人間として裁く
神様をノリと勢いだけで押し倒し、クロウからもらった手錠で両手を拘束した。
「よっしゃ勝ったー!もうこれで勝ちでいいよな?」
「はい。これでもう主は抵抗できません。勝ちなのは変わりません」
それをコンから聞いた俺はようやく息を吐き出せた。
できるだけ緊張を感じさせないように話していたが、うまくいっていたのかは分からない。
でも結果的にこうして捕まえる事が出来たのだから上出来だろう。
「それからコン。一応俺って神様になっちゃったんだよな?」
「はい。その通りです。しかし」
「分かってる。俺自身の能力でたいそれたことは出来ない、だろ。だからコッペリア!ちょっと頼みあるんだけど!」
「一体何よ。戦った後で疲れてるんだけど」
「コッペリアの体のスペアみたいなの持ってない?それにこの人の魂移したい」
「ああなるほど。それならこれをあげるわ」
そう言ってコッペリアが軽い感じでくれたのはコッペリアの世界に住む人達の体だ。
いわゆるアンドロイドと言う奴で、これにこの神様の意思を移し替える。
「それにしても随分大人しいな」
「悪ではなく普通の人間に敗北したのがかなりショックのようですね。ここまで黙ってる主は初めてです」
コンも珍しそうに言う。
どうやらこの人がここまで静かにしているのは本当に珍しいようだ。
みんなでこのアンドロイドにこの人の魂を移動させようとしているとこの人は言う。
「私の事を完全に消さないのですか」
「う~ん。せっかくこれから楽しい事をするのに血を見るのは嫌だな。それにヒロの事も思い出したし」
「彼女の事を?」
「うん。神様になるには俺の魂を完全に修復する必要があったみたいでさ、だから前世の事も全部思い出した。そしてヒロは……お前らに会う前から友達だった」
俺とヒロは幼馴染と言う奴だった。
子供の頃のヒロは虐められていた。
女の子なのに戦隊物、ライダーシリーズに似た物が好きで女の子なのに本当にヒーロー物が好きだった。
それが他の男子や女子からは奇妙に思われていたのだろう。
女の子向けの魔法少女物にはあまり興味を持っていなかった事も原因かもしれない。
余計に女の子なのに男の子趣味という、たったそれだけの、しょうもない事でいじめられていた。
そんな中で俺が偶然ヒロと会い、友達になる。
俺はヒロの趣味を肯定し、特に気にすることなく遊んだ。
そこからヒロに懐かれ、名前も男の子みたいで嫌だと言っていたので、あだ名をヒーローにすればと言ったら本当に嬉しそうに笑っていた。
そんな純情とも言える正義への憧れをこの自称絶対正義の神様に目を付けられた。
そしてコンたちが台頭してきたときに本物のヒーローとして戦っていたっという事だと思う。
「拷問で魂が傷ついたのが原因とはいえ、ヒロは別に俺の事を嫌ってたわけじゃないしな。助けられるなら助けたい」
「なるほど。敵対して痛みからすると複雑ですが、仕方がありませんね」
コンは大袈裟に言うが、本気で俺の行動を止める気もないのだろう。
ただ黙って俺の事を見ている。
俺はすぐに神様とヒロを分離させる。
この辺りの知識は俺の魂を修復されるのに使われた魂達の記憶によってどうすればいいのか分かる。
どうも俺の魂はコン達の魂だけで修復されていたわけではないらしい。
死にかけていた時、数えきれないほどの多くの白い人型のシルエット達が俺を生かそうとしてくれていた。
何か言葉をかけられた気はするが……きちんとは覚えていない。
でも最後のシルエットが、『母さんの事、お願いします』っと言っていたから、多分奥さんの子供もいたのではないかと勝手に予想している。
奥さんは元神様だし、その子供も神様なのは当然だ。
だから俺は勝手に奥さんの子供も俺の事を助けてくれたと勝手に思うことする。
そんな色んな神様達の力を借りてヒロと神様の魂を丁寧に切り離し、神様の魂をアンドロイドの中に定着させた。
そして少し待つと、ヒロは涙を流しながら俺の事を見上げた。
「ゲン……ごめんなさい。ごめんなさい……傷付ける気はなくて、でも体が全然動かなくって……もう、どうすればいいのか分かんなくって……」
