飲酒ダメ。絶対
風呂から上がるとそこはもう飲み会会場だった。
全員ジョッキやワイングラスを持ってお菓子やつまみを食べながら話している。
テーブルの上には様々な種類の酒が置かれており、誰がどれを飲んでいるのか分からない。
「お前ら……未成年の飲酒はやめておけって言っただろ。それに配信中に未成年の飲酒って垢バンだろ」
「もう配信は切ったよ。さすがにこんな光景を見せる訳にはいかないからね」
クロウがワイングラスで優雅に飲みながら言った。
「おい中学生」
「年齢だけね。実年齢で換算すれば僕は成人してるから」
「それでもその体中学生だろうが。身長のびなくなったりしても知らねぇぞ」
未成年の飲酒が体にどんな影響を与えるのかよく知らないが、悪影響だからこそ禁止している事くらいはバカな俺にも分かる。
よく見ると既に愛香さんはつぶれているようで、顔を赤くしながらソファーで寝ている。
「愛香さんにまで飲ませたのかよ」
「愛香お姉さんはそんなに飲んでないはずなんだけど……もう潰れちゃった」
何で愛香さんまで飲んだんだろうと思いながら、もう飲み会と化したテーブルに座る。
「あら?シュウも飲むの?」
「少しだけな。日本酒くれ」
「あなたも結局悪い子ね」
「当然だろ。悪と言われた連中と前世の頃からつるんでるバカだ。飲酒程度問題ない」
「それじゃジョッキで一杯」
「……これ一気飲みしろとは言わないよな?」
何故か日本酒をジョッキで注がれる。
コッペリアは本当に機械の身体なのかと聞きたくなるようなほろ酔い状態で、顔も赤くなっている。
他のみんなも顔がうっすらと赤くなっていて絶対に酔ってるよな。
まぁつまみ食べながらちびちびやるけど。
「で、こんな色んな酒飲みまくって大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょ。私の体なんて機械なんだから酔いようがないわよ」
「そう言うわりには顔が赤いような……」
「問題ないって。それより次はこのワイン飲みなさいよ。コンが持って来たにしては良いワインよこれ」
「私にしてはとはどう言う意味ですか。これでもワインにはこだわりがあるのですが」
「だってあんた持ってくるワイン安っぽい奴が多かったじゃない。これあんたの世界産だって聞いてるけど、ずいぶん味が良くなったわね~」
「あくまでもし好品ですから。今年はワイン用のブドウのできが良かっただけです」
「へ~。あんたが品種改良のまねごとと化するとは思えないんだけど~」
「ですから、品種その物は何も変わっていません。ただの生育状況が良かっただけです」
…………本当に酔ってないんだよな?
どう考えてもコッペリアが絡み酒をしているようにしか見えないんだけど。
大丈夫なのか心配していると、ドラコが……ドラコ?
「ドラコ、お前大丈夫だよな?」
「ん?ドラコは大丈夫だよ。シューどうかした?」
「いや、だってお前色々と……」
変わり過ぎていた。
顔だけではなく体まで真っ赤になっているのだから大丈夫かと聞きたくなる。
というか見た目完全に子供の飲酒だから普通にアウトな絵面なんだが。
「本当に大丈夫か?水いる?」
「まだ大丈夫。日本のお酒って強いんだね~」
「ほ、本当に大丈夫か?」
何か既に目が回ってる気がするんですけど!?
これは明らかに異常事態だ。
俺はコンを見るとコッペリアにウザ絡みされながらも言う。
「おそらくですが柊様の影響を受けているのかも……」
「俺の影響?」
俺何かしたっけ?
