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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【傲慢】な人間
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やっぱりみんな強い

 正直言って俺は前世の記憶がほとんどない。

 だから彼女の言葉がどこまで本当であり、どこからが適当に言っているのか分からない。

 でも彼女の感情的な発言は嘘をついているようにも見えなくて困惑している。


 でもコンが言っていた俺の魂が欠ける原因、拷問を行っていたのは覚えている。

 正確に言うと記憶にあるのではなく心の奥底で体が覚えていると言うべきか。

 拷問と言う言葉を聞くと骨の芯から寒くなるような感覚がして動けなくなる。

 何よりみんなが嘘をついているような感じもしない。

 多分行き違いのような物があったのではないだろうか。

 もしくは単に彼女は俺が彼女の陣営に拷問されていたことを知らなかったか。

 まぁ彼女の陣営と言ってもただの予想でしかないけど。


 そして今現在の彼女は愛香さんと戦っている。

 おたがいに聖女と言われているからなのかもしれないが、なんとなく戦い方が似ているような気がする。

 愛香さんの方は両刃の片手剣と左腕に丸くて小さな盾を装備、彼女の方は両手で使う両刃の剣。

 愛香さんの方は身軽さで彼女の鎧の隙間を縫うように攻撃しながらも、盾で剣をいなしながら強力な一撃を狙っている。

 そして彼女の方は剣と愛香さんよりも面積の広い鎧で守りながらカウンター気味に強力な攻撃を入れようとしているように感じた。


 と言ってもコッペリア達の戦いで目が慣れてきたからこそ見える訳だが、他の普通の人から見れば真剣で殺し合う姿はとても見ていられないだろう。

 おたがいに手や足、顔に小さな切り傷が出来ている。

 剣と盾、剣と鎧がぶつかり合うたびに激しい鉄と鉄がぶつかる音が鼓膜を振るわせる。


 そしてスポーツと一番違うのは相手を殺すつもりの攻撃が混ざっている事だ。

 相手の目、足首、肘などの関節を狙った攻撃は当然とでもいう感じで一切の遠慮なく武器を振り下ろす。

 正直怖いと感じるが、それが当然と言う雰囲気が、戦争という言葉の重みを感じさせる。


 鍔迫り合いから互いに跳んで愛香さんと彼女は距離を取り、息を整えながら言う。


「やっぱり強いですね。人間を相手に血を流したのは久しぶりですよ」

「それはあなたの鍛錬不足では。確かにアンノウンとばかり戦ってばかりでしたが、対人戦は常に想定しておくべきです。やはりこの国は平和ボケしていると言わざる負えませんね」

「仕方ないじゃありませんか。ここは私達がずっと戦い続けた世界とは違う。戦える人間は私だけじゃない。私達だけじゃない。あの時と比べたらもの凄い多くの人が私達と一緒に戦ってくれている。だから平和ボケしてたのかもしれませんね」

「……そうですね。でもあなたと一緒に居る悪だけは許せない。あの化物達の肩を持つと言うのであれば人間であったとしても容赦なく叩き伏せます」

「……それじゃちょっとだけ私の醜い所でも見せましょうか」


 なんか愛香さんが意外な事を言ってきた。

 一体何を言うつもりなんだろうと思っていると、愛香さんは言った。


「正直コッペリアさん達は消えてもらいたいと私も思っています」


 ……マジで意外な事を言った。

 愛香さんはコッペリア達ともうまくいっているのでそんな風に思っていないとばかり思っていた。

 だが愛香さんは続ける。


「私だってまだ一度も倒されていないアンノウンがすぐそばにいて怖くないと思えばウソになります。アンノウンだって確信が持てる前だって何か違和感を感じていました。これでも前の世界では人型の魔物が人間のふりをして攻撃してきたこともありましたから。私と似たような人も多いのでみなさんコッペリアさんが姿を現した時は違和感を覚えていたと思いますよ。彼女は人間の形をしているだけの別の生き物だって」


