一緒に帰る
クロウからの緊急事態を聞きつけて家にまでやって来た。
ドアを開けるとドラコが飛びついてきた。
「シュー!!もうヤダー!!シューのとこ帰るー!!」
「お~よしよし。何があったのか全く分からんけど迎えに来たからな~」
ドラコの事をあやしていると、疲れ切った表情でフラフラとクロウが現れた。
「クロウ。何があった」
「柊お兄ちゃん……育児って大変だったんだね……」
「そりゃ大変だろ。何一つとして思い通りにならないんだから。でもドラコがここまでぐずるのも珍しいぞ。何があった?」
ドラコの体はもうほとんど人間と変わらない形になりつつある。
翼と尻尾がなくなり、角はグラグラと揺れて抜けかけている乳歯のように動く。
鱗も全てなくなり柔らかい子供の皮膚が姿を現していた。
もうこの角がなくなったら子供にしか見えない。
いや、俺が心の中でそれを望んでいたのかもしれないが。
「本当に、色々だよ。ご飯とかお菓子とか、昼寝とか。とにかく色々……」
「あ~。飯問題はあるな。ドラコが飽きないように色々工夫して、あと野菜とかもどうしたら食べてくれるか、色々考えてるからな。どんな飯食わせてたんだよ」
「……色んな冷凍食品」
「そんなこっだと思った。どうせ野菜って言っても冷凍野菜だのをチンして出してただけだろ。特にスーパーとかで売ってるハンバーグとかもそのまんま出してたろ。と言うか1日でドラコが暴れるってどんだけヤバい環境だったんだよ」
「何も言い返せません……」
クロウは疲れ切ったまま素直に謝った。
本当に無理をしていたようでくたくたなのは見て分かる。
人間の子供と変わらない感じとはいえ、子供のエネルギーとは恐ろしい物だ。
限界まで遊んで電池切れを起こして倒れる。
その間休まる暇なんてないし、今はゲームとかしてくれるおかげでおとなしくなったが、今でも俺と一緒に学校に行って時々体育館でコッペリアと頂上バトルして遊んでいる。
本当に人間に近付いて行ってるんだよな?っと改めて聞きたくなるくらいの戦闘能力であり、あれ?戦闘能力だけ落ちてない??って思う事もいまだにある。
「まぁ初めてなのは目に見えてるし、素直にSOS送って来た事もよかったと思う。あとは俺がやる」
「ありがとう助かったよ。それからもう1人はソファーで寝てる」
「そうか。それじゃついでに連れて帰るぞ」
俺はリビングのソファーの上で寝ているベルを見つけると、少し意外な姿になっていた。
それは久々に見たぬいぐるみ状態のベル。
最近はずっと人型だったのでもうぬいぐるみ状態に戻れないのだとばかり思っていた。
「ベル。帰るぞ」
「ん?んん~」
ベルはポンとコミカルな演出と共にぬいぐるみ状態から人型になった。
そのまま両手を広げて抱っこをするように催促してきたので仕方なくドラコをおんぶし、ベルを抱っこした。
「このあと2人に飯食わせるが、クロウも一緒に食うか?」
「いや、僕はいい。2人で疲れたから適当に食べて寝る」
「冷凍食品の盛り合わせはあまり健康に良くないと思うぞ。せめてスーパーのお総菜をバランスよく買った方が良い」
「アドバイスありがと。それじゃお休み……」
そう言って玄関を閉じたクロウは本当に疲れ切っている事が分かる。
俺は奥さんが運転する車にドラコとベルを乗せてスーパーに向かう。
そしてスーパーで一緒に買い物をする。
「シュー、ポテチ欲しい」
「好きなの1つだけならいいぞ」
「じゃ~……コンソメ!」
「あいよ。で、今日は何食いたい?」
「チャーハン!」
「晩飯にか?俺昼飯のイメージあるし、俺が作った場合混ぜご飯の方が正しい気がするんだけど」
「でもシューのチャーハン食べたい」
「それじゃおかずは何がいい?」
「肉!!」
「なんの肉がいい」
「何でもいいよ」
「それじゃ……豚の生姜焼きでいいか。サラダも食えよ」
「え~。生野菜嫌い」
「胡麻ドレッシングあるからぶっかけて食べろ。その代わり嫌いなピーマンは要れないでやる」
「ピーマン生で食べた事ないよ?サラダに入れないでしょ」
「ち。バレたか」
