【傲慢】な人間
1月4日。
三が日が過ぎた今日俺達は神社にお参りに来ていた。
なぜこんな中途半端な日にお参りに初もうでに来たかというと、面倒臭かったからである。
別に出店で遊びたいとか、買い食いしたいとかそう言うのはなかったのでお参りするだけなら三が日過ぎてもいいんじゃない?という理由だ。
これに関しては全員から賛成を受けた。
俺と愛香さん以外は初めての正月。
テレビで見た想像以上の混み具合にドン引きしていた。
なのでもう混んでいないであろう4日目にお参りに来たわけである。
「あ~あ、来週からまた学校か~」
「仕方ないですよ。私達学生ですから」
「そうは言うけどさ、やっぱり冬休み短すぎるって。もうちょっとグダグダしてたかったな~」
「お気持ちは分かりますが、ずっとお休みもつまらないと思いますよ。学園に行って、帰って友達と遊ぶ方が楽しいです」
「……否定しきれないのが悔しい」
愛香さんの言葉にほんの少しだけ同意した。
毎日日曜日と言うのは憧れるが、ただ寝ているだけだったらすぐに飽きるだろうな~っとは思う。
でもこの場にいないベルだったらそれでもよさそうだけど。
ベルだけは徹底して寝正月を楽しんでいるのでこの場には居ない。
それからヒロとシンは朝に先生達から今後について説明すると言われ、今は学校にいる。
残ったメンバーで1日遅れの初詣は静かに過ぎていく。
「それにしても甘酒、飲んでみたかったな~」
「あんだけクリスマスに醜態晒しておいてまだ飲む気かよ」
「いいじゃない。他の日はほどほどのしておいたんだからいいでしょ」
「未成年の飲酒は禁止されております」
コッペリアに言いながら俺は呆れる。
あれだけ酒に飲まれていたのにまだ酒が好きとか、どうしようもない。
「まぁ柊ちゃん。もうすぐ冬休みも終わりだし、それまではちょっとだけ見逃してあげましょ。冬休みが終わるまでは」
「それは別にいいんですが、コッペリアがこんなに酒癖が悪いとは思いませんでしたから」
「そうね。何でもほどほどが一番。とりあえず帰って冬休み明けの準備でもしましょうか」
「そうですね。服とか色々持ち帰らないといけませんし」
そろそろ寮に帰る準備もしなければならない。
そう思っていながらクロウの家に帰ると、ヒロとシンが出迎えてくれた。
「あれ?そっちはもう終わったのか?」
「えっと、はい。条件付きですが一応許されました」
「そいつは何より。で、条件って?」
「その、来年度からゲンと同じ学園で活動する事になりました。シン様も一緒です」
「え、マジ?てっきり国に帰るんだとばかり思ってた。お仲間も大変でしょ」
「はい。私以外のみんなは帰国するから見送りだけしてきます。まだ心配ですが……」
「確かに心配だよな……何とか変えられないの?」
「やはりシン様が神に戻る可能性は捨てきれないから、ゲンとできるだけ一緒に居る方が良いって判断されたみたいなの。だから今年からこっちの寮にお世話になる事に……」
「それ母国から荷物送ってもらったり、色々大変じゃない?本当に大丈夫なのか?」
「だから来年度からなんだって。引っ越しとかいろいろ準備するための時間なんだって」
「そうか。それじゃどこかで帰国してこっちにまた帰ってくると。やっぱり大変そうだな」
「うん。だからしばらくは忙しいかも」
「そっか。それじゃ今の内にゆっくりして体力付けとけ。そうしないとやっていけないだろ」
「うん……ありがとうゲン」
それにしても来年度からヒロも一緒か。
俺の周りもにぎやかになってきたな。
「柊様。少しお時間よろしいでしょうか」
「ん?どうかした?」
「いえ、少しお話ししたいと思いまして。よろしいでしょうか」
「あいよ~」
コートをかけてから俺はコンが今使っている部屋に行った。
そこでコンが真面目な表情をしていたのでまたなんかあるのか?っと思いながら前に座る。
「それで、もしかして俺が直した世界の壁がまた空きそうになってるのか?」