 愛香さんがそう言うと彼女は満足そうな笑みを浮かべた後、不思議そうな表情をした。


「それではなぜ化物を放置していたのですか?」

「簡単な理由ですよ。柊君が止めたからです。柊君が友達だからと言ったからです。最低でも私はそんな理由ですよ」

「……それだけですか?」


 残念ながら俺も彼女の意見に同意してしまった。

 確かにクラスメイトの1人が友達と呼んでいるのであれば躊躇ためらうかもしれないが、だからと言って放置するほどでもないと思う。

 それに関しての答えも意外だった。


「それだけですよ。だって好きな男の子が友達だからやめてくれって言われたら剣を抜くわけにはいかないじゃないですか。実は私、とっくの昔に好きだったんですよ」


 最後のセリフは俺に向かって言われたので俺はつい頬をかいてしまった。

 気付いてなくてごめんなさい。

 心の中の謝罪が届いたのかどうかは分からないが、愛香さんは彼女に向き直した。


「だから簡単に言えば惚れた弱みっていう奴です。それに私の知らない柊君がどんな人だったのか知りたかったですし、だから友達になりました」

「そんな……そんな理由で悪を認めたのですか?」

「逆に聞きますが何故コッペリアさん達をそこまで認めないのですか。神々であっても悪性を司る神も私がいた前の世界でいました。飢餓、病気、死、様々な神がそう言った人間には不都合な神も居ました。彼らに比べれば可愛い物ですよ。コッペリアさん達は」

「神の場合はそれが役割だからです。人類の発展に必要な物だからです。ですが彼らは違う。“終わらせる”んです。それ以上先に進めなくするんです。人類の発展は、成長は終わるんです。そんな彼らが悪でないと本当に言い切る事が出来ますか?他のアンノウン達のように倒さなくていい理由になりますか」

「その時は私だって剣を取ります。あなたの言うように世界を終わらせる存在だと決めた場合、私は剣を取ります。ですが今はその時ではない。だからあなたも注意深く監視するくらいに留めておくことは出来なかったのですか?」

「……できる訳がないでしょ」


 彼女は怒りをにじませながら言った。


「あいつらのせいで!!あいつらのせいでゲンは殺された!!本当は知ってる!!ゲンがあいつらと仲良くしてるって情報を掴んだ過激派がゲンを殺したって!!でも私が知った時はもう遅かった!!殺された後だった!!私は助けられたのに私は助ける事が出来なかった……それが何よりも悔しくて、それが情けなくて、もう復讐するしか頭にないの。復讐する事しかゲンに償う方法がないの!!ヒーローになれたって言えないのよ!!」


 その言葉に俺は何かを思い出せそうな気がした。

 世間話の延長線上でしかない、多分俺にとってはなんて事のない内容。

 でもその内容が非常に重要な気がして――


「ですがそれもこれまでですね」


 ふと気が付くとコンが姿を現していた。

 それに続くようにコッペリア、クロウ、奥さん、ドラコ、ベルが現れた。


「お前ら!結界だがに閉じ込められてたんじゃねぇの!?」

「あんなもの突破できるに決まってるでしょ。それに時間がかかったのは結界内にいた連中を倒すのに手間取っただけ。あいつら平気で核兵器まで使ってきたからその処理の方が大変だったわ」

「あいつらホントくだらない事に金使うよ。あの程度で僕達に勝てる訳ないのに」

「本当よね~。あんな危険な兵器をどんどん使う物だから、ほとんど自爆に近かったわね……」

「危ないらしいから全部壊してきた!!」

「すぴ~」

「ベルだけ寝てて反応ないんだけど、大丈夫なんだよな?」

「大丈夫だと思いますよ。おそらく強制転移させる前に自身の世界に移動していたのでしょう。ベルを担当するはずの結界内では戦闘が行われていないようです」


 コンの説明に流石ベルだと思った。

 無駄な事は一切しない。

 そして代わりに寝続けるというスタンスは一切崩れていない。


「そんな……各国から取り寄せた兵器が……」

「それにあなたの完全敗北ですよ。天音あまねヒロ。あなたの仲間は全員殺さず捕縛しました。これを屈辱的な敗北と言わずに何と言うのでしょうか」

「な!?」

「え、殺してないの?なんか殺す気満々に聞こえてたんだけど」

「殺してないわよ。多少傷は負っているものの、重症にはしていないわ。何故か自殺しようとする者達は捕縛しておいたわ」

「ドラコは殺してないよな?な?」

「全員殴って気絶させた」


 どうやら本当らしい。

 つまり俺の要望をしっかりと聞いてくれていたわけだ。

 俺は驚きと安堵に息を吐き出すと、彼女は震えていた。

 その様子を見てコン達はなぜか引き締める。


「問題はここからです」

「ここから?」

「なぜ彼女が聖女と言われているか分かりますか?」

「いや全然。全く知らない」

「簡単ですよ。彼女が元凶の器ですから」


 そうコンが言うと彼女からまぶしすぎる光が発生したかと思うと、全く違う姿に変わっていた。


「あれが私の元主、絶対正義の神です」

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