していると言う意味ではなく、お互いに忙しくてそんな事をしている暇がなかったという方が正しいかもしれない。
まぁ彼女が欲しくないかどうかと聞かれると……あれ?特に欲しくないな。
俺はみんなと入れて十分幸せと感じている訳だから特に彼女が欲しいという考えはない。
そりゃ恋愛マンガとか読んで面白いと思うが、そんな風な恋愛をしたいかというと……全然ないな。
これ俺に恋だ何だって手のをしたいって思わないとこいつらの俺の恋人になりたいって最終目標に永遠にたどり着かないんじゃないか?
「火使ってるからよそ見すんな。というかお前ら本当に行く気か?普通に大所帯だからそっちが来いくらい言うぞ」
「いえ、こういうのはこちらから行くのがマナーだと思うのから大丈夫です」
「そうね。シュウのご両親を呼び出すだなんて失礼よ」
「こういった事は初めて会った時の印象によって大きく変わります。なのでご挨拶はこちらから魔いるのが礼儀かと」
こりゃダメだ。
両親に彼女を紹介する場面とごっちゃになってやがる。
こっちから実家に行けるかどうかもまだ分からないって言うのに楽観視しすぎじゃないか?
まさかこれも人間になった影響じゃないだろうな。
なんて思っているとチャイムが鳴った。
ドラコが「はーい」と言いながら玄関を開けに行った。
そして顔を出したのはヒロとシンだ。
「すみません。遅れました」
「らっしゃい。でも別に遅れてねぇよ。飯作ってる途中だから適当に座っててくれ」
「なんだ。まだ料理が出来ていないのか。遅いぞ」
ヒロは謝りシンは相変わらずだ。
それにしてもヒロから聞いていたが、シンは食に対して随分と興味を持っているらしい。
今まで食べる必要がなかった環境から、食べる必要が生まれたからかずいぶん色々試しているそうだ。
俺がフグの肝を食べた時や、生卵を付けて食べる食文化が色々刺激的らしい。
海外に行っている間も様々な国の料理を食べていたと聞く。
日本の物と比べてそんなに美味しくもないと言っていたそうだ。
「元々予定より早いんだからそれくらい我慢しろ。お前だけの歓迎会じゃねぇんだからな」
「分かっている。ヒロとの合同という点において不満はないが、料理が大した事なかったらその時は決戦だ」
「そんな事で決選起こそうとするなよ……」
「ジョークのつもりだったが難しい物だな。ジョークを言えば人間らしさを得て話しやすくなると聞いたのだが……」
「もっと分かりやすい物にしてくれ」
「ではニッポンのオヤジギャグと言う物に挑戦してみるか」
「マジでやめろ。つまらないだけだから」
こうして見てみるとシンもだいぶ人間らしくなってきた。
むしろヒロの方が申し訳なさそう言うか、前と態度が全然変わらない。
居心地が悪そうというか、ハブられているようになっているというか、ずっと距離を置いている。
シンのせいで正義の形を間違っていたとはいえ、気にしすぎだ。
「ヒロ。そう言うときは神様のせいにしておけ。すぐそこにいるんだから文句の1つくらい言ったらどうだ」
俺がそう言うとヒロは少し驚いた後、苦笑いしてから言った。
「実はもうした。2人っきりの時に」
「そうなのか?ちょっと意外」
「私自身も意外だったよ。溜まってた怒りが爆発したって言えばいいのかな?とにかくシン様とはちゃんと話し合ったよ」
「それじゃ何気にしてるんだよ?」
「だって……一回殺し合ったのに友達になりたいって、都合よすぎるかなって」
何だ。
そんなこと気にしてたのか。
そう思っているとドラコが言う。
「別にもういいだろ。怒り続けるのは疲れる。これだけは分かる」
普段子供扱いされているドラコから、ものすごく重い言葉が発せられた。
俺が殺された事で怒り狂い、大陸を焼き払ったドラゴンの言葉だからこそ言えるのだろう。
でもすぐにいつもの子供らしい感じで言う。
「だから許す。お互い疲れるのは止めだ。お前ももう十分怒ったのだろ?」
「は、はいそうです」
「それならいい。相手が許したのなら自身も許せ。それ以上は不毛だ」
こういう時日本とドラコは見た目通りの子供じゃないと分かるな。
子供扱いしているの俺達だけかもしれないけど。
「ほれ飯出来たぞ。ドラコは飯運ぶの手伝ってくれ。ベルもいい加減起きて飯運ぶくらいしろ」
「は~い」
ベルはソファーから起きて料理を運び始める。
こうして並べられた料理を前に、何故か俺が音頭を取る事になった。
「いや本当に何で俺?」
「だってあなたが私達の中心人物じゃない。それならあなたが適任でしょ」
コッペリアに言われて渋々頷いた。
それじゃ簡単にやればいいか。
「そんじゃ改めまして、みんな仲良くやっていくとしましょう!乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
今度こそ、みんなと仲良く寿命が尽きるまで生きたいと俺は思った。