「よしよし。俺が安易にヒーローになれっていたのも悪いんだ。お前ただ本物のヒーローになろうとして頑張ってただけ。でもまぁあれだ。これからは今の友達とも仲良くしてくれると嬉しい」
「でも……私、神様と一緒に悪い事してた。洗脳して、無理矢理言う事を聞くようにさせて、それをずっと、繰り返して……もうどう償えばいいのか分かんないよ……」
「確かにそれは俺も分かんないな。いっそのこと全部神様のせいって事で押し付けちゃえば?」
「それは……ダメだと思う。だからこれからは、ちゃんと償いながら生きたい」
「そうか。それじゃまずは……後ろにいる人達にごめんなさいしようか。多分そんな小さなことからでいいんだと思う」
「うん。ちょっとみんなに謝ってくる」
そう言ってヒロは仲間に謝りに向かった。
俺が世界中の人の洗脳を解いた時、ヒロの仲間の洗脳も解けている。
本人達は少し複雑そうではあるが、そこまで恨んでいる様子もない。
いい方向に転がると良いな。
そう思いながら俺は神様の方に視線を送る。
新しい体を手にした神様は意外とおとなしく女の座りをしている。
今の神様は典型的な日本人型であり、地味と言ってもいい。
「さて、お前は……どうしようかな」
「考えていないのですか」
「そりゃね。神様を捕まえる事が出来るなんて想像もしたことがないから」
「本当に、普通の人間の考える事ですね」
「そりゃ神様捕まえるよりはサンタクロース捕まえに行くって言う方が現実的だ。知ってる?サンタクロース協会って実在するらしいぞ。だからその協会のサンタを捕まえればある意味達成できたって言ってもよくない?」
「そんな事は知らん。それよりも早く殺せ。神としていつまでも人間に捕まっているなどという不名誉はこれ以上はうんざりだ」
おっと。少し言葉使いが荒くなってきたな。
でも殺すね~。
正直敵味方重傷者は出ても死者は出ていないんだ。
いくらラスボスであっても安易に殺すという最終手段はできるだけ避けたい。
そうなると……
「なぁコン。今のこの神様ってさ、人間と変わらないんだよな」
「その通りです」
「つまり……寿命とかも存在するよな」
「当然です。人間ですから」
「よし。それじゃ終身刑にしよう」
「ほう。それはどのような意味でしょうか」
コンは俺の言いたい事を既に分かっているようだが、わざとらしく聞いてくる。
他のみんなも俺の言いたい事が分かっているようで、ため息をついていたり、呆れ返っている。
そんなみんなの反応を楽しみながら俺は神様に言う。
「お前は人間として生きて、寿命を迎えるなり病死したり、事故って死ぬまで生き続けろ!以上!!」
「な!?」
神様だった存在に人間として生きろ。
それが神様にとって屈辱となるのであれば、それをさせる方が反省と言う物を味あわせる事が出来ると言う物だ。
あ、そうなるとこれだけは決めておくか。
「あと今思いついた。これからお前の名前はシンな」
「名前まで付けるのか!?」
「え~だってこれからも神様だった存在とかって呼ぶの絶対面倒だし、名前は必須だろ?これから人間として生きていくわけだからさ。あ、ちなみに名字はヒロと同じ天音な。天音シン。俺の名字使われるよりはマシだろ?」
神様改めシンは屈辱と怒りをごちゃまぜにしたような表情で俺を睨む。
まぁ俺の名字はありふれた佐藤だから別に同じ名字でもいいんだけどさ、他のみんなが激しく反応しそうなんだよ。
だから勝手だけどヒロの名字を使わせてもらう。
そう思っているとコンは必死に笑いをこらえていたが、結局こらえきれずに噴き出した。
その理由は分かっているが、そこまで笑うほどか?
「おいコン。そんな笑わなくても当然の枷だろうが」
「で、ですが……あの最強の神に、人間として生きさせて、しかも人間と同じような名を与えられるとは……これ以上の屈辱はないでしょう!フハハハハハ!!」
「完全に笑い方が悪役だな。まぁいいけど」
こうして神様はどうにか撃退した。
神様から人間にして捕まえると言う本当にこれでいいのか?っと言うオチだが、俺に人を殺す根性はないので許していただきたい。
とりあえず明日のクリスマスイブは楽しもうっと。




