まだ諦めていないようです
「コン。俺やっぱり神様になる気はないや」
屋上でコンと二人っきりになった時に俺はそう言った。
そしてコンは予想通り残念そうな表情をしている。
「そうですか。柊様なら当然の答えですね」
「断られるって分かってたのか?」
「そうですね。そちらの可能性の方が圧倒的に高い事は分かっていましたから、泣き落としでうまくいくかな?くらいの物です」
「そんなにうまくいく可能性低かったんかい」
「当然です。柊様の友人でもあるのです。柊様が人間に拘っている事は知っています。しかしもう一度、なぜ人間に拘るのかお聞きしてもよろしいですか」
「別に。人間は人間以外の何かにはなれない。そう思っているだけだ」
思っている事を正直に口に出すとコンはため息をつくように息を吐き出してから言った。
「柊様の言う事は間違いありませんが、柊様はその常識を覆す事が出来る事も事実です。それでも人に、人間に拘ると」
「当然だ。俺がお前達を愛せる要因が人間だと思っている。お前達を愛せない俺は俺じゃない」
「それは……困りました。私達は柊様に愛してもらえる事を至上の喜びとしているので、それがなくなるのは大問題。分かりました。この話はなかったことにさせていただきたい」
「それは別にいいよ。元々その世界の壁って奴が気になってただけだし。その世界の壁ってコンに直せるの?」
「直せますが時間がかかります。それだけこの世界の壁は穴が開いているとご理解いただけると助かります」
「そっか。まぁ残業にならない程度に頑張ってくれ」
そう言ってから俺は思いっきり背伸びをした。
やっぱりみんなに相談して正解だったな。
色々スッキリしたし、やっぱり俺は人間だという結論は変える事が出来なかった。
「しかし柊様。1つ問題があります」
「問題?世界の壁って奴か?」
「いいえ、それではなく私達を狙っている前世の世界から来た転生者達の動きです。どうやらこの世界で私達に戦争を仕掛けるつもりのようです」
「戦争ってたった6人に?」
「はい。そしてこの学園を戦地に選んだ模様です」
「げ!!」
この学校を戦場に選んだ!?
「大問題じゃねぇか!!すぐに校長達に連絡しないと!!」
「連絡に関しては既に報告済みです。学園側もこれに対処しようとしていますが、すでに日本国内に潜入。現在は協力者の下で武器を揃えているようです」
「日本で武器を揃えるって相当難しくない?というかそいつら本当に正義の味方?やり方がテロリストかなんかなんだけど」
「前世の経験がありますからかなり警戒しているようですね。それにあの世界のように好き放題できる訳ではありません。まだこの世界は壊れかけておらず、私達を倒すために民間人を巻き込むような戦い方は禁止されております。なので方法は今までとは違うでしょう」
「つまり?」
「いきなり核ミサイルを私達に向かって発射するような事だけはないという事です」
「全く安心できない!というかあいつらそんな事してたの!?民間人が居るって分かっていながら核ミサイルぶっ放すとか正気の沙汰じゃねぇぞ!!」
「それくらい切羽詰まっていたという事です。そしてそれが正義の神のやり方です」
「どこが正義だよ。それなら素直に破壊神とでも言ってくれてる方がしっくりくるぞ」
「彼らが信仰していた神は自分達こそが正義、故に正義を勝ち取るまでの過程は勝利する事で全て許されると言う洗脳をしていましたから。彼らはどのような被害を被ったとしても、発生させたとしても勝利する事が大前提で動いていました」
「そりゃ負ける事を想定した戦争なんてないと思うが、だとしてもやり方ってものがあるだろ。え~、そんな狂戦士集団がやってくんの?マジで??」
「おおマジです。と言っても彼らの戦力は千人程度、これを6人にで行えば確実に勝てます」
「……殺さないようにって言ったら殺さないでくれる?」