「いえ、そう言った話ではなく、私達の話です」
「私達って俺も含めてか?」
「はい。柊様にも関係する話です」
「それでどんな話?」
「私達アンノウンも人間に近付いて行っているという話です」
…………やっぱりその話か。
「あまり驚かれないのですね」
「そりゃね。俺が神様になってから違和感はそれなりにあったから。分かりやすい所ではベルがなぜかぬいぐるみの姿じゃなくて人型を保ち続けているところだな。あと予想としてはこの間の飲酒問題。前世の頃もこっそり酒飲んだが、その時は全員素面だったのに今回は特別多い量じゃなかったのに酔いつぶれた。これも違和感があったんだよ」
「その通りです。私達も柊様の能力の影響、つまり私達も少しずつ人間に近付いて行っています。その内魔法の類も使えなくなる可能性は非常に高いです」
「お目の予想じゃどれくらいで人間になりそうだ」
「私の計算ですと、全員10年以内には完全に人間になるでしょう。それは柊様も含めてです」
「俺は元から人間だったから問題ないが、お前らは大変だろ。というかコッペリアの方は人間になってるのか?元々機械の身体だろ」
「いえ、コッペリアに関してはもうすでに人間になっています」
「え、マジ?」
「マジです。クリスマスの飲酒事件、コッペリアは機械の身体なのでどれだけ飲酒したところで酔う訳がないんです。アルコールを摂取しても吸収される事はないのですから」
「そ、それじゃクリスマスパーティーをしていた時には既に……」
「人間の体になっていたわけです。この速さに関しては私も驚きました。ただ転生者と言う超人がいるからなのか、それとも私達の事を知っているからか、戦闘能力などは低下していません。コッペリアの場合内部改造から外部からの装備に変更されたとでも言うべきでしょうか」
「な、なんでそんな急に……」
「おそらく機械の身体から人間の体に変わると言う矛盾を産まないためではないでしょうか。機械の身体から徐々に人間の体に変わっていくと言うのは矛盾が生じますから」
「な、なるほど?」
「もしくは、柊様がそれを願ったからかもしれません」
「俺が願ったから?」
「柊様は以前からコッペリアが人間になりたいという願望がある事を知っておいででした。ですから人間になれるチャンスがあれば人間にしてあげたい、という願いが今回の現象を生んだのではないかと」
「それって本当なの?俺マジで願っただけで人間じゃない存在をあっという間に人間にしちゃうくらいチートなの?」
「現状はそうです。ただしこの能力は柊様自身にも影響を及ぼしています」
「俺自身……」
「柊様は常に言っておりました。俺は人間だ、人間で良いと。ですが私達が完全に人間になるまではその能力は発動し続けます。言い方を変えれば柊様以外の人ならざる者が全て人間に変わった後に、柊様が人間になるっと言うのが現実でしょうね」
なるほど。
全ての人間でないものが人間になり、最終的に意味のない効果になったら俺も人間に戻るって言うわけか。
「シンの言う通り、【傲慢】だな」
「柊様……」
「俺は強制的にみんなの事を人間にしようとしている。これが傲慢じゃなくてなんて言うんだよ」
「……」
「俺はみんなの事、認めてるようで結局認めてなかったって事になるじゃん。天使のお前も、機械人形のコッペリアも、悪魔のクロウも、夢魔のベルも、神様の奥さんも、ドラゴンのドラコも、全員人間にするって事はお前達の事を認めてなかったって事だろ。俺はそんな自分自身に、失望してるよ」
結局俺も上辺だけだったという事だ。
俺は結局、人間同士で仲良くしたかっただけか。
「柊様。私達は決して――」
「悪いコン。もう一回自分だけで考えてみたい。俺は本当にどう考えているのか、自分で自分の事をもう少し深く考えてみたい」
「私達は決して嫌な事などありません。種が違えども、共に生きていた事実は変わらないのですから」
そうコンは言ってくれたが、やっぱりもう少し考えてみたいと俺は思った。