コンもどこか眠たそうにしているし、酒のせいで眠たくなっている可能性が非常に高い。
でも本当におかしい。
俺と愛香さん、ヒロ以外は全員人間じゃないはずだぞ。
それなのにまるで普通の人間のように酔うなんて……
「おそらく柊様の人間と言う影響が、私達にも……影響しているのでは……ないかと。思い……ふぁ……ます」
「つまり俺がみんなの事を人間として見ているから肝臓も人間と同じようになっていると?」
「そう、ではないか……と」
コンも酔っているのかテーブルに潰れていく。
真相はともかく、本当にみんなよって潰れてしまっている事だけは本当らしい。
と言ってもベルだけは普通に寝ているみたいだが。
俺はため息をついた後、全員それぞれの部屋に運んだ。
本当は水とか飲ませる方が良いんだろうが……完全につぶれてるからな。
水を飲ませる余裕もない。
それじゃせめてベッドの上に動かしておくことくらいしかできない。
全員を部屋に運ぶと、ヒロがテーブルの上の物を肩付けていた。
「俺やるからさっさと風呂入って寝たら?」
「……ちょっとでもこういう事しておきたいから」
「そうか?それじゃ空になった奴こっちに持ってきてくれ。食器とかは俺が洗うから」
「分かった」
ヒロが持ってきた皿や茶碗を俺は手で洗った。
食器洗いもあったが使い方が分からないので手で洗う。
一段落してソファーに座ると、ヒロはワイングラス2つとぶどうジュースを持ってきた。
「食器洗った後にジュース出すなよ」
「これくらいは良いと思う」
「まぁそうだけどさ」
ジョッキ一杯とはいえ酒が入ったのでジュースなどで少し口の中をさっぱりさせるのはちょうどいい。
雰囲気作りのためか、ワイングラスで飲むジュースと言うのは学生らしくていい。
ちょっと背伸びしているくらいが良いのだろう。
「ゲン。私とシン様、どうなるのかしらね」
「さぁな。こればっかりは俺一人で決められることでもない。今はお前達を日本まで誘導した人物の特定も頑張ってるみたいだし、しばらくはここに居ていいだろ」
「でも……仲間の事もあるから」
もしかしたら自分の今後より、仲間の今後の方が気になっているのかもしれない。
ずっと浮かない表情でいるのはそれが原因だろう。
「ま、もしなんかされそうになったら助けてやるよ。一応世界を救った事にはなるらしいし」
「初のアンノウンの無力化が神様ってすごいね、ゲンは」
「別に。俺も神様になるって言うチートを使ったんだ。お前らみたいに人間として最後まで頑張ったとは少し違うと思う」
「でもシン様が言ってることも分かるの。どれだけ正義をかざしても、結果が付いてこなければ全部無駄。正義じゃない」
「……それは流石に寂しすぎないか?正義のために頑張ってきたのに、負けたからってそれが全部なくなったって思うのは」
「でも、あの世界は救えなかった。結局残った人達はゲンの友達が信者として保護した。それは今も変わらない。どれだけ助けたいって思っても、実際に助けられなければやっぱり、意味はないんだよ」
確かに誰かを助けると言う行為は、結果が求められると思う。
だが結果が想像と違う物だったからと言って、やはりその過程もすべて否定されるのは少し寂しい。
「ヒロ。俺がお前にヒーローになれって言ったけど、そのために正義の味方になろうと頑張ってたお前の事を否定したくない。否定させるな。俺はお前の努力を肯定する」
「ありがとゲン。でもやっぱりやり方が間違ってたのも今なら分かる。あまりにも強引すぎて、いろんな人を否定して自分達のやり方を押し付けるのはやっぱり間違ってた。だからこの世界では二度とそんな事をしないように頑張る。いろんな世界で、色んな正義を行ってきた人達がいっぱいいるから、否定しちゃいけない」
「ヒロ……」
「だからこのバカンスが終わったらヨーロッパに帰るよ。まぁどんな処罰になるのかは分からないけど」
「二度と会えないのだけはごめんだぞ。ようやくこうしてまた隣に居られるようになったんだからな」
「うん。私もそうしたい。それじゃお休み、ゲン」
「お休みヒロ」
俺はそう言ってグラスを洗ってから部屋に戻ろうとする。
すると電気を消したくらいリビングでシンが姿を見せずに聞いてきた。
「お前はこの世界で唯一無二の神となった。その意味分かっているか」
「分かんないね。最低でも俺は、今でも人間のつもりだ」
「そうであっても神である自覚もあるのだろ。決して忘れるな、お前もまた人間ではなくなったことを」
「忘れたつもりはないんだけどな」
ただ人間でいられる間は人間でいたい。
そうじゃないと俺は俺を保てない気がするから。