「少々難しいですね。向こう側からすれば私達は世界を終わらせた敵、彼らにとっていい復讐の機会でしょう。つまり全力で私達の事を殺しに来ます。それを私達だけ殺すなと」
「うぐ。かなり難しい事を言ってるのは分かるが……やっぱ無理かね?」
俺がそう聞くとコンは何かを考えるそぶりを見せる。
「そう……ですね。これに関してはそれぞれのやり方、としか言いようがありませんが、それぞれの世界に押し込む事が出来れば可能かもしれません。ですが出来ないでしょう」
「何で?自分達の世界ならできるんじゃないの?」
「そうではなく私達の世界、つまり彼らにとっては敵地です。しかも私達が有利に事を進める事が出来る空間。そこに彼らが侵入してくるとは考えられません。無理矢理押し込むのも難しいでしょう」
「……そっか。それじゃ仕方ないか」
無理な事をさせてコンたちが傷つくのは嫌だ。
こればっかりは仕方ないのか……
「やっぱ俺の考えは甘いな」
「いえ、戦場を知らない者として真っ当なお言葉です。戦いであっても出来る限り命を奪わない、その方が美しいでしょう」
「でも俺は戦争を知らない。そうしなきゃいけないって頭では分かっていたとしても、出来る限り避けたいって言うのはやっぱり戦争じゃあまいって言われるんだろうよ」
「そしてその戦争の中でその美しさは消えていきます。人を傷付けることが当たり前で、傷付けたところで何も感じない。柊様は過去の記憶がないとはいえ、拷問されてお亡くなりになった事は覚えておいでですよね」
「なんとなくってレベルだけどな。子供の頃映画で拷問されるシーンを見たら、フラッシュバックした。思い出したのはその時だけど、多分全体の一部だけな気がする。一気に情報が頭の中を駆け巡った気がするんだが……どういう訳か全然思い出せん」
「それは思い出したくない事だからです。柊様の記憶の欠陥はそう言った無理に思い出したら自分自身の魂が壊れてしまうと察しているからこそ思い出さないようにしているのです。ですからこれから先も思い出さないようお願いします」
「それと関係あるのか?お前らの魂を分けてくれた事」
「はい。私達が柊様を発見した時、すでに拷問によって肉体だけではなく、精神も魂も傷ついておいででした。なので私達の魂の切れ端を使い、柊様の魂を修繕いたしました」
「それが神様になれる理由か。そしてその時傷付いた魂の傷のせいで前世の事のほとんどが思い出せないと」
「……はい。そして私達の事を覚えているのは私達の魂を使って修復した事で私達の記憶と少し混ざってしまっているのかもしれません。そして単に私達のこと覚えていてほしいという願いを、汲んでいただいたのでしょう」
「なるほどね~。前世の自分の名前も顔も思い出せないのに、お前達の事だけははっきりと覚えている理由がようやく分かったよ」
ほんの少しの疑問。
正確に言うと気にするほどでもないと思っていた疑問がようやく分かったという感じ。
自分自身の事もろくに思い出せないのに、なんで友達の事だけははっきりと覚えていたのか、小さな疑問だったがスッキリした。
「でも他にまだ思い出せてない大切な事ってあるのかな?」
「それは柊様ご自身の感覚としか言いようがありません。前世のご家族について思い出したいと言うのでしたらご協力します」
「ありがと。でもやっぱり思い出せないし、思い出そうって本気で思った訳じゃないからいいよ。やっぱ死んで前世の事を忘れるって言うのは一種の救いなのかもね」
「…………それも人間だからでしょうか」
「多分ね。永遠に生きると事を前提にしていないからそう言えるんだと思う。それから友達をぶっ殺そうとしてる連中が気に入らないから協力するよ。殺し合い以外で」
「ありがとうございます。ですが危険ですので私達にお任せください」
そう丁寧に頭を下げられながら断られてしまった。
あ~あ、戦争なんて嫌だな。