そんな話をしながら買い物を進めているとなんだか妙な視線を感じる。
振り向いてみると奥さんだけだけではなく他の買い物中の奥様方からも何か温かい物を見るような目であり、コッペリアは笑いをこらえた感じ、愛香さんは感心したような表情をしている。
「なんだよ。俺何も変な事してないはずだが?」
「確かに変な事はしてないわね。それにしても父親が完全に板についてるじゃない」
「何言ってやがる。ドラコは俺の子供じゃなくて友達だ。そんなのみんな知ってる事だろ」
「でも柊君の行動がその、子供に対しての行動と言うか、お父さんみたいな感じでした」
「だってドラコの奴何時までも子供なんだから仕方ないだろ。それに俺も甘やかされて育ってきた自覚はあるし、菓子くらい買ってやれる。むしろ菓子1つでおとなしくしてくれるならそれでいい」
「あらダメよお父さん。あまり甘やかしちゃ」
「奥さん。冗談でもそう言う事言わないでください。学校に奥さんのファンクラブ実はあるんですよ。あいつら敵に回すとマジで面倒くさい」
と言うかファンクラブメンバー全員面倒くさいんだよ。
コッペリアもみんな強いから力尽くは無理だし、嫌われたくないから気軽にもいけない。
なので信頼されている俺から情報を手に入れようとしてくる連中が非常に多い。
あとはまぁクロウもファンクラブメンバーを作られそうになっていたが、すでに無料動画サイトの方でアイドル化しているような物なので結局作られなかった。
「あとドラコ。これはあくまでも提案なんだが、ちょっと話聞いてくんない」
「何~?」
「お前小学校から初めてみない?」
俺が考えていた事、それはドラコを小学校に通わせる事だった。
そりゃまぁ小学校と言うか、教育を受けさせるには結構な金が必要な訳で、教育にかかる金というのは年齢に関係なく高い物だ。
でもドラコがこれから人間として生きていくにはやっぱり小学校から始めるのが俺の中では1番いいのではないかと思っている。
他のみんなは人間に対して様々な形で情報を得ているが、ドラコの場合俺や学校のみんなくらいからしか情報がなく、全くの見ず知らずの他人と同じ時間を過ごすというのはやった事がない。
しかも同年代と言える存在と過ごした事があるとすれば、加奈ちゃんだけだろう。
実年齢は放っておいて、同じくらいの子供と長時間一緒に過ごすというのは経験がないはず。
それならいっその事小学校から始めた方が人間の事を深く知るいい経験になるのではないかと思う。
もちろん小学校1年生から始めるつもりだ。
「それ楽しい?」
俺の目をしっかり見て言うドラコは本当に純粋な目をしている。
中にはこのまま純粋なままでいて欲しいと思う親もいるかもしれないが、汚れてでもこの社会の中を生き抜く力は与えておかないといけない。
それもまた親の役目だと思う。
「楽しいかは分からない。いろんな子供が1つの施設の中に押し込められるんだ。問題が起きない訳がない」
「喧嘩してもいい?」
「それも自分で判断しろ。ただ気に入らないから殴ったってのが後からどんな風に見られるか考えたり、どうするか考える場所でもある」
「シューはどうしてた?」
「俺の場合は……遠くから見て楽しいと思えるかどうか判断してから友達になるかどうか考えてた。まぁ無理に自分から話しかける必要はないし、かと言ってずっと受け身でいる必要もない。まぁとりあえず好きにやって、人間同士の付き合い方を学んで来いって感じだな」
「……ふ~ん」
俺の言葉を聞いてドラコは少し考え始めた。
今日の晩飯よりも興味を引いた事に関しては上出来と言ったところか。
ただ問題はドラコはアンノウンである事。
俺の力で人間の子供と変わらない感じになりつつあるが、転生者よりも圧倒的な戦闘能力を持っている事は変わらない。
だから周りが、世界が許してくれるかは分からない。
でもドラコが本気で人間として生きる気があるのであれば、必要だと思う。
「ちょっと興味ある。かも」
「そうか。それじゃちょっと相談してみるな」
そう買い物をしながら俺は言う。
さて、またお偉いさんに頼んでみようかな。




